第24話 河島の懐古

 ───あの光景が、フラッシュバックする。

「今日ここに、チーム『OVER handler』の結成を宣言する!乾杯!」

「乾杯!じゃないよ。今から自己紹介して、練習するよ河島。………もしかして、お酒飲んでないよね?」

「酒なんて飲んでないWOW〜!酔っ払ってなんかないWOW〜!」

「飲んでるじゃんこの人……。こんな人だったんだ………」

「なんかショックだな………。モンスター最強って言うからどんな人かと期待してたけど………」

「………河島。メンバーが困惑してるから。そういうのはTPO弁えてくれ」

「ハイハイ相変わらずクソ真面目だなメラ。責任とって俺から自己紹介すりゃ良いんだろ?ま、俺の名を知らないヤツなんてこの界隈には誰一人───」

「話が早くて助かるよ。コイツは河島。このチームのモンスターをやることになっている。ちょっと人見知りな性格でね。こうやって振る舞わないと緊張で固まって喋れないんだ」

「オイッ!勝手に紹介すんなって!それに人見知りじゃねーわ!」

「そして僕はメラ。河島とは腐れ縁さ。これからは宜しく頼むよ」

「聞いてんのかっ!?オイ、メラ!」

「じゃあ、他も自己紹介を」

「シカト決めやがって!調子こいてんじゃねーぞ!」

「ふふっ……!」

「おい誰だ今笑ったヤツ!名乗れ!」

「あ、すんません。可笑しくってつい……。自分はアキケンです。これからヨロです」

「アキケンか……。いい度胸じゃねェか。準備しろ!今からバチボコにしごいてやる!」

「河島、まだ全員自己紹介終わってないから………」

「知るかっ!早く準備しろ!」

「え、自分勝っちゃいますけど大丈夫ですか?」

「生意気な野郎だな。ぶっ潰してやる!」

「ちょっと………。……まあ、こうなるとは思っていたけどね。ごめんねみんな。少し河島たちに付き合ってやってくれ」

 俺とアキケンはいがみ合い、メラはため息をこぼし、他のメンバーは苦笑いしていたものの、勝負になればみな真剣な目になった。

 そして終わってしまえば、不思議な話コイツらがまるで昔以来の親友に思えて、俺たちは馬鹿みたいに盛り上がった。

 ───チームを結成してから、毎日が楽しかった。

 くだらないことで笑って、試合は真剣にやって、でも適度にふざけて………この頃は、本当に世界が輝いて見えていたんだ。

 二十歳はたちを過ぎてなお、青春時代に逆戻りしたような心地だった。


 ───けれど、それはいつかは消える泡沫の夢に過ぎなかった。


「チーム『Ge』!『Oh』を破り、見事討伐を決め切ったァーー!!」

 決勝戦。今まで向かうところ敵なしだった俺らに、冷や水ぶっかけてきたチームがいた。

 その実力は圧倒的で、俺たちは完敗を喫した。

 『Ge』───現『RI』打倒が、この日から俺たちの目標となった。

 負けたことにしょぼくれる弱いヤツは誰一人だっていなかった。

 むしろ、みながその悔しさを胸に、次の大会こそ優勝してみせる!と、心を一つに誓い合ったほどだ。

 この頃は、まだ楽しむだけの余裕があった。

 練習量が増して、人によっては実生活との両立が厳しくなっても笑い飛ばせていた。

 喧嘩になっても、同じ目標があるからこそまた一緒に歩き直せた。

 そう、『Ge』を倒して、優勝トロフィーをみんなで掲げられるならと────────。

 


「ま〜ずいねェェェ」

全滅させると息巻いていたが、ぶっちゃけ空元気に過ぎなかった。

 アイツらとの実力差は五分五分。

 いや、むしろプロになってストイックにやってる分、アイツらの方が強いかもしれない。

 事実、俺はピンチに陥ってた。

(体力は残り半分。全員1ストックは削ってるけど、むしろコレ、アイツらの思惑通りなんだよなぁ)

 『Oh』時代から───正確にはメラが好んだ使ってた立ち回りだ。

 モンスターにターゲットチェンジを強いる立ち回りで、脱落者を出来る限り減らす戦法。

 全員あと1ストックと油断してたら、自分の体力はもう蝋燭の火だ。

 下手したら全員生存の討伐をされかねない。

(ビル上に一人。射線は死角だし、コイツはおそらくメラだな。ゲート張って退路作るつもりだろ。さっさとさっきのやつリスキルしに行きたいところけど………)

 正面に一人。立ち塞がるように構えてるヤツがいる。

 ──ライフルとナイフ。

 ストライカーの中でも奇抜な武器構成のソイツは、奇襲が専門にも関わらず、こうして真正面から武器を構える。

 側から見れば、リスキルを狙う俺を奇襲出来る優位性を放り投げたことに、一片の理解も出来ないだろうが俺はなんとなく察する。

 これは、慎重派なメラが立てた作戦とは全くの別物だ。

 ───おそらくこれはコイツの完全な私情。

 今頃、メラは焦り散らかしているだろう。

「そんなに憎いかよ……この俺が」

 俺目掛けて散弾する。俺は軽く払いのける。

隠密と奇襲のスペシャリスト『白亜の暗殺者アサシン』が聞いて呆れる。

「ま、恨まれるのは当然か。……いいぜ、。俄然やる気が出てきた。お前の挑発乗ってやろうじゃねぇか」

 本当はアキケンを無視しても構わない。

 例え罠を仕掛けられているとしても、強気にリスキルを狙いに行くのが俺の普段のやり方で、今ある勝ち筋だ。

 だが───チームではなく、今回は俺も私情を優先させてもらう。

 そこには旧友と戦う悦びも、あの時の後悔もない。

 いや、流石に言い切れるほど自信はない。そこまで出来た人間なら、今頃こんなところにはいない。

 ただ、───理由を挙げるとしたら、ともに歩んだ旧友への"訣別"だろう。

 

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