第26話 決着

「作戦はこうだ」

───数刻前。

 毒ガスを放ったポジから少し離れた岩陰。

「俺が裏から毒ガスを投げて、モンスターを困惑させる。だけど、それも一瞬だと思う。すぐに冷静に立ち直って、俺たちの体力バーを確認すると思う」

『……なるほどな。毒ガスに入ったらダメージが入る。それが通知となるワケか』

「あぁそうだ。おそらく、モンスターはここで三択を迫られる。毒ガスに突っ込むか、毒ガスが霧散するのを待つか、迂回して俺たちを叩くか、だ」

kS1nたちの方向からちょうど立ち塞がるように毒ガスは撒く。

 一応迂回してkS1nたちに向かう可能性もあるが、その場合はkS1nたちを避難させればいいため除く。

「毒ガスに突っ込むなら話は簡単。体力バーが減ったら狙い撃ちすれば良い。迂回するなら毒ガスの意味はなくなるから、うん。こちらとしては手痛い。でも───俺はこのどっちもしないと思うんだ」

『……根拠は?』

「ただの勘。いつもと同じさ」

『おっけ。じゃあ、モンスターは毒ガスが霧散するまで待つのな』

俺独特らしい、直感的な立ち回り。

 みっちーがいるからこそ、これが可能となる。

『で、俺はどうしたらいい?』

「……これはいくつもの仮定の上で成り立つ作戦だ。言ってしまえば勘頼り。おそらく穴だらけだし。成功する保証は一切無いぞ」

『大丈夫だろ。やきとりの動きについてけば7.8割で成功すんだし。もし失敗しても、どうせ負け色濃かった試合なんだ。誰も攻めやしねーよ』

みっちーからの信頼は厚い。

 俺もそれに応える。

「……それもそうだな。じゃ、説明するぞ」



(よし……!上手く行った……!)

 スキル『ホタルの残光』はパリィ可能な攻撃。

 狙い通り、ビームより火力の高いスキルでトドメまで持って行こうという考えは合っていた。

 ───作戦は言ってしまえば簡単だ。

 俺が裏で新しい毒ガスを撒いて、自分に自分でダメージを与える。

 すると、俺が毒ガスの霧に突っ込んだと勘違いしたモンスターが攻撃を開始する。

 そこに───紛れ込んだみっちーがパリィを決める。

 一見すれば完璧な作戦だが、本当に運に救われただけだ。

 変なタイミングでモンスターが迂回すればアウト。

 みっちーをパリィ不可なビームで攻撃されてもアウト。

 そもそも、俺が突っ込んで来たコトに疑問を抱かれたら即アウト。

 いくつもの偶然に救われたに過ぎない。ほぼ博打に近い作戦だった。

 だが───成功に全ベットしたし、事実そのリターンは大きかった。

 モンスターが体勢を崩す。

 試合を通して初めての、体勢崩しに成功した────!

『やきとり!』

「任せろ!」

至近距離まで詰め寄り、ありったけ銃撃する。

 モンスターの体力バーは凄まじい勢いで溶けてゆく。

 残り1割ほど。

 

「これでトドメ────」

 ───けれど、豪運もここまで。


『スキル『復旧プロトコル』』


モンスターが光だした途端、突然俺は吹き飛ばされる。

「くっ………!」

『やきとり!』

追撃のビームを喰らい、俺はダウン。

 みっちーもビームの乱撃を喰らい、だいぶ体力を削られた。

 ぬかった。いや、読めてはいた。

 単に相手が一枚上手だっただけのこと。

 自立型殲滅兵器typeCのスキル『復旧プロトコル』。

 試合中一度だけ使える、起死回生のスキル。

 効果は体力の全回復。及び、デバフの解除。

 さっきの話は簡単だ。

 俺が削り切るより、モンスターの体勢値が回復する方が速かった。

 体勢が崩れている間はスキルが使えない。

 だからスキルを使えない、その間に仕留め切らなければならなかった。

『………クソッタレ!』

みっちーが即座に死角に潜り込む。

 次に狙われるのはおそらくみっちーだろう。

───その予測はすぐさま間違いだと気づく。

『………!!マズい!俺無視して

みっちーに踵を返し、モンスターが全速力で俺のリスポーン地点に向かう。

 リスキルだ。

 これは…………もう詰んだ。

今からじゃみっちーは追いつかない。

「チクショウ………!」

 俺の作戦は失敗に終わった。

 モンスターの体力はフルMAX。パリィももう出来ないだろうから、体勢値崩しも絶望的。

 敗北の二文字が脳裏によぎり歯を食いしばる。

「ごめん、みっちー。……みんな」


『勝手に負けた気になんなよゴミカス』


モンスターの頭蓋に弾がクリティカルヒットする。

「なっ……!」

 モンスターは為す術なく体勢を崩す。

 周りには誰もいない。これは遠隔射撃だ。

 コレをこの場で成せるのは──────。

「kS1n!」

『太郎、みっちーとゲート繋げ。やきとりがリスポーンしたらそっちも繋げ』

 kS1nがいつものような的確な指示を出す。

 その様子は───いたって落ち着いていた。

『みっちーはもう繋いだ。やきとり待ち』

『オーケーだ。……やきとり。僕はお前のその博打なやり方に合わせる気はねェ。だけど、今回それが功を成したのは事実だ』

「……つまり?」

『僕はこれから指示はするが、直感が働いたらテメェに従え。みっちーまでは巻き込んでもいい。今までと違ってお前のひらめきに理解は示すが、僕と太郎は徹底した立ち回りで動く』

「kS1n!」

『……うるさい。なんだ?』

今は、相変わらず偉そうな態度や、今までのコトをとやかく言う暇はないし、心変わりについて尋ねてる場合でも無い。

 今問い正すべきは一つ。

「……やれんのか?」

『当たり前だ。失態はここで挽回する』

───いつものkS1nだ。

 偉そうなクセして、迷いは一切ない。

 だからこそ、信頼が出来る。


『ここでケリをつける。──足引っ張ったら殺すからな?』 

 ───ここからは総力戦。

 互いの全力をぶつけ、正真正銘の勝敗をつける─────────!



───空気が変わったのをブルどっくは肌で感じとる。

 さっきの奇襲から始まり、戦闘スタイルが格段に変わった。

 それも、よりハイレベルに。

『みっちー!合わせろ!』

『おうよ!』

『太郎。あの灰色のビル屋上にゲート』

『りょ〜』

見違えたようなやきとりとみっちータッグによる猛攻。

 そして、それにより僅かに生まれた隙に、堅実なビビンバ太郎のサポートとkS1nの狙撃。

 ……断言しよう。

 今劣勢なのはブルどっくだ。

まるで未来を読んでいるかのようなやきとりの動き。

 堅実ながらも最高水準なkS1nの指揮。

  二律背反ながらも、この立ち回りは両立して成立している。

 一重にこれは、全員が己の限界を超えた力を発揮していることを意味する。

 この不気味ながらも、奇跡的に噛み合った連携は、例えプロであろうと再現は不可能。

 このメンバーだからこそ起こせた、"奇跡"に他ならない。

 もうブルどっくに慢心は許されない。

 ブルどっくはこの四人を真に"敵"として認める。

 文字通り全力フルスロットルで、やきとりたちを畳み掛ける────────!

 


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