第9話 練習開始!
『僕は"kS1n@JAPAN"。お前らみたいなのとは違って────プロ目指してんだよ』
そう男は言い切った。
ていうか────────。
(お前がビビンバ太郎じゃなかったのかよ!?)
『正直このチームも踏み台としか思ってないから。そこんとこ弁えてくんね?』
死ぬほど失礼だし、アホほど空気悪くすんなこの人。
だが、言い切るだけの実力はあるのは確かだった。
───kS1n@JAPAN。
ビビンバ太郎とコンビを組んでランキング上位に食い込んでいる実力者。
こんなあからさまに戯言を吐いても、お釣りが来るぐらいにはその実力を買う価値がある。
『kS1nお前終わってんな』
河島さんが失笑する。その反応から見るに、おそらくあれがアイツの素なんだろう。
………少なくとも、現時点で俺はアイツが苦手だ。
『バッターこうたーい。kS1nの次は私、ビビンバ太郎だよ〜』
間髪入れず最後の一人が声を上げる。
『役職はスペシャルやってるよ〜。けどオールラウンダーだからなんでもばっちこい』
『女なの?太郎なのに!?』
『これもまたロック』
なんか会話が噛み合ってるようなそうで無いような…………。
脊髄反射で喋ったらおそらく俺もこんな感じになるのだろうか?わからん。
─────こうして、一癖も二癖もある奴らと、俺は運命共同体となった。
『よし、こっからはもうひたすら練習だ。………っと、その前に大会について確認しておこう。今回俺たちが出場するのは「Morganite日本公式大会」、通称「MJC」だ。この大会は7月後半に予選があって、勝ち抜くと本戦───8月のプロ含む8チームによるオフライン大会へと進める。と、まあ簡単にはこんな感じだ。残り期間も短い。ここからは死ぬ気でやってもらうぞ」
──── Morganiteの大会ルールを簡潔にまとめる。
まず、このゲームの勝利条件。
このゲームは4対1の非対称型ゲームであり、勝利の鍵は生存数にある。
モンスター撃破時の生存数で勝敗が決まり、三人以上ならヒューマンの勝ち、二人なら引き分け、一人、もしくは未撃破、同時死───0人ならモンスターの勝利だ。
ランクマではヒューマン、モンスターが敵同士であり、互いにしのぎを削ってランクを上げていく。
青銅→銅→銀→金→白金(プラチナ)→宝石(ジュエル)→金剛石(ダイヤモンド)→虹(レインボー)とランクが区分けされており、虹帯の人間は上位0.数パーセントと言われている。
また、対応する端末は、PCやスマートフォン、タブレットなどであり、FPSから流れてきた人はPC勢が多い。ちなみに俺はスマートフォンだ。
余談はさておき────ここからが大会の勝利条件だ。
ランクマとの大きな相違点は、チームのヒューマンとモンスターの合計の"取り点"も重要になるということ。
試合は互いのチームで、ヒューマンモンスター陣営入れ替えの2戦を1セットとして行い、2セット先に制した方が勝利となる。また、2セット目で決着がつかなかった場合、3セット目に突入し、これで勝敗がつかなければ試合上の点数勝負となる。それでも、決着がつかなければ4セット目に突入する。
セット獲得条件は2戦のうち獲得した点数が相手より多いこと。
点数は、自チームの"ヒューマンの生存数"、そして、"モンスターが脱落させた数"の合計だ。
なお、ヒューマンの生存数が4の時は、追加で1点の5点。
モンスターが全滅さしたときも同じく5点となる。
最高で10点。違反行為を除けば最悪で0点。
つまり、ランクマとは違い、ヒューマンとモンスターの協力が必須となる。
存外長くなったが、以上がおおまかな大会のルールになる。
『とりまウォーミングアップだ。俺がモンスターやるからヒューマン準備しろ』
河島さんが命令する。
「了解っす」
河島さんとコトねこのVCを一旦切り、ヒューマン陣営の人間だけをそのままにしてゲームを立ち上げる。
『足引っ張るなよ』
ks1nがうんざりしたように漏らす。
相変わらず感じ悪いなこの人………。
『気にすんなやきとり、それよりゲームに集中しようぜ』
「……あ、あぁ」
『んー、こっちは準備完了だよ』
ビビンバ太郎が返事する。
そうだ。このままいがみ合ってる暇はない。
ここは協力して、河島さんに立ち向かうんだ─────────!!
