第120話 合宿二日目⑥ 〜元カノの狙い〜
「うっ……!」
眩しさを感じて、シャーロットは咄嗟に目を
「一体、何が……はっ、アローラさんは……⁉︎」
彼女は自分がアローラを倒してしまったのではないか、と危惧した。
しかし、色を取り戻した彼女の視界には、見慣れた赤色があった。
アローラは呆けた面を浮かべていた。
彼女自身も状況理解できていないように見えた。
「——いやあ、すごい威力だったね。シャル」
「っ⁉︎」
聞き間違えるはずのない、中学三年生の男の子にしては少し高い声。
シャーロットは視線を向け、馴染み深いカラメル色を認識して歓声にも似た声をあげた。
「ノア君……!」
「お待たせ。遅くなってごめんね」
「いえ、来てくださってありがとうございます!」
シャーロットはアローラと相対していた事も忘れて、ノアに飛びついた。
しかし、そのままイチャつく事は叶わなかった。
「の、ノアっ、どうしてここに⁉︎ 外側からは私とシャーロットしか干渉できないはず……!」
うめくように言うアローラの表情からは、それまでの余裕は消え失せていた。
◇ ◇ ◇
「どうして僕がこの結界に侵入できたのか……それを君に言う必要はないよね」
僕は冷ややかにアローラに告げた。
実際には、シャルの魔力はなんとなく覚えていたから、エリアから魔力をもらってそれを変質させて、シャルの魔力を作り出した。
僕の記憶と腕前は確かだったみたいで、シャルの魔力もどきをまとったら簡単に結界に侵入できた。
その時ちょうど、シャルがアローラに即死級の攻撃を喰らわせようとしていたから、慌てて吸収したというのがここまでの流れだ。
「っこの……!」
アローラが睨みつけてくる。
射殺さんばかりの視線だ。
「ノア君、気をつけてください。彼女はスミス家の秘宝を使ってきました。まだ隠し玉があるかもしれません。もっとも、おそらく彼女の狙いは
「なるほどね」
可能性の一つとして考慮はしていたけど、やっぱりそういう事だったのか。
そして、どうやらシャルの推測はすべて正しいようだった。
最初に感じたのは、暗い、という事だった。
結界の中は白く濁っていた。暗さを感じるという事は、結界が解かれたという事だ。
「……舐められたもんだね」
視線はアローラに固定したまま、魔力を鎖状に練り上げて背後に飛ばす。
二つの確かな手応え。対象に魔力の鎖をグルグルに巻き付け、引っ張る。
鎖に繋がれていたのは、二人の男だった。
片方の顔には見覚えがあった。
「ヘンリー先生……!」
結界の外で待機していたエリアが、唇を噛みしめた。
彼女はヘンリー先生を慕っていた。彼が自分たちを陥れる作戦に加担していたのはショックだろうな。
けど、今はエリアの精神をケアしてあげられるほど暇じゃない。
「結構素早い判断でしたね。不測の事態が起きた時は、あなたは即座に離脱するという指示でも受けていたのですか?」
ヘンリーではない方——おそらく結界を実際に構築していた魔法師︎——に尋ねるが、返答はない。
まあいい。どのみち彼にできる事はもうない。
エリアを捉えていたやつもろとも、事情は後で聞けばいい。
それよりも、優先的に対処すべきは——、
「クソがぁ!」
アローラからいくつもの高強度の魔法が飛んでくる。
僕はそれを結界で防いだ。
「アローラ、もう諦めなよ。ここから逆転する手立てはないでしょ」
「うるさい!」
アローラがどんどん魔法を放ってくる。
本当の奥の手を隠すための演技かとも疑ったけど、あれはもう確実にヤケになっているな。
なら、軽くボコしてから話を聞けばいいか。
「——ノア君」
「ん?」
「アローラさんを仕留めるのは、私に任せてもらえませんか?」
喉からは「僕が仕留めるから大丈夫」という返答が出かかっていた。
でも、シャルの目を見た瞬間、僕は頷いていた。
「わかった、任せるよ」
「ありがとうございます」
「あっ、シャル」
「はい?」
一歩踏み出した状態で、シャルは振り向いた。
「後の事は気にしないで。全力でやっていいよ。絶対に面倒な事にはならないから」
「……わかりました。見ていてください」
「うん、頑張って」
シャルと拳をぶつけ合ってから、エリアの側に寄る。
「……いいの? 今は一刻も早くアローラを仕留めるべきじゃない?」
エリアは不安そうに尋ねてきた。
「まあね。けど、なんとなく直感したんだ。今後のためにも、今はシャルに任せた方がいいって」
「まあ、確かにお姉ちゃんの心情的には自分で倒したいだろうね。でも、大丈夫なの? アローラの狙い的に傷つけない方がいいだろうし、そもそもお姉ちゃんはあいつと相性は良くないでしょ?」
「アローラの狙いに関しては心配しなくていいよ。絶対に大丈夫だから。それに、アローラが色々余計な事をしている間、シャルは強くなる努力をしていた。この状況で負けるほど、僕の彼女は弱くないよ」
「親バカならぬ彼バカだねぇ」
「エリアは信じてないの?」
「お姉ちゃんが負けたら明日一日ノーパンで過ごしてやろう」
「男気はあるけど格好良くないなぁ」
僕とエリアは笑い合った。
僕らの視線の先では、アローラの長距離砲の嵐をかいくぐったシャルが、アローラを蹴り飛ばしていた。
「おー、さすがお姉ちゃん……って、ノア? 今何か魔法使った?」
「えっ、感知魔法使ってる?」
「軽くね」
エリアが指でわずかな隙間を作った。
「僕にも魔力くれたのに、すごいね」
「最近明らかに魔力の消費効率良くなってるんだよね……じゃなくて、何したの?」
「ちょっとね——」
僕は口元を緩め、シャルとアローラに目を戻した。
「——ま、後で教えるよ」
思った以上に、決着がつくのは早かった。
アローラが弱かったのではない。想像以上にシャルが成長していたのだ。
未だ殻は破れていないようで、まだ学生の中では頭ひとつ抜け出したかな、というくらいのレベルだ。
それでも、Aランク魔法師の中でも上位の実力を持つアローラを圧倒するには十分だった。
エリアを捕らえていた魔法師、シャルとアローラを閉じ込める結界を構築していた魔法師、ヘンリー先生、そしてアローラ。
鎖につないだ四人を横一列に並べてさあ尋問を開始しようとした時、
「——お前たち!」
一人の女性教師が駆けてきた。
生徒会でもお世話になっているエブリン先生だった。
彼女の後ろから、何人もの先生が続く。
ざっと観察したところ、ヘンリー先生以外に内通者はいないっぽいな。
誰かが遮音の結界を張った。
アローラとシャル、エリア、僕、ヘンリー先生。
このメンツで起きたいざこざの詳細は、確かに他の生徒に聞かれていいものじゃないよね。
「これはどういう状況だ⁉︎」
「え、エブリン先生っ、助けてください!」
エブリン先生の問いかけに真っ先に声を上げたのは、誰あろうアローラだった。
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