第12話 リーダー

 ────3日目。

「埒が開かないです。そろそろなんとかしましょう」

痺れを切らしたのは3日目のことだった。

「このままじゃそのへんのランカーにだって勝てません!理由は単純です、チームワークが致命的だからです!!」

 立ち回りは上手いが油断して大戦犯やらかすみっちー。

 ちょっとミスっただけですぐ小言と暴言を垂れ流すkS1n。

 チームに合わせる気すらない自由気ままな太郎。

 このメンツでこれからやっていくのは不可能に近い。というか無理だ。

『火を見るより明らかなこと言い出してどうした?もしかして今更気づいたのか?』

 河島さんがかったるそうにため息をつく。

「最初から思ってましたよ!……それより、ここで提案があります」

『却下だ』

「まだ何も言ってませんけどねぇ!?」

『どうせ「まずは仲良くなるために、何か別のゲームでもしましょう。ネット対戦式のボードゲームなんてどうですか!?」とか言おうとしたんだろ?』

「……うっ」

 図星だ。ボードゲームうんぬんはともかく、何かお互いに仲良くなれる催し物でもするべきだと考えていた。

「で、でもいい案ですよね?」

『論外だろ。時間の無駄だ』

「そういうとこだぞkS1n」

『……こいつらと別のゲームや催し物をやったとして、お前は本当に仲良くなれると思うか?』

………少し、想像してみる。

 みっちーは煽りまくる。

 kS1nは今みたいに空気が読めないし、足を引っ張ったら即暴言を吐く。

 太郎は何するかわからない。

 コトねこはほぼずっと無言。

 河島さんは普段の配信通りなら、負けそうになったら回線を切る。

 本当に終わってるヤツらしかいない。

『案としては悪くないが、そんなことしてる暇があったら、kS1nの言う通りひたすら練習させてチームワークを磨いた方が効率がいい』

「でも、このまま続けても一生バラバラなままな気がするんですが………」

『やきとりは根本から間違ってんだよ。そもそも、チームワーク=仲が良いってわけじゃないからな』

「?どういうことですか?」

 河島さんが待っていたかのように鼻を鳴らす。

なんとかなる。仕事と同じだ。お互いに役割を分担できてれば仲が悪かろうと連携はできる。モチベはさておきな』

「……具体的にどうすればいいんすか?」

『そんな急かすな。野郎のは気色悪い。……流石にどうするべきかぐらい考えてある。俺に任せとけ』

「いちいち俺を貶さないといけないルールでもあるんすかね?」



『まず指示役のリーダーを決める。というか決めてある。kS1nお前がやれ』

「………え?」

『………僕が?』

河島さんが急におかしなことを言い出す。

「河島さん正気ですか!?あのkS1nですよ!?」

『何か不満があるみたいだなやきとり』

「いやいやいや、当然でしょ!?リーダーを決める重要性は分かりますけど、よりにもよってなんでチームワークのカケラもないkS1nなんですか!?」

『僕も聞きたいところだ。なんたって僕なんだ?』

kS1nも不可解そうにしている。

 そうだよ。コイツがリーダーはワケがわからない。

『理由はいくつかある。まず、スナイパーという役割は全体を俯瞰しやすい。つまりいち早く状況把握ができる役割だ。ランクマは個人技術だけでやって行けるが、大会なら話が変わる。状況をいち早く把握して的確な指示を出せるリーダーの存在が盤面を左右するワケだ』

それは一理ある。

 俺たちにはリーダーがいなかった。

 だからこそ、大事な局面で判断がバラバラだった。

『それと、今のヒューマン陣営で一番足を引っ張りあっているのはやきとりとkS1nだ。 どっちかを主軸にやらせるのが一番手っ取り早い。そういう意味では判断が的確なkS1nが適任だ。ついでに言えばkS1nはいまいち波長が読めない太郎としばらく組んでたから、他よりまだコンビネーションはつけれるはずだ。あ、みっちーに関しては誰にでも合わせられるだろ?』

『ま、そうっすね』

 みっちーが同意する。

『………なるほど、理解はできた。河島がそう言うなら従おう』

『異議はないよー』

kS1nが了承し、太郎もOKを出した。

『………どっちでも』

 コトねこも続く。

「えー……。まあ、みんなが言うなら………」

『今度から僕の指示に従えよ、やきとり』

「なんで名指しなんだよ。やっぱりムカつくわこんなんがリーダーなの」

『………kS1n』

河島さんが呼びかける。

『なんだ?』


『お前が指揮すんだから、半端なマネしてまた負けましたはどうなるか分かってるよな?』


 思わず唾を飲み込む。

河島さんの声には凄みがあった。

 決して失敗など許さないような、そんな恐ろしさがあった。

 おそらく言われた当のkS1nは比ではないだろう。

『…………ッ、言われるまでもない』

『………ならいいか。負けたら今度メシ奢れよ』

kS1nの返答で、さっきまでの河島さんの重圧が消えた。

(………怖っ、今の)

 配信で負けて発狂するのとはワケが違うオーラだった。

『よし、これでチームワークは問題ねーだろ。後は………モチベだな』

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