第2話 初めての執筆を経て小説投稿
小説を書く事は簡単ではない。
その事を光輝はパソコンのモニターと向かい合って初めてそれを実感している、普段好きで見ている異世界ファンタジーの作者はこれを毎日投稿し毎日光輝はそれを楽しみに見ていたが自分で執筆となると思うように筆が進まない事ばかりだ。
この展開は違う、此処はそうじゃない。今この人物が喋るのは違うんじゃないかと文字数を1000文字書いても不自然を感じて1000文字丸々削ってやり直し。
学校の作文や読書の感想文などを書いてはいたが光輝はその頃よりも遥かに、真剣に文字と向き合っていた。
「光輝、おやつよー」
母親の麻美子が光輝の部屋のドアをノックと共に3時のおやつである事を告げる声は光輝の耳に入って来る。
「後で食べるー…」
今手が離せないとばかりに光輝はキーボードを動かし文字を打ち込んで行く、頭の中にあるワンシーンを今のうちに書かないと忘れそうだからだ。
小説を書き始めてから午後の楽しみである3時のティータイムにはすぐ食いつかなくなる光輝、おやつが嫌いになった訳ではなく甘いもの好きな彼にとって魅力的な誘いだがそれよりも執筆の優先順位は上だった。
光輝はこんな感じで良いかなとワンシーンを書き終えると部屋を出て降りて行きリビングに用意されているおやつを手に付け始める。
書いた後のチョコチップクッキーが普段より美味しく感じつつ光輝の頭の中では次どう書いて行こうかと、次のシーンについて考えに入っていた。
夕飯のチキン南蛮、サラダ、ご飯、味噌汁と父親秋吉も帰って来て3人で食卓を囲みリビングに流れるバラエティ番組を見つつ秋吉はチキン南蛮を食べている光輝へと視線を向ける。
「しかし、お前が小説の執筆なぁ…正直父さん驚いたぞ」
秋吉はスポーツ万能であり学生時代モテた事経験がある、40となった今でもふさふさの黒髪でダンディーな魅力があり会社の女性社員から人気者の部長だ。
息子の光輝もスポーツの道に行くのかと思ったが小説を書いているとなって衝撃を受けたその日は今も秋吉には忘れられない。
「そうねぇ、小説家ってよく分からないけど大変そうよね。文字をいっぱい書いたり色々物知りでなきゃいけないとか」
おっとりとした雰囲気の母親麻美子、35歳の彼女だが若々しく20代でも通りそうな外見年齢。ロングヘアーの艶やかな金髪は光輝と同じであり光輝はその辺り母親の血を濃く受け継いでいた。
「その…やってみたいなって思って…」
小説を書いている以上言葉を扱うが光輝は上手く言葉を口に出せない、まだ小学生で言葉は色々知らず書いていく度に大手の検索エンジンに頼り意味を調べてばかりだ。
それは不思議と学校で勉強して学ぶよりも光輝の頭の中に入って行き言葉や意味は次々と覚えていく。
自然と勉強にもなっており、引っ込み思案な息子が珍しく自分から進んでやりたいと言い出した事なので秋吉も麻美子もやらせてみようと思った。
「やってみると良い、ただ大勢の人が見るかもしれないんだ。やるんだったら途中で止まらず最後までやりきるんだぞ」
「うん」
秋吉の真剣な眼差しと言葉に対して光輝は頷いて答え、夕食のチキン南蛮を食べきるのだった。
「はあ~」
風呂場の浴槽に浸かり丁度良い温度の湯の中で身体を清めると共に1日の疲れを癒す光輝。
5年生になって1人で風呂に入るようになり、光輝はこの間に自身が今書いている小説について考えていた。
「(探偵ものだけどミステリーじゃない、そういう謎解き考えられないし…名探偵役は主人公じゃなく相棒の怖い感じのおじさんかなぁ)」
頭の中で浮かぶ設定、主人公は高校生ぐらいのハッカーであり探偵事務所をしている知り合いの私立探偵の家に居候という感じで転がり込み探偵助手を務める。
怖い感じの探偵は30歳以上と考え、結構光輝の中では強面なイメージのつもり。
主人公は機械に詳しいが探偵は機械に詳しくないアナログな感じであり、スマホを最低限扱える程度だ。
「(名探偵だと何か結構行く所で事件起きてばかりで凄く人死んじゃってたりするけど、あまりそういう事無いようにしとこうかな…?)」
名探偵の話を書くなら何かと事件が起きないと話としては書きづらい、だからと言って不自然なまでに行く先々で事件が起きまくりなのも何か違うと光輝は考えていて頻繁に殺人事件に携わるとかお決まりである関係者を呼んでその中で犯人はお前だ、みたいなシーンは書かないでおこうと決めておく。
「(2人だけじゃ何か寂しい感じするから…)」
「光輝ー、何時までお風呂入ってるのー?」
「え?あ…!」
風呂場で夢中になって小説について考えていた光輝、麻美子に長風呂だと言われ気づけば既に一時間ぐらい風呂に入っていた。
いい加減出ようと光輝は風呂から上がり、続きは体を拭いて髪を乾かしてからパソコンと向き合って考える事にする。
人物設定、舞台、ストーリー、展開と色々苦労はあったがなんとか必死に考えて決めていき光輝はいよいよ記念すべき1話投稿までに辿り着く事が出来た。
後は投稿ボタンをマウスでクリックするのみだが、その一歩は初めてコメントした時よりも緊張する。
胸の鼓動が高鳴るのを感じつつ大丈夫かという不安があった。
「(だ、大丈夫…だよね?駄目だったらもうすぐに消して無かった事にすればいいんだから…)」
一生懸命考えた初めて執筆した小説、タイトルはファイナル・パスワードと決まり文字ばかりだが光輝の脳内では高校生男子のハッカー、強面の中年探偵、更に新たに考えた武闘派の女性警察官、その3人が並び立つ光景があった。
彼らを中心に描く物語を自らの手で作り出し、それが初コメントで喜んでくれたように皆楽しんでくれるのかどうか不安は大きく付き纏ってくる。
それでも意を決して光輝は勇気を振り絞り投稿ボタンをクリック。
この日から馴染みの小説サイトに新たに光輝の書いたファイナル・パスワードが投稿されたのだった。
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