第130話 初任務
多少実力があるだけの実戦経験もほとんどねえ雑魚は帰れ。
エリジャさんの文言にはいくらでも反論できた。
でも、僕はしなかった。
ケラべルスを倒したとはいえ対人経験が浅い事に変わりはないし、集団での任務という意味では確かに素人同然だからだ。チームプレーにも慣れてるわけじゃないしね。
「至らぬところは多くてご迷惑をおかけしますが、僕もしっかりと隊員の一員として任務を果たすという責任感を持って臨んでいますので、どうかご指導の方をお願いします」
「……チッ」
エリジャさんは大きく舌打ちをした。
僕は今回の任務の正式なメンバーだ。彼の独断では僕を外す事はできない。ただ嫌味が言いたかっただけだろう。
先が少し思いやられるな。
まあ、これから受ける任務の難易度は低めだから大丈夫だろうけど、万が一の事だってあるからね。
チームは全部で五人だった。
エリジャさんと同年代くらいの無気力そうな細身の男性と、一切表情を崩さない三十路に差し掛かったくらいの女性、そして僕より一回りほど年上だろう青年だ。
知り合いはいなかった。
簡単に自己紹介は済ませただけで、会話は終わってしまった。普段から四人で小隊として活動しているという話だったけど、仲良くはないようだ。
重い空気の中、思い切って青年——アランさんに話しかけてみた。一番僕に対する物腰が柔らかいように感じられたからだ。
「アランさん。いつもみなさんで依頼を受けているんですか?」
「基本的にはそうだな。ただ、稀に今回のお前みたいに誰かが入ったり、逆に一人が他の小隊にヘルプに行く事もあるけど」
「なるほど」
アランさんから普段の戦い方などについて教えてもらっていると、何やら地位の高そうな中年の男性がやってきた。
エリジャさんが途端に姿勢を正した。
「おいガキっ、ちゃんと背筋伸ばせ!」
「はい」
いきなりやる気になったなぁ。
「ノアはエリジャのチームに加わってもらう。ノアの強さは知っているだろうが、チームとして依頼を受けるのは初めてだ。お前らが教えてやれ」
「はっ、お任せを!」
エリジャさんがやる気に満ち溢れた返事をした。
いっその事、ここまで来ると清々しさすら感じた。
上官がいなくなった瞬間、彼は「おいガキ」と低い声を出した。
「いいか。ここからは
エリジャさんは不自然なほど「リーダー」の部分を強調し、馬鹿にするように鼻を鳴らした。
誇れるもののない人間ほど過去の栄光や地位にしがみつくんだ——。
以前、お義父さんは珍しく酔っ払っている時にそんな愚痴をこぼしていた。
特に出世コースから外れた中年に多いらしい。
多分、エリジャさんもそういう類の人なんだろうな。
変に彼のプライドは刺激せず、多少は変な指示でも従っておいた方がよさそうだ。
「あんま気にすんな」
アランさんが耳打ちしてくる。
「あの人はああいう人だ。俺はお前の事を好きでも嫌いでもねえが、その歳で特別扱いされていい事ばっかりじゃねえのくらいはわかってる。まあ、無難に仲良くやろうぜ」
「はい」
何でこんな人がエリジャさんの小隊にいるんだ——。
ちらっとそう思ってしまった。
任務の内容は、犯罪まがいの事をしている小規模人間主義者組織の摘発だった。
僕たちがやってくるのを監視していたのだろう。
声をかける前に、ざっと十名ほどの男女が姿を現した。
その周囲には結界が張られている。
魔法師が紛れている事の証明だった。
「
「いかにも。私がリーダーのエリジャだ」
エリジャさんは妙に芝居がかった所作でそう言った。彼は挑発するように、
「人間主義者が魔法師に頼るとは笑いものだな」
「魔法師は人間より下位の存在だ。頼っているのではない。武器として使っているのだ。剣や銃と同じようにな」
「ふん、御託を並べるのは牢屋の中にする事だ」
エリジャさんが攻撃魔法を発動させた。
相手の結界に阻まれる。
「さあ、畳みかけろ!」
効果的な攻撃じゃなかったけど、エリジャさんは意気揚々と言った。
多分、攻撃が効いたかどうかじゃなくて、自分が戦いの火蓋を切ったという事実が大事だったんだろうな。
攻撃は僕とアランさんで行い、エリジャさんともう二人が守備を担当した。
エリジャさんの守備力はなかなかのものだった。死角からの攻撃にもしっかり対応している。
普段から守りを担当していると聞いた時は意外に思ったけど、明らかに攻撃魔法よりも防御魔法の方が強度が高いから仕方なくやっているのかな。
相手の魔法師の数はざっと僕らの倍だったけど、戦力差は明白だった。
殺してしまわないように調整しつつ、着実に戦力を削っていく。
「アランさん」
「どうした?」
「なんか相手、僕らを誘っているように見えませんか?」
具体的にどこがとは言えないけど、何となくそう感じた。
「……確かにな」
アランさんも無意識下では感じ取っていたらしい。
「なるべく遠距離攻撃主体で行くか」
「はい」
魔法の構築スピードも強度も僕らの方が高い。
多少距離を取っても、何ら問題はなかった。
相手の表情にも焦りが見え隠れしていた。
退路はすでに塞いでいる。このまま焦らずに攻めればいけるな。
僕がそんな事を思っていると、
「あとは俺がやる、お前らは手を出すな!」
「……はっ?」
思わず疑問の声が漏れてしまった。
これまで防御に徹していたエリジャさんが、いきなり最前線までやってきたのだ。
(えっ、まさか手柄を独り占めしようと思って出てきたの?)
さすがに呆れてしまったが、何を言っても聞きそうにないので、僕は「手を出すな」という指示に従って放っておく事にした。
「ちまちま遠めからやってんじゃねえっ、こんな奴らは拳で倒しゃいいんだ!」
エリジャさんはおそらく僕とアランさんに向けたものであろう罵倒を吐きつつ、果敢に殴り込んでいった。
——相手のリーダーらしき男がニヤリと笑うのが見えた。
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