第27話 未来は過去に


月曜。また学校が始まる。


あの頃よりも時間の流れが速く感じるようになったが、それでも授業は退屈だ。


それに比べるとレオは生き生きしているように見える。


あいつは俺以上に勉強に興味ないはずなのに。


学業を終え、今日もレオと共に下校する。


「そういやお前、土日は何してたんだ?」


今になって御崎に聞かれた事を思い出し、尋ねてみる。


「教えねえ」


「なんだそりゃ」


「ただ一つ分かった事がある。

 俺ァ女になっても女にモテる」


…やっぱり女の子と遊んでたのか。


「俺の事はどうでもいいんだよ。

 オメーはどうだ、今日は御崎と話したか?」


レオが逆に質問してきた。


「話したよ」


「どんな話した?」


「いつも通りだよ」


いつも通りって、言うほど前から学校で話していたワケではないけど。


でも、距離は確実に近くなってる気がする。


なんとなく視界に入った時にふっと目が合ったり、そんな時に微笑んでくれたり。


こんな経験、高校でも大学でもしたこと無いからすげぇ嬉しい。


「なあレオ。御崎ってさ、大学行った後どうなったか知ってるか?」


「知らねえ。

 俺は俺で忙しかったし

 いちいちアンテナ張ってねーって」


そ、そっか。そうだよな。


いくらレオが方々ほうぼうに顔が利くとはいえ、疎遠になった同窓生の事だもんな。


こいつはこいつで芸能人とか相手にしてたわけだし。


「…やっぱ結婚とかしてたのかな?」


なんとなく引っかかってた疑問を口にする。


「二十七だからなぁ。

 御崎くれーいい子なら

 結婚して子供がいてもおかしくねーわな」


まぁ、誰でもそう思うよなァ。


「なんかさ。この生活がいつまで続くかわかんねぇけど、