第25話 勝利への活路

『………チッ、ラスト1ストック!リスキルだけはさせんな!』

「分かってる!けど、どうしようもないよっ!」

2セット目。

 俺たちはまたしても苦戦を強いられていた。

相手選手は"ブルどっく"。

 ついこの前『HD』に加入したにも関わらず、グングンと成績を伸ばす期待のスーパールーキー。

 現在モンスターランキングでは、4位に位置していた。

 また、この人が使うモンスターも凶悪だ。

 『自立型殲滅兵器typeC』───現環境の最強モンスターである。その並外れた機動力と豊富な高火力スキルにより、ランクマ、大会ともにban候補筆頭となっている。体勢値の低さが唯一の弱点だが、それを補ってなお余りある破格の性能だ。

『はっっや!もうkS1nの目の前まで来てる!』

『させないよ』

 太郎が間一髪ゲートをkS1nに繋ぐ。

 それにより、なんとかkS1nはモンスターからの追撃を逃れた。

『………なんとか難を逃れたか』

「あっぶねぇ……。これで太郎、kS1nは残り1ストック。太郎に至っては瀕死か……」

『逆境にて輝く───!』

「言ってる場合かっ!俺たちも2ストックあるとは言え、体力は半分切ってる。依然不利な状況は変わってない」

 束の間の安全は確保出来たが、モンスターも猛速球で向かって来るだろう。

『遠距離ビームばっかでパリィ出来ねぇのがもどかしい……。ああー!パリィしてぇパリィしてぇ!!』

「駄々こねんなよみっちー……。でも、みっちーが潰されたのは痛いな」

ウチのチームはみっちーのパリィから、攻勢に転じることが多い。

 言ってしまえば、ウチの戦略の主軸とも言える。

 そんなみっちーのパリィを封じられてるため、俺たちは思うように攻めきれない。

(まあ、他にも要因があるんだがなぁ……)

