第16話 『血炎の皇帝』

 この後なんでか俺だけが河島さんに謝り倒すことで許しを得た。

 本当に意味がわからない。

そして、今日の練習だが────────。



『いないモンはしゃあない。補充するしかないな』

『?補充するって誰かいるの?』

『ん、今もいるじゃねぇか?』

「?」

太郎の質問に河島さんが怪訝そうに答える。

『コトねこだよ、コトねこ。今日俺モンスターやるから、コトねこは臨時でヒューマンやれ』

『………ん、承知』


────かくして、今日のヒューマン陣営は俺、kS1n、太郎、コトねこでやることになった。

 

 ゲームスタートの合図とともに動き出す。

 ステージは、『月陰城』。

 その名の通り城であり、月明かりが青白く照らす幻想的な風景がなんとも魅力的だ。

 聳え立つ本殿の麓には城下町が広がっており、和風なテイストのステージとなっている。

 このステージの戦術的特徴としては、城をどちらの陣営が取るかで有利不利が決まることだ。

 城を占領出来れば、高所を取れるため敵の位置を把握出来る。

 おまけに、自分から攻撃を仕掛けやすいという絶対的優位性が生まれる。

 だからこそ、スタンダードな流れは城を速攻全力で手に入れることだった。

「南スポーン。モンスター誰?そしてどこ?」

運悪く南の城下町の郊外にスポーンした。

 ここは一番城から遠い位置。必然的に他より遅れをとることになる。

『こちら太郎。東スポーン。戦車行く?城行く?』

『………ん、城下町の魚屋スポーン。城行こ』

『おけ』

コトねこも端的に情報を伝達する。

 いきなり別陣営やらされた割には、肝が据わっているようだ。

 ちなみに、コトねこの役職はストライカーのショットガン持ち。確かスモークやドローンも積んでいた。

 この編成はタンクがいない分安定感に欠けるものの、チームの総火力は大幅に増加する。

『kS1nだ。城前スポーン。城は占領したが、もうそろそろ河島も来るはずだ。………噂をすればだな。モンスター『血炎の皇帝』。今正門潜った。挟撃するぞ』

 ───『血炎の皇帝』。

 河島さんのメインモンスター。

 数シーズン前までは間違いなく最強だったキャラ。

 自己強化タイプのモンスターで、単純火力に関しては他の追随を許さない。

 今は度重なる小さな弱体化と、環境の変化によって中堅クラスのモンスターに位置している。

 ……だが、片時も油断は出来ない。

 使い手はあの雑魚狩りの河島。

 過去に『血炎の皇帝』でモンスター最強まで登り詰めた男だ。

 現に、いまだ練習ではこの人に勝てていない。

 負ける度に煽られまくってきた。

 今日こそこの雪辱を晴らしてみせる………!

『太郎ゲート開け』

『おっけー、酒屋前に設置しとくから続いて』

『………ん』

ゲートを使って転移する音が向こうから聞こえた。



『………挟み撃ちか。悪くないな』

河島は聳え立つ城を見上げながら呟く。

 適当にコトねこにヒューマンをやってもらったが、上手く動けているようだ。

 というか、コトねこの武器構成どこかで見たことがある気がしたのだが…………。なんだったかな?

(………っと、いけないいけない。集中)

 城はすでに取られた。

 だが、まだ今なら取り返すことは容易だ。

『………ッ』

紙一重で銃撃を回避する。

 天守閣を睨みつける。城にいるのはkS1n。

 他は……まだ来てないか。

『……30秒だ。それまで耐えてみせろ』

鎌を取り出す。

 そして、入り口目掛けて突き進む──────!



