第11話 地獄に近い天国という名のやっぱり地獄
『タハハハッ!!!』
「何笑ってるんすか河島さん!」
『あ、やきとりそっち行くと………言わんこっちゃないなタハハハッ!!!』
『お前も何笑って─────ギィャャアアア!!」
俺の操作してるアバターが地獄のような業火に包まれる。
───チーム練習2日目。
昨日(深夜ぶっ通したから実質今日)のチーム練習から日中を挟んで夜の10時。
疲れが取れぬまま練習はまた始まった。
「河島さん俺ほとんど寝れてないんですけど………」
そう申し出たら河島さんはなんて答えたか。
『お前の体調とチームどっちが大事なんだ?』
到底人が活動できる環境ではない。ここは地獄か何かなのだろう。
『あ、これ死ぬわ』
みっちーのその一言でゲームセット。
またもや河島さんの完全勝利。
俺たちが見るのは完敗のリザルト画面。もう何度目だろうか。
『君たちしっかりしてくれる〜。こんなんじゃ「人差し指縛り」とか「Dr.ミューズ縛り」でも勝てるよ〜』
……舐め腐りやがって。
河島さんは意気揚々と勝つたびにこちらを煽ってくる。
そのおかげで落ち込んだ空気にならないから良いものの、ストレスが逐一蓄積する。
「前者はともかく後者は絶対無理だろ」
『……ん、わたしならできる』
「お前はイレギュラーなんだよ……」
『ほら、次行くぞ次。モンスターはコトねこ頼むわ』
『……ん、了解』
「あ、そう言えば昨日の配信の件俺まだ許してませんからね!!」
後からみっちーに教えてもらったが、昨日無断で俺らの練習を河島さんは配信していた。
俺も知った直後アーカイブを確認したが、俺たちの痴態は見事に、丸々映っていた。
酷い話で、SNSでは俺たちの連携の酷さを笑い物にされたあげく、中には普通にレッドゾーンな誹謗中傷も少々あった。
これに関しては、今後チームで付き合っていく以上見過ごせない。
「みんなもそう思いますよねっ!」
『知らんわ』
『別にー』
『……時間の無駄』
「なんでそう寂しいかなぁ!?」
どうやらこの問題に重きを置いてるのは俺だけらしい。
「kS1nなんかはバリバリ暴言吐いてただろ!いいのか?プロ遠のくぞ!」
『下手くそに下手くそつって何が悪いんだよ?』
「ダメだコイツがちで理解してない……」
失望通り越して呆れるわ。
今までどうやって人間社会生きてきたんだよ……。
一応昨日までは全員にさん呼び敬語で接していたが、途中で無駄な労力だと気づいてやめた。
「みっちーは?みっちーはどう思う?」
『ま、謝罪ぐらい欲しいかなぁ』
まるで河島さんを挑発するような口調で同意する。
「やっぱ俺の味方はみっちーだけだよ……!」
『それはそうと、やきとりお前だけだぞこんな盛り上がってるの』
「なんで後ろから串刺しにすんの?」
コイツは誰の味方だよ一体。
「てか、まさか今日も配信してませんよね!?」
『今日はしてないよ。てか、昨日は悪かったな。ほら、この話はこれで終わりだ』
「そんな素直に謝られたってそう簡単には……………って河島さんが謝った!?」
あの傍若無人の河島さんが?
河島さんの辞書にすら載っていないだろう行為を?
『やきとり、この話はこれで終いだ。いいな?い、い、な?』
「………あ、ハイ」
気圧されて思わず返事してしまった。
『じゃあ試合始めんぞ』
────改めて、少し細々としたところも含めたルール説明をしよう。
────『Morganite』。
時間制限なしの4対1の非対称型ゲーム。
勝利条件は以前語ったように、討伐時ヒューマンは三人以上残存出来たら勝ち、二人なら引き分け、一人、もしくは未討伐ならモンスターの勝利。
モンスターはキャラクターが用意されており、そのモンスターの固有スキルのみが使える。
対して、ヒューマンは役割、武器、装備を選べる。
役割はチームのバランスを取る上で一番重要である。ストライカー、タンク、スナイパー、スペシャルで分かれていて、近接火力のストライカー、タゲとりのタンク、最大火力要員でありチームの軸のスナイパー、デフォルトの火力は低いが特殊スキルを使えるスペシャルに区分される。
武器、装備は多種多様だ。
ハンドガン、ライフル、サブマシンガン、ショットガン、アサルトライフル、ナイフ、マシンガン、グレネード、クレイモア、ミサイル、スナイパーライフル、シールド、スモーク、スタンガン、ドローン…………言い出したらキリがない。
───そして、ギミックの説明に移る。
・ヒューマンのライフストックは2。
つまりリスポーンがある。ダウンしてから30秒後経過すると、リスポーンできる。
・治療
自己治療、他力治療がある。他力治療の方が回復スピードが早い。
・体勢値
モンスターには体勢値があり、削られると一定時間行動不能、被ダメージ増加などの効果がある。
・戦車
ステージの決まった場所に配置してある。スペシャルの役割のみが操作可能だ。
─────これらを踏まえた上で、ここからは地獄のプレイ風景の一部始終を公開していく。
『おい、やきとり射線切んじゃねーよ!見えねぇじゃねーか!……あー、ほらお前死んだ。だから言ったじゃねーか邪魔だって。だいたいさっきか───』
「うるせえよkS1n!試合終わってからじゃ遅いか!?」
『やっべパリィミスった。死んだー。てか、太郎どこ?』
ビビンバ太郎は長いので太郎呼びが定着した。
なぜビビンバではなく太郎をとったのかはわからない。ていうか、なぜその名前なのかもよくわからない。
『戦車行ったけど先回りされてダウンしちゃった。リスポ待ち』
「おい、これ全員リスポーン待ちじゃねえよな?」
『『『………』』』
「だと思ったよ!これまたゾンビナイトに全員リスキルされて詰みじゃねーか!!」
「おっけ体勢崩した!このまま押し切るぞ!!」
『了〜。"ゲート"開いといた、みっちーこっち』
"ゲート"はスペシャルの特殊スキルの一つ。半径50m以内に行けるどこでもドアを設置でき、撤退、奇襲と利便性が高い。
ちなみに、特殊スキルは3つであり、このゲートと戦車操縦技術の他にアサルトアーマーという一定時間耐久値ありのバリアを味方に付与できるスキルがある。
『サンクス太郎!あんた俺の母ちゃんだ!』
『………!待て!一旦引け!!』
kS1nが大声を上げる。
「は?今攻めないでどうすんだ?」
一瞬攻撃の手を止める。
────本当に一瞬だった。
その隙だけで、紅蓮を纏った影がいつの間にか後ろにまわっていた。
「ぐえっ!」
見事に俺は即死した。
『あーあ。言ったじゃねぇか。引くこと覚えろカス』
「いや今お前の一言なければ行けてたって!定型的な暴言言うな泣くぞ!!」
『ヤバい場所見誤ったすまん』
『kS1nが謝るなんてめずらし………ってもしかして死んだ?』
「マズイ高所とられた!またあの範囲落下攻撃くるぞ!」
『上手くガードするから集まってくれ!』
『いや私ゲート開くからこっち来て』
『ゲートまだクールタイムじゃなかったか?』
『いやギリギリ行ける早く来て!』
『いや攻撃繋げたいから俺が受けて────』
「どっち!?早く決めてく───あ」
───この調子で、昨日に引き続き河島さんとコトねこから一本取ることは一度もできなかった。
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