第14話 実戦

 ───このゲームはヒューマンには役割、武器、装備において選択権がある。

 俺はストライカーの2丁ハンドガン。近接特化スタイル。

 みっちーはタンクの大型シールド&ショットガン。タンクでは珍しいパリィ特化型タンク。

 kS1nはスナイパーのスナイパーライフル。典型的な隠密型スナイパー。

 太郎はスペシャルのサブマシンガン。火力が低い分、戦車やゲートなどの支援型。

 以上がこのチームの役割と武器構成。

 一般的に見て、勝てないのが謎なくらいかなりバランス型な編成だ。

 対して───モンスターはキャラのみを選べる。

 実装済みは全26キャラ。

 こないだのアプデ後の最新の追加キャラ『泡沫の歌姫』を末尾において、全26キャラからモンスターは好きなのを選択出来る。

 ───河島さんがよく使うのは『血炎の皇帝』。

 元環境キャラであり、河島さんの代名詞のキャラ。

 自己強化型のモンスターであり、敵にダメージを与えると一定時間全ステータス上昇、回復。火傷のスリップダメージ付与などができる。

 特に強いのがスキル"終末の煉獄"。

 一定範囲内に発動できる技で、モーションは読みやすいものの、タンク相手でもワンパン可能な火力はまさにロマン技だ。

 ───そして、コトねこがよく使うのは『Dr.ミューズ』。

 ゾンビナイトを生み出して使役可能。最大は6匹。

 このキャラは理論値こそ最強だが、使いこなすにはかなり難易度が高い。

 なにせ、最大限性能を活かすならば、主体を含めた7をそれぞれ動かす必要がある。

 並行して色々なことを考えなければならないため、凡人なら思考処理がまず追いつかない。

 熟練者でもゾンビナイトの数は3、多くても4が限界だ。

 その程度なら下から数えた方が早いくらいの強さだ。実際ランクマでもbanされないし、界隈では『Dr.ミューズ』と言えば、弱キャラの隠語となっている。

 そんなネタにされて踏んだり蹴ったりな可哀想なキャラだが────競技シーンだと話が変わる。

 コトねこやプロの上澄みレベルになると、6匹を難なく使いこなす。

 この時点でほぼ最強。ヒューマンは余程上振れでもしない限りまず勝てない。

 だからこそ、競技シーンでも、2セット以降banピックが解禁されるため、『Dr.ミューズ』は出禁だ。

 ここで重要になるのが1セット目。

 banは不可なため、レベチな使い手がいればモンスターの勝ちゲーになる。

 つまり、モンスター陣営有利の状況でどれだけ結果を残せるかが、セット1を勝ち抜く鍵となるのだ。

 ちなみに、多分河島さんの考えは、セット1で『Dr.ミューズ』を使えるコトねこ、2セット以降は順当に多キャラを使える河島さんが出る構想だろう。



 ────スタートの合図とともに、スポーンした各自が動き始める。

 ステージは『ローデンシティ』。

 一言で例えるなら、"人類が滅んで荒廃した近代都市"といった雰囲気のステージだ。

 建物などのオブジェクトが多く、ヒューマンモンスターお互いに死角が作られやすいステージであり、また、建物内などは入り組んでいて不意打ちをくらいやすいのが特徴だ。

 まずはモンスターに位置バレされないよう慎重に建物の裏に移る。

「モンスターどこ?」

『開きの噴水前。モンスター『Dr.ミューズ』。分かってるとは思うが迂闊に出るなよ、囮だ。太郎は戦車行って、ゾンビナイト待ち伏せあったらすぐ引き返せ。やきとりとみっちーは二匹以上いたら上手くステージ端まで誘導しろ』

『了解』

『うぃ』

今回から司令塔としてリーダーに就任したkS1nが指示を出す。

 普段は暴言指示ばっかで気づかなかったが、確かに全体の状況を一度に把握して伝えられている。

 これはなかなかやるな……!

