第20話 理由

『ほい、パリィ。コイツパターン単純だな』

 みっちーが今日何十回目か分からないパリィを決める。

 モンスターはなす術なく崩れ落ちる。

「お前の反射神経と直感がズバ抜けてるだけだ」

 モンスターに落ち度はない。ただみっちーが上手すぎただけだ。

 みっちーはタンクの中でも特殊な、"パリィ"に全特化した戦い方をする。

 ほんの一瞬の攻撃タイミングに合わせてパリィをすると、相手の体勢値を全て削れる。

 それだけ訊けば強そうに思えるだろうが、難易度がなんともネック過ぎてほとんど使われない。

 パリィ可能タイミングはわずかコンマ数秒。

 使いこなせば実用的ではある。だが、常人にはまず不可能だ。

 せいぜい使う場面があるとしたら、本当に一か八かみたいな盤面でしかない。

 外せば無防備に等しいし、ガン盾して防いだ方がよっぽどチームに貢献しやすい。

 これを積極的に狙うヤツは、一般的に『イキリパリィ野郎』と言われる始末。対戦後にボロクソ言われるまでがセットだ。

 けれど───みっちーや極一部のタンクだけは話が変わる。

 類稀な反射神経と直感、はたまた読みが出来ればみっちーのようにパリィを軽々と使いこなせる。

 こういう人間を俗に"天才"と呼ぶのだろう。

 ……俺には、到底到達出来ない領域だった。

「トドメだオラッ!」

モンスターが倒れる。討伐が完了した。

「あー最後一人巻き込まれてたわ。分けかぁー」

 さっきの時点で三人残り。

 討伐寸前に敵の攻撃をもらった一人が脱落で俺とみっちー二人残りの引き分けだった。

『ドンマイマイ。次行くか』

「………あのさ」

『ん、どうした?俺の性癖タイプを知りたいのか?しょうがない教えてやる。おっとりしたお姉さん系で胸がバカでかい────』

「そんなこと訊いてないし、それはもう何度も訊いた」

『………ん?訊いたのか?いや訊いてないのか?日本語は難しいな。せっかくだからもう一度教えてや───』

「だからいいって!……はぁ、お前相手に気を遣うか忖度した俺が馬鹿みたいだ……」

 せっかく切り出そうとしたのに、台無しにされた………。

「みっちー、俺に無理して合わせてくれてんだろ。なんでそんなことする?」

『……まあ、お前相手に詭弁は通じんか。むしろ逆に傷つけたな。すまなかった』

 みっちーが茶化さずに謝る。

 コイツの美徳はこういう所だろう。

「気にすんな。それより合わせてるのは何でだ?」

『……一応断っとくけど、合わせてる、ってほどじゃねぇんだ。ただお前の立ち回り独特だから、それに合わせてるっつーか』

「合わせてんじゃねーか」

『ま、無理はしてねーよ。お前の立ち回りが悪いワケじゃないし、むしろ新鮮で楽しいんだ』

みっちーは屈託なく言い切った。

「……なんか馬鹿にしてないか?」

『そんなワケねーだろ。本心だよ本心』

「ならいいが……。それより、独特って……どんな風に?」

『やきとりの動きは……その、なんか見てる世界が違うんだよな。チート使ってる感じ、みたいな』

「何だそれ?」

意味分からんわ。

『お前よくよく分からん動き方するじゃん。俺には理解出来ないことが多いけど、それ通りに動くと大体上手く行くんだよ。まぁ、たまにハズレるけど』

「……具体的には?」

『さっきの試合とかがそうだよ。お前の動きに合わせて動いて、それっぽいポジションでパリィした。すると、驚いたことにお前がしっかりトドメさせる距離にいるんだ。試合こそ分けたがそんな感じで、お前は毎回丁度いい立ち位置にいる。"直感的な読み能力"っつうのかな。怖いくらいハマる時もあって正直ビビるぜ』

 ………"直感的な読み能力"。

「そんなこと言われてもピンとこないな」

『ま、チームのみんなと合わない原因はソレだろうなぁ。特に、堅実に的確な立ち回りをするkS1nなんかは一目瞭然で相性最悪だよな』

 ………なるほど。

 みっちーの話には筋が通っている。

 本当にそうなのかは置いといて、直感派な俺と、堅実派のkS1nとは、水と油のような関係だということだろう。

『俺も未だに合わせきれてる自信ないしな』

「………それが仮にその通りだとして、言われてもどうしようもないんだけど。それってつまり、俺はチームプレイが根本的に不可能ってワケだよな?」

『別にそこまでじゃない。絶望的ってだけだ』

「おんなじだよチクショウ!」

『まぁそう腐るなって。ランクマではお前が独特な動きしても上手くやれてんだろ。なんかそこに鍵があるハズだって』

「……言われてみれば確かに。何が違うんだランクマとチームで………?」

『………と、誤解が解けたところでマッチングしたぞ。……げ、これ相手コトねこじゃね?ミューズだし』

みっちーが話を切り上げる。

 悩むのは後にしろ、ということだろう。コトねこは悩み事しながら勝てる相手ではない。

「マジか……。さっきプッツンしたクセに、ランクマ回してやがったのか」

『普段チーム練でボコされてる借り返してやろうぜ』

「……あぁ。それと、最後にみっちー」

『何だ?だからおっとりお姉さん系の───』

「だからもういいって!!訊きたいのは、何でそこまでして俺と組んでんのかってこと!」

みっちーと固定組み始めてから早数シーズン。

 俺が言うのも何だが───みっちーは他のヤツと組んだ方が楽だし勝てるハズだ。

 それを投げ捨ててまで、俺の相棒になってくれるのは、合理的に考えて不可解でならない。

『あ?そんなの決まってんだろ』


『お前とゲームするのが楽しいからだよ』


「─────」

『理由なんてそんだけで十分だろ。ほら、はよコトねこボコして煽り散らかすぞ』

「………ちっ、恥ずいセリフを素面しらふで言いやがって。やるぞ、みっちー。コトねこ相手なら煽りもOKだ!」

『かますぜ〜やきとり!』

……みっちーは、これから俺がどうするかの話は一切訊かなかった。

 心の中で小さくありがとう、と呟きながら俺は試合に臨んだ──────────。


 

 ───チーム練の時と何一つ変わらずコトねこにボコボコにされたのは、そこから5分後のことだった。



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