『高所取ってんのに、なんでここまで早く上がってこれんだよ………!』

 kS1nの声から焦りが読み取れる。

『今城入った。うわーめっちゃ上いる』

『………ん、外壁登ってるけど……kS1nは間に合わない』

kS1nはスナイパー。接近戦に持ち込まれればまず勝ち目はない。

 kS1nがやられれば挟み撃ちは失敗。

 なおかつ、城の高所を占拠されるという大きなアドを取られる。

「今正門!」

『ちっ、もうすぐそこまで来てる!作成失敗だ!太郎は死ぬ気で天守閣にゲート設置してから死ね!』

『りょ』

間も無くkS1nがダウンする。

太郎もなんとかゲートを設置してダウンした。

『………ん、ロープは張ったから私も離脱』

俺も正門裏に隠密した。

 ここは一旦撤退する。

 ゲートを設置したことにより、実質城の強みは潰せた。

 あとは二人がリスポーンしてから、ゲートを使って総攻撃を───────。


『大人しく待つと思うか?』

「…………!!」

上から煉獄が降りかかる。

 俺はすんでで回避した。

(なんでバレたんだよ………!)

凄まじい索敵能力。

『とりま全員飛んどけ』

目の前には『血炎の皇帝』。

 スキル"血濡れの冠"により、与えたダメージ分だけ様々な自己バフが乗っている状態だ。

 サシで勝つのはなかなかに厳しい。

 かと言って、逃げるのは不可能だ。

『逃げろやきとり!』

「いや、もう無理!ここで少しでも時間を稼ぐ!」

 銃を構える。

せめて、kS1nたちのリスキルだけは避ける………!

 ここがおそらく正念場だ………!

近くの物陰に身体を移しながら、射撃する。

 河島さんは何食わぬ様子で距離を詰めてくる。

 スキルで耐久力も体力も大幅に増加しているからだ。

 今の河島さんは無敵に近い。

「……クソったれが!!」

スキル"カナリアの花火"で遠距離攻撃までも仕掛け始めた。

 時限式で花火を爆発するこのスキルは、的確に俺の逃げ道を封じてくる。

『待ちぇぇぇ!!』

…………!もう遮蔽物がない………!

 ここまでか…………。


『………3数えたらモンスター《河島さん》めがけて突っ込んで。………3、2、1』


───ふと、声が聞こえた。

『………0!』

 考える暇はなく、反射で身体が動く。

 河島さんめがけて突っ切る!

『……は?』

河島さんは咄嗟のことに反応できてないようだ。

 走り出すとほぼ同時に、突然視界が遮られた。

「……煙幕か!」

「………ん、早くこっちへ」

 人影が誘うように近寄ってくる。

これは───コトねこか!

「ナイスコトねこ!」

『………ん。………kS1n、私たちも一旦離脱する」

『生き延びたのか………?一体どうや───二人は城裏手に回れ。ロープは多分バレるだろうから近寄るな』

一瞬驚いたような反応を見せたが、咄嗟に判断早く司令塔リーダーとしての役割に戻る。

「了解」



『あんれぇぇぇ??』

油断はあった。

 だが、適度な心の遊びに過ぎなかったハズだ。

 まさか切り返して俺を素通りするのは読めなかったが、

 瞬時に状況を把握し、突っ込んでくるやきとりめがけて鎌を振り下ろした。

 だが───ここで二つ目の不可解に襲われた。

 

 一寸の狂なく、完璧なタイミングとポジションにドローンが飛んできて、やきとりへの攻撃を防いだ。

 しかし、まだ余裕はあった。

 煙幕で視界が遮られても、やきとりの足音は掴めた。

 そこからでもキルしに行けたはずだった。

『………やっぱり似てんだよなぁ』

───この戦法は初見ではない。

 煙幕で視界を遮り、ドローンで攻撃を防ぐ。

 ここから我慢せず追おうとしたモンスターを

 こんな芸当をやってのける人物は一人しか心当たりがない。

『…………』

ま、今はどうだっていい。

 良いようにしてやられたんだ。10倍にしてやり返すことだけを考えてればいい。

 酔いも段々とだが醒めてきたようだ。

『かかってこいや───雑魚ども』



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る