第22話 シャール杯

 シャール杯当日。チームVCにて。

 河島さんには適当な事情を伝えてシャール杯まで数日練習を欠席したため、声を出すには幾分かの勇気が必要だった。

「……失礼します」

 既にみんな集まっている様子だった。

 俺は恐る恐る声を出しながら入室する。

『おっやっぱ来たか!信じてたぜ!』

 みっちーが第一声を上げる。

おせーぞ、やきとり。早く準備しろ』

『………ん』

『お久』

 河島さんとコトねこ、太郎が何事もないかのような反応をする。

 俺はしばらく練習を欠席していて、チームにも迷惑をかけたハズだ。

 こんなにすんなりと受け入れてくれるのは正直予想外だった。

「……えっと、その。勝手に抜け出した上、しばらく休んですいませんでした」

『………』

『おい、kS1nも何か言ったれ』

沈黙を決め込んでるkS1nに河島が促す。

『……僕は謝罪はなんてしない。ただ、僕が正しかったと結果で証明する。それだけだ』

意固地に冷たく言い放ついつものkS1nが、そこにはいた。

 そういった態度を取られると、むしろ一周回って安心する。

「そうかよ。じゃあ、俺もお前にだけは謝んないかんな」

べー、っと内心で舌を出す。

『勝手にしろ』

『テメーら喧嘩やいがみ合いは勝手だが、下手こいて負けたら殺すからな』

河島さんが釘を刺す。

 それに関しては、流石に俺も試合中は弁えるし、kS1nも………解ってるハズだ。おそらく。きっと。

『じゃあもう試合始まるから。一戦目はお前らヒューマン陣営。さっさと準備しろ』

この大会は完全オンラインで行われる。

 もちろん、試合中のチーム内モンスターとヒューマンの交流は御法度だ。

『………やきとり』

コトねこが俺のみにVCを繋いで、小声で話しかけてきた。

「ん、なんだ?」

『………チームは続けるの?』

 声には心配の色が表れていた。

「……まだ決められていない。ただ……今はちょっと、前向きに考えてる。でも安心しろ、少なくともこの大会は絶対優勝させるぞ!」

『………そう』

俺の宣言虚しく、コトねこはVCを切断する。

 ───静寂のみが響き渡る。 

「無関心にもほどがあるだろ………」

『やきとり準備は終わったか?』

「あ、ハイ!いつでも行けます!」

『よし!こっからは負けられない戦いだ。気ぃ抜くなよ。死ぬ気で、または殺す気で行ってこい!!』

「はい!」

大きく返事をする。

 こうして、俺たちの『シャール杯』が幕を開けた────────。



『──目標補足。モンスター『ランプの魔神』。機動力高いから、決して後手に回る立ち回りは避けるぞ』

『ラジャ。戦車取る?』

『いや、時間が惜しい。『魔法のランプ』で距離詰めされたら、閃光弾と煙幕使って一旦離れた後、やきとりたちとゲート繋げ』

『俺の方飛んできた。高架下。やきとりと体力削るからkS1nたち来て』

『了解。太郎ゲート繋げ。やきとりは上から詰めろ』

『パリィした!詰めろ詰めろ!』

「おっけー!もう仕掛けるよ!」



『モンスター『奈落の戒律者』。索敵強いのとスタン警戒しとけ』

『やきとりと合流。アーマー張ったから正面突破出来る』

「kS1nどうする?」

『やきとりと太郎は特攻。アーマー割れたらみっちーとスイッチ。スナイパー警戒が解けるまで波状攻撃しろ』

「了解!」



『モンスター『狭間の調べ』。マイオナカスモンスター使いやがって』

『でも、コイツの透明能力クソダルだよなぁ』

「透明化使った!足音の向き的に多分T字路!」

『いやフェイクだ。多分俺の追跡来てるだろうから誰か合流───チッ、もう来やがった!デパート2階!』

「kS1n俺下いる!」

『?なんでここに───誘き寄せるからエスカレーター裏で隠れてろ!』


 ───そんなこんなで、ヒューマン陣営は連携はなんとか保ちながら勝利を重ねていった。

 そして、気づけば決勝戦まで勝ち上がっていたのだった。


「なんか拍子抜けですね……」

優勝すると息巻いていたのは事実だったが、こんなにもあっさり勝ち上がれるとは思わなかった。

 今までの試合は2セット先制先取のストレート勝ちのみ。

 しかも、ヒューマンモンスターともに負けなしの最高の状態だった。

練習ではボコされまくってた俺たちだが、こうまで上手くいくと自信がつく。

 むしろ、河島さんとコトねこがイレギュラーだっただけかもしれない。

『……やきとり。"今日は"指示通り動いているな』

 kS1nがわざわざ強調して伝える。

「含みが腹立つな……。まあ、陰でひっそり練習してたんだ。ざっとこんなもよ!」

『目に見えて協調性増したね』

『今日上手いなやきとり!』

別にチーム練習を欠席していただけで、ランクマは欠かさず回していたし、指示通りに動けるよう自分なりに立ち回りを見つめ直してたんだ。

 思った通りに上手くいって上機嫌。

 今だったら、誰にでも勝てる気分だ。

『でもなんか、やきとりらしさ無くなっちゃったなー』

「らしさってなんだよ」

『なんか個性みたいなのが潰れちゃった感じ?前話したやきとりらしい動き、しなくなっちゃったから』

「とりあえず今はチームの立ち回りに合わせるのが最優先だろ。個人プレーじゃ勝てないって、今までの試合で分かったし」

『でもなんか……うーん。言葉に出来ないわ』

 みっちーが言葉に詰まる。

 そんなに気にすることだろうか。

『乙〜』

「あ、戻ってきた」

さっきまで便所に行ってた河島さんがVCに入り直す。

「河島さん!俺上手かったですよね!」

『んー……まぁな。でもなんか物足りない感じすんだよなぁ』

「河島さんまでどうしたんすか」

言われた通り、指示には徹底して従い、チームの立ち回りに合わせれてるハズだ。

 物足りないとか言われると不安になるからやめて欲しい。

『てか、まだ決勝残ってんだろ。そういうのはまだお預けだ。お前らまだ油断すんなよ。勝てたのはプロとたまたま一試合も当たんなかったおかげだ』

河島さんが場の空気を引き締める。

 その通りだ。まだ大会は終わってない。 

『次は流石にプロいるだろ。……えーっと、どこのチームだ………?』

 ガタッ!!

河島さんが何やら調べ始めたと思ったら、何かが崩れ落ちる音がした。

「河島さん!?大丈夫ですか!?」

『なんでいやがる……!?いや、確かに前回は出ていたから可笑しくはないが………よりにもよってかよ………!』

 何か様子がおかしい。

 河島さんは酷く狼狽している様子だった。

「どうしたんですか!?河島さん!?」

『………っあー。なるほどね』

「……みっちー?」

何やらみっちーがバツの悪そうな声色になる。

『次の相手『HD』だ』

「『HD』?『HD』って、確か河島さんが昔作ったチームの───」

 決勝戦の相手のカードは『HD』。

 河島さんが元いたチーム『Oh』の、正統後継にあたるプロチームだった────────。

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