『kS1nどこ?』

『タワー屋上。狙撃ポイント入った。使役来たらすぐ離脱する』

 ───どうやら今回の作戦は、『Dr.ミューズ』からゾンビナイトを出来るだけ引き離す作戦らしい。

 ゾンビナイト各個撃破作戦は、ヒューマンの人数削られてジリ貧で失敗。

 速攻でDr.ミューズを袋叩き作戦は、はゾンビナイトの壁に阻まれ失敗。

 kS1nが遠距離から仕留める作戦は、……いい案だったがコトねこも流石に警戒しており、先手を打たれて失敗。

 コトねこ相手に、ここ三日間で様々な敗北を経験し、それを重ねるごとに新たな作戦を立案していった。

 だが、今のところ結果はどれも全く歯が立たなかった。

 ここまで来ると、みんなも半ば心が折れかけていた。

『おけ、見つかった。俺二匹に追われてる。端に逃げてるけど、多分これ

みっちーが端的に状況を伝達する。

 これが『Dr.ミューズ』の強み。

 人数差で有利を取れる上、追い込みなど戦術に幅が効く。

 ただでさえゾンビナイト一体一体が厄介な強さなのに、2対1の状況を作られたらまず勝てない。

『………やっぱりだ!橋下でもう一匹待ち伏せしてた。けど、死んだけど三匹離れたからチャンスだぞ!』

 みっちーのおかげで三匹はステージ端。

 残りは確認できたので、ステージ中央の『Dr.ミューズ』付近の一匹、戦車付近の待ち伏せで一匹。

 最後の一匹は分からないが、おそらくkS1nを仕留めるためにタワーに向かってると考えられる。  

 ────つまり、護衛の手が薄い今がチャンスだ。

「さっきはよくもチキンとか言ってくれたな!」

 ちょっと根に持ってんだぞこちとら!

『! 何してんだ、戻れやきとり!一人で突っ込むな!!』

kS1nの慌てたような指令が聞こえたが、みっちーのリスポーンを待つ時間はない。狙うなら今だ……!

噴水に一番近い建物に潜り込む。

(………!ここ死角だぞ!?)

 まるで透視チートでも使ってるかのように、『Dr.ミューズ』付近にいた護衛のゾンビナイトが速攻で詰めてくる。

 ……だが、問題ない。

 裏口から出て『Dr.ミューズ』を叩きに行けば勝ちだ。

 このモンスター自体の個体値は、全モンスターの中でも最弱。

 俺一人でも敵うレベルだ。

「おらっ!今日こそ勝たせてもらうぞ!!」

裏口の扉を蹴り飛ばす。

 ……目標は補足した。

 あとは一直線に走ってこの鉛玉をお見舞いして───────!!


バタっ!


「……………え?」

 倒れ込む音とともに、俺の操作キャラがダウンする。

 突然の出来事に、まだ状況が呑み込めない。

『………ん、やきとりなら絶対来ると思ってた』

「……ま、まま、まさか!待ち伏せしてたのか!?」

確認できなかった一匹。

 てっきりkS1nの方に向かわしたとばかり思っていたが、俺が来る読みでこの裏口に配置してたようだ。

(や、やられた………!!)

『なんで引かねぇの?引けっつったよな?バカでかい耳クソ詰まってんの?』

 kS1nがブチ切れる。

「ごめんて、今回ばかりは俺が悪かったって!許してくれ!」

『うげぇ、戦車壊されたさいあくー』

『リスポーンしたぞ!端のゾンビナイトたちもう目の前まで来てる!リスキルされる!された!おもんな!!』

『チッ、もう負けだ。だから言ったじゃねーか。大体何のために司令塔作ったの?お前みてーな自分本意で行動する馬鹿を牽制するためだよな?なんでそんなことも理解出来ないの?死ねよ、ほんとマジで。あー、もうムカつくわ。だからお前は──────』

 俺のミス一つで、地獄絵図が完成された。

 ………流石に、今回ばかりは自分に非があると自負した。

『………ん、チェックメイト』

この試合はもちろん、全狩りでコトねこの完勝に終わった───────────。


 

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