第96話 シャルと一緒にエリアを揶揄ってみた

「エリアは今日、どんな予定なの?」


 シャルに機嫌を直してもらった後、僕はエリアに尋ねた。


「午後に予定があるけど、午前中と夜はフリーだよ。本当はここに泊まらせてもらおうと思ったけど……やめとこうか?」


 エリアが僕とシャルの顔を交互に見比べた。


「いや、僕は実家に帰るよ。連泊はなるべくしない方がいいだろうし」

「そうなの? じゃあ、今日は私がお姉ちゃん可愛がってあげよっと」

「あんまりいじめすぎちゃダメだよ」

「私、どんな扱いなのですか」


 シャルが不満そうにしている。

 そんな顔も可愛らしい。


「お姉ちゃんとノアの今日の予定は?」

「それなのですけど……エリア。本日お父様はいらっしゃいますか?」

「えっ……どうしたの?」


 エリアが眉を寄せた。

 シャルは、報奨金について話をした。


「に、二千万はすごいな……じゃなくて、夕方なら確実にいると思うよ」

「わかりました。では、夕方に実家に行きます」

「着いていかなくて大丈夫?」


 エリアが心配そうに尋ねた。


「はい、事務的なやり取りをするだけですから。それに、エリアも約束があるのでしょう?」

「うん。けど全然ずらせるよ」

「大丈夫です。心配してくれてありがとうございます」

「……うん、わかった」


 渋々といった様子で引き下がるエリアは、少し寂しそうな表情を浮かべていた。

 シャルに断られた事より、姉が父との面会を事務的と言い切った事が寂しかったんだろうな。


「エリアは出かけるの昼過ぎなんだっけ?」

「うん、そうだよ」

「ならさ、シャル。僕らも一緒のタイミングで家出ない? 夕方まで本屋とか行こうよ」

「いいですね」


 シャルが笑顔で頷いた。

 元々、どこかのタイミングで本屋に行こうと約束はしていた。


「決定だね。夕食はどうする? エリアは外?」

「ううん、夕食前には解散予定だよ」

「今日僕が夕食作る予定なんだけど、エリアも食べる?」

「あっ、食べたい! 何気に初じゃない? ノアの夕飯」

「確かにそうだね」


 今までにも昼食やおやつを作った事はあるけど、夕食を作った記憶はない。

 まあ、僕とエリアが夜まで一緒にいるシチュエーションなんてそうそうなかったしね。


「アレルギーとか好き嫌いとかある?」

「いや、全くないよ」

「オッケー。じゃあ今日はナマコの甘辛煮とカエルの唐揚げとヘビのスープでいいかな」

「おぉ、ちょっと待つんだ少年」

「ん、何?」


 僕は首を傾げた。

 シャルも平然としている。


「……えっ、マジ?」

「何が?」

「ちょ、ちょっと待って。な、ナマコと、カエルと……?」

「ヘビのスープ」


 僕が平然と付け加えると、エリアが笑みを凍り付かせた。

 その頬は引きつっている。


「あれ、どれか食べられないのあった?」

「い、いや、あの……ちょっとそれらはなしで、できれば普通の——」

「あぁ、大丈夫だよ。そんな希少種は使わないから」

「い、いや、そうじゃなくてっ! まずナマコとかカエルとかヘビじゃなくて——」

「——ぷっ」


 見た事のないくらい真剣な表情で訴えかけてくるエリアを前に耐えきれず、僕は吹き出してしまった。


「あっ、だ、騙したの⁉︎」


 エリアの顔が真っ赤に染まった。

 それを見てシャルも吹き出した。


「もう……びっくりさせないでよ〜」


 エリアがホッと息を吐いた。


「ご、ごめんっ……一応それらを食べるところもあるらしいんだけど、さすがに僕らは食べないよっ……」

「え、エリアのあんな焦った顔、初めてみましたっ……」


 僕とシャルは必死に笑いを堪えた。


「ぐぬぬっ……」


 エリアは不満げに唇を尖らせていたが、やがて一緒に笑い出した。


「エリアはそのまま泊まるのですよね?」


 ようやく笑いを収めたシャルが、エリアに問いかけた。


「うん。さっきのお返しで、たっぷり添い寝したげる!」

「それは置いておいて、明日の予定はどうなっているのですか?」

「ふっふっふ」


 エリアが不気味に笑い、人差し指を天井に高々と突き立てた。


「なんと、明日は一日フリーなのだ! というわけで、三人で遊ぼう!」

「いいですね。私もノア君も予定ありませんし」

「ノアもいい?」

「もちろん。でもさ、僕もいていいの? たまには姉妹水入らずで遊びたいんじゃない?」


 ずっと前から気にしていた事だ。

 ただでさえシャルとエリアが共に過ごせる時間は限られているのに、僕がシャルと一緒にいる事が多いために、二人きりで過ごす時間がほとんどなくなっているのだ。


「正直なところ、そこら辺は二人はどう思ってる?」

「うーん……」


 エリアが唸った。


「……まあ、確かにお姉ちゃんと二人で過ごしたいっていう思いもあるよ? けど、三人で遊びたいっていうのもあるんだよね……お姉ちゃんは?」

「私も同じです。あっ、決してノア君を仲間外れにしたいとか、そういう事ではありませんよ?」

「わかってるよ」


 そこまで卑屈な考えは持ち合わせていない。


「なら、明日は午前中だけ混ぜてもらおうかな。午後はせっかくだし、WMUダブリュー・エム・ユーの見学に行ってみるよ」

「おー」


 エリアがパチパチと謎の拍手をした。


「WMUっていうと……『WMUっぺらいです』だっけ? ——お姉ちゃん」

「……ノア君」

「は、はいっ」


 底冷えするような声を出したシャルに、思わず敬語になってしまう。


「そこの私と顔の似た女を羽交い締めにしてくださいさあ早く」

「わ、わかりましたっ!」


 シャル、もとい氷の女王の命令には逆らえない。

 僕は身体強化を発動させ、エリアの両脇に腕を差し込んで拘束した。


「エリア、ごめん!」

「えっ、は、はやっ⁉︎ ちょ、ノア⁉︎」

「僕はあれには逆らえないっ、というか自業自得だよね君!」

「そうですね。今から自業自得という言葉をあなたの頭に、いえ、脂肪の塊に教え込んであげます」

「ちょ、お姉ちゃん! 待って、話し合おう!」

「エリア——」


 シャルがにっこりと微笑んだ。


「——もう、そんな段階ではないのです。さあ今日こそは許しませんよあなたも私と同じいえ私以上の断崖絶壁になるといいでしょう大丈夫楽になれますよ全て私に委ねてください」

「怖い怖い怖いっ、悪徳宗教の教祖みたいになってるから!」


 エリアの必死の懇願こんがんも叶わず、シャルが手を振り上げた。


「ちょっ——」


 ——バチン!

 シャルの平手がエリアの胸を襲った。


「いったぁ⁉︎」


 平均以上のエリアのおっぱいが波打ち、僕は思わず「おおっ」と感嘆の声を上げてしまった。


 結果、僕も怒られた。

 エリアはずっと羞恥で震えていた。

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