第7話 集結
───次の日。午後10時過ぎ。
ランクマの時間も終わり、俺は招待されたVC《ボイスチャット》部屋にログインしていた。
「がち緊張する……」
気分は例えるなら、新学期のクラス替えだ。
新しい出会いに期待を膨らます一方、初めて会う人ばかりで、妙にそわそわと緊張して落ち着かない。
(会話デッキはメモしといたし、声は録音してチェックした。それに、念には念を入れてのど飴も舐めたんだ。多分おかしいところは………ないと信じたい……)
会ったこともない人と声を繋いでゲームするのはザラにあったが、大人数で集まって練習するなんてのは初めて経験だ。
この手の集まりに関しては、右も左もわからない。
それに、知り合いはみっちーぐらいしかいない。アイツだけが頼りだ。
アイツ曰く、今日集まる奴らは全員クセが強いのばっからしい。
「何が"そんなに緊張するな"、だ。それ言われたせいでなんか余計に心配になってきたわ」
当のみっちーもまだ来ない。まさか、遅刻なんてしないだろうな。
というか、まだ部屋に俺しかログインしてないのはなぜだろうか。
時間ももうそろそろだ。
だが、ここには俺しかいない。
「もしかして部屋間違えたか……?」
まさかと思い、部屋番号を間違えてないか確認してると─────。
『聞こ……すか……』
ギリギリ耳で聴き取れるレベルの小声がする。
この部屋に新たに誰かがログインしてきた。
「聞こえてますよ!……あ、ミュートだ。聞こえてますよ!」
ミュートを解除して、精一杯返事をする。
『……さい』
「はい?」
上手く聴き取れず、反射で聞き返す。
『うるさい……黙って』
───まさかの黙れ。
心なしか、声には嫌悪が篭っているような気もした。………おそらく気のせいでは無い。
初対面──顔は合わせて無いが──にいきなりうるさいと言われるのはなかなか応えるものがある。
それはそうとちょっとは自覚があったから声のトーンを落とす。
「すんません……。さっきまで部屋間違えたか疑うくらい誰も来なかったんで、つい声を………」
『ん……。次から気をつけて』
「あはは………、気をつけますね」
(なんでちょっと上から目線なんだよ!てか、さっきから声が小さいなこの人)
高さ的におそらく女性だろう。透き通った声だが、小さくて聴き取りづらいのが残念さに拍車をかけている。
『………他はまだ来てないの……?』
「さっきも言いましたって誰も来てませんよ」
『ダウト』
「嘘じゃねーって!!」
『なんでそんな高圧的なの……?』
「アンタのせいでしょう……」
『こわい………』
「なんで俺が悪者みたいになってんの?」
『………つまらない茶番はやめましょ。おもんない』
「アンタが始めたんだろ?!」
(なんなんだコイツ………!)
ローテンションなクセして、イマイチ掴みどころがない………。
「はぁ……はぁ……」
『……ん、私の声に興奮するのは構わないけど、ここではデリカシーがないよ……?』
「過呼吸だよっ!アンタとの会話のキャッチボールで息切れしたんだよ!!」
おかげで体力ごっそり持ってかれた。
本当に何なんだこの女………!
『こんばんはー』
また一人誰かがログインした。
この聞き覚えある声は…………。
「河島さん!?」
『どうもー河島です。今日はよろしくお願いします………ってお前がやきとりか。挨拶して損したわ』
「損することはないでしょ!?」
俺と判断したや否や、紳士的な口調から一変ガサツな態度をとり始めた。
『貴方が河島………さん?』
『……聞き覚えない声ですね。もしかしてだけど"コトねこ★彡"さんであってます?』
「─────!!」
────コトねこ★彡。
現在モンスターランカーランキング一位の座に君臨する謎の人物。
顔も声も何から何まで不明。ランクマ以外の表舞台には一切現れないため、チーター説や運営が用意したbot説など、半ば陰謀論渦巻く都市伝説になりつつあった存在。
しかしその実力は確かで、俺とみっちーでさえ散々苦渋を飲まされてきた。
そんな幻のような存在の正体が、まさかこのイカれた女なのか───────!?
『………そう』
返事は短かった。
『やっぱりそうですよね。あ、俺は雑魚狩りの河島です。ヨロです。一緒に組めて光栄ですよホント』
河島さんが物腰柔らかに挨拶する。
(俺ん時とはうって変わった態度だな)
上っ面な丁寧語が普段の配信と相まって、こう、なんというか………ギャップが凄い。
『何か不満があるようだなやきとり』
「いえ何も」
『ならいい』
『こんちゃーす』
『………うす』
立て続けに二人がログインした。
一人目のかったるそうな挨拶はおそらく女性、二人目の暗い感じのは多分男性だった。
おそらく前者が"kS1n@JAPAN"。後者が"ビビンバ太郎"だろう。
『おう、遅かったじゃん』
『時間には間に合ってるしいいだろ』
『そーだそーだクリームソーダ』
『俺は遅刻が一番大っ嫌いなんだよ。次からもっと早く来いよ』
言うてアンタもギリギリだったじゃねーか。
というか、どうやらこの二人は河島さんとはタメ口で話せる仲らしい。
………なんか俺だけ三下みたいだな。
『これで揃ったか?じゃあまずは自己紹介から始め────あれ、おい待て"みっちー"はどうした?』
河島さんが進行を執り行う────と思いきや、まだ来てない人物の名を口にする。
『やきとり、みっちーはどうした?』
「………さぁ?」
『ランクマは一緒に回してたよな?』
「回してました。その後一旦別れてそれっきりです」
『…………』
「…………」
………あの野郎。
おそらく、いや十中八九しでかすと踏んでいたが、本当にやりやがったよ。
『みっっっっちぃぃぃぃぃい!!!』
遅刻魔が現れたのは河島さんがブチギレてから15分後のことだった。
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