───ゲームスタート。
ステージは『ミゼリア港貨物エリア78』。
海に隣接した貨物だらけのエリア。
遮蔽物が多く、ヒューマンモンスターお互いに奇襲を仕掛けやすいステージだ。
俺は物置小屋にスポーンする。
「小屋スポーン!モンスター多分トラック付近かガレージスポーンだ!」
スポーンはパターン化されている。
自分のスポーンが分かれば、モンスターのスポーン位置も自ずと絞れる。
この場合、この2カ所以外モンスターのスポーンパターンは存在しない。
『太郎〜戦車取りに行って〜』
『りょ〜』
「多分トラック付近だ!まずは俺が囮として、バレてない風を装って姿チラ見せさせてくる!みっちーたちは貨物上で高所を確保して─────」
『おい、待て。なんでそっちって断定できる』
苦言を呈したのは───kS1nだった。
『スポーンはガレージもあるだろ。なんでそっちで確定した空気で発言してんの?利敵?』
「こっちの方が奇襲位置多いから、こっち想定で動いた方がリータンがデカいし、リスクも少ないだろ!」
『は?まずは布陣整えるべきだろ?河島のモンスターは『血炎の皇帝』。下手に先手打とうとしてしくるより、受けで奇襲するのが定石だろ?』
「いやいやいや。このステージなら障害物多いからこそ、先に仕掛けてミスっても上手く捲けるだろ」
『僕が命令するまで下手に動くなよ下手くそが。まずはモンスターの位置を特定しろカス共』
「おい、勝手に仕切んなって……」
『結局どっちなん?トラック付近見てくる?』
『戦車みっけ。乗っちゃうね〜』
VCが混沌と化す。チームワークという連携が何一つとれていない。
「俺は動くぞ!ここで仕掛けた方が絶対良い!みっちー行ってくれ!」
『は?話訊いてた?なんでそう動きたがる?動くなって言わなかった?ねぇ?』
「後手に回って河島さんに勝つのが難しいのはランクマで知ってるから!ここはみんなで動こう!」
『嫌に決まってんだろ。憶測で動こうとするとか論外だろ。まずは位置把握。次に対応。小学生でも出来るぞ?馬鹿は死ねよ』
「………っ!言い過ぎだろkS1n!」
『事実を言って何が悪い』
『はっし〜ん!………ぁふん』
『おいやきとり!トラック付近モンスターいないぞ!』
『ほら、言ったこっちゃない。ガレージスポーンなら……まずやきとりが一番近いな。お前は犠牲になれ』
「……!?マジか……。すまん……」
『ったく、これだから雑魚は───』
『ノンノン。やきとりが正解だよ♡』
『な────』
───向こう側で爆発音がする。
kS1nの位置だ。
「kS1n!………危ねっ!」
空から降り注いだ炎の雨を紙一重で躱す。
目の前には───河島さんがいた。
どういうことだ?ガレージスポーンだったハズじゃ────。
『kS1nがダウンした!やきとり無事!?』
「みっちー!?トラック付近スポーン位置に本当に河島さんいなかった!?」
『クッソすまねぇ!隠密してやがった!スナイパーのkS1n見つけた途端物陰から猛ダッシュで襲いやがった!』
「太郎は!?」
『髭ソーリー。操縦方向ミスって海に落下死』
「何してんの!?」
『はいはーい。クソ雑魚ヒューマンは全員死んでねー』
慌てて逃げたが、あえなく河島さんに叩き潰される。
「………マジか」
────結局、この試合は終始河島さんが圧倒して完勝。
その後の試合も全部、なす術なく負けに負けまくった───────。
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