第28話 打ち上げへ!
『ま、悔しい結果で終わったとは言え、『シャール杯』は準優勝だったんだ。健闘を祝って──打ち上げやらね?』
───きっかけは、河島さんのそんな一言だった。
「え?まぁ、いいですけど……」
『俺も問題ないっす』
『………ん、私も』
『いいよー。レディゴー』
『ふん、下らんな』
「kS1nを除いて行けるみたいです」
───それから嫌がるkS1nをなんとか説き伏せて、渋々参加させることに成功した。
そして、打ち上げの日の前日。
俺は予約していた新幹線の座席に乗り込んでいた。
打ち上げ場所は、東京の有名な焼肉店。
当日の便に乗っても間に合ったが、俺は今日みっちーと遊ぶ約束をしていた。
なので、こうして前日に出立することになった。
「東京かぁ。久々だな」
本当に地方の辺境、ど田舎に住んでいるため、東京は縁がない。年に一回、買い物だったりで来るか来ないか程度だ。
用事がないと訪れることはない。
ていうかそもそも、余程のことがない限りあまり遠出はしたくないというのが本音だ。
今朝のことを思い出す。
「母さん俺今日東京行ってくるから」
「え、急にどうしたのこーた。そんな遠くに行くなんて……」
「友だちと遊ぶ約束してんだ。……そんな訝しむような目で見ないでよ。本当だから」
「本当?大丈夫?騙されてたりなんかしてないわよね?最近はネットで知り合って、いざ待ち合わせをしたら誘拐なんて話も………」
「心配し過ぎだって。ほら、これ。連絡とってる友だちの連絡先とSNS。それに、確か俺のスマホにはGPSアプリ入ってるでしょ」
「………でも、それって普通のことなの?」
「…………。俺だってもう大人なんだ。都会に遊びに行ったりしたくなるなんて、よくあるコトでしょ?」
「でも………」
「母さんが心配するようなコトなんてないから。じゃ、行ってきます!」
「あ、こーた!」
───こうして、半ば強引に出立することになった。
母さんは心配性だから、遠出する際は説得がめんどくさい。
しかも今までの色々な後ろめたさもあって、今回は少し心が傷んだ。
(でも、今日は本当に遊びに行くだけだから。きっと"普通"だし………)
自分に言い聞かせる。
そうだ。友だちと遊んで、打ち上げするだけ。
なんの後ろめたさがあるってんだ。
「それにしても、打ち上げかぁ……」
正直な話、めちゃくちゃ楽しみだった。
チームメンバーたちとは初の顔合わせだ。
俺は配信で顔出ししてる河島さんくらいしか顔を知らない。
相棒のみっちーも、通話だけで顔を見たことはなかった。
(みんなどんななんだろ……)
みっちーは、多分イケてるんだろうな。
太郎は寝癖がすごそう。kS1nは絶対猫背。
コトねこは……想像もつかないな。
そんな風に期待に胸を膨らませながら、流れる景色をぼんやりと眺める。
打ち上げに、みっちーとの遊ぶ約束。
俺の胸は、今最高に高鳴っていた──────。
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