『kS1nこれからどうする?指示をくれ』

『……太郎と俺は立て直す。やきとりたちは隠密しとけ』

『立て直しつったって、流石にずっと後手に回りすぎじゃね?』

事実みっちーの言う通りだ。

 kS1nは相手の出方を観察して動くため、どうしても対応が受動的になる。

 そのため、こっちのリソースの減り具合はジリ貧と言っても過言ではない。今回の戦いはkS1nの堅実派な性格がミスマッチを起こしてる。

 それだけではない。プロ相手に敵わないという事実が、kS1nの精神を圧迫している。そのせいで、指示にもムラがちょくちょく見られた。

「kS1n!結果で証明するって言ってたじゃねーか!」

『…………』

kS1nはダンマリを決め込む。

 俺は奥歯を噛み締めた。

 腹立たしいが、言い訳を捲し立てないだけマシだ。

 現状、本格的にヤバい。このままでは、一人生存すら怪しい。

 一体どうすれば………。

『………kS1n。隠密はナシだ』

「え?」

『は?』

突然言い出したみっちーに場が困惑する。

『俺とやきとりで打って出る。kS1nたちはサポートしてくれ』

「ちょ、みっちー!?」

『……これは命令だ。立て直し終わるまで隠密してろ』

kS1nが語調を強める。それは許さないとばかりに。

『行くぞ、やきとり。kS1nは正常に機能してねェ。ここで後手に回ったらどうしようもないくらい、普段のお前なら気づくハズだろ』

『────!』

「……本当にやるのか?」

『ああ!何ビビってんだ相棒!俺たちは無敵ってコト、アイツに教えてやろうぜ!』

 いつもみたいな無邪気で無責任な言葉。

 でも、一つだけ違うのは────その言葉には、熱があったというコト。



「流石に勝ち確かな……」

 ブルどっくが溢す。

 こう考えたのは、油断や慢心故ではない。

ブルどっくなりに冷静に戦況を分析して導き出した答えであり、鍛え抜いた末に得た経験則に則ったホームラン予告でもある。

 こうなったら負ける可能性など万に一つもない。

 新人プロとは言え、修羅場はそれなりに潜ってきたつもりだ。結論付けれる根拠もある。

 スナイパーのkS1n、スペシャルの太郎はラスト1ストック。おまけに太郎は瀕死だ。

 ストライカーのやきとり、タンクのみっちーは油断出来ないが、動きにまるでキレがない。

 まだチーム内で連携が取れていないのだろう。

 見ていても綻びだらけ。

 それに、お互いがお互いの長所を潰しあってるようにも思える。

 個としての強者が揃っても、連携が出来ないんじゃ意味はない。

 少なくとも、この先も自分から仕掛け続ければまずブルどっくに敗北はない。

 とりあえず、最低限警戒すべきはみっちーだ。

 プロ顔負けの実力と勝負強さが彼にはある。

 パリィだけは取られないようパリィ不可の攻撃で削り続けて───────。

「─────!」

 すぐさま臨戦体勢に入る。

 何か異変が起こったワケではない。

 ただこの背筋を凍らす悪寒が、ブルどっくが持ち得る天性的な直感が告げている。


 ────魔物が紛れ込んでいるぞ、と。


『ウラァァァ!!』

背後からの気配を察知し、距離を取る。

 瞬間、自分のモンスターにわずかなダメージが入った。

(撃たれた?いや、音はない)

背後を振り返る。予想通り。あたり一面煙に包まれていた。

(毒ガスか。なかなかクセの強い武器を……)

ダメージは回避したため軽微。ほぼ無傷と言っても過言ではない。

 毒ガスはこのゲームでは下位に分類される性能だ。

 モンスターへのダメージは低いクセに、ヒューマンも巻き込まれたらダメージを貰う。

 用途としては、煙幕ぐらいにしか使い物にならない代物だ。

 マイナー中のマイナー。なんでこんなものを所持して来たのだろうか。

 考えを張り巡らせるとともに、煙の先と相手の体力バーを注視する。

 自分を困惑させて、その隙に煙に紛れて特攻するだろう線が有力だ。

 毒ガスを通ったのならダメージが入る。

 ガスマスクを装備していれば防げるが、付けていたのはみっちーのみだったハズだ。

 煙の影と体力バーを見逃さない。

 そう考えていた時、ふと一つの答えに至る。

(なるほど……。毒ガスで体力バーが減るのは自分も同じなのか)

 毒ガスの用途。それに対して一つの解を得る。

 これは、ブルどっくが毒ガスを強行突破した際のアラートだ。

 ダメージが入れば、相手も自ずと毒ガス内にブルどっくいることが把握出来る。

 痺れを切らして入った瞬間、蜂の巣にするつもりだろう。

 だが、それでも疑問が残る。

 普通に考えても、毒ガスのダメージをわざわざ喰らいに行くなんてあまりにナンセンスだ。

 毒ガスの効果時間が切れて、霧が晴れるのをただ待てばいい。

 ここと毒ガスエリアはスパイナーの死角ポジだ。

 警戒するべきは近くにいるヤツか、隠密しているヤツぐらいしかいない。

 これらを踏まえると、むしろ罠に引っかかる方が可能性が低いのは当たり前だ。

 どう考えても──穴だらけの破綻した作戦だ。

(ヤキが回ったか?……まあ、どちらにせよ毒ガスが晴れるまで待てばいい)

 不意打ちの恐れはあるが迂回して裏を付くのもアリだな、そう考えていた時だった。

 突如───やきとりの体力バーが減るとともに、煙の中に人影が見えた。

「攻めて来たか……!だが……!」

──ブルどっくは極めて冷静だった。

 こういう場面が勝負の分かれ目。そのことを十二分に理解していたからだ。

──ビームではなく、直接殴りに行く。

 ビームは当てやすいが、やきとりの残りの体力を持っていくにはやや足りない。

 ここは、スキル『ホタルの残光』で削り切る───!

 人影目掛けて突っ込む。

 毒ガスもちょうど晴れてきた。人影もぼんやりと姿を現していく。

 このままやきとりのダウンが取れれば、勝ったも同然─────。


『よう、待ってたぜ天才』

『────!?』


そこにいたのはやきとりではない。

 盾を大きく構えた、パリィの天才みっちーだった───────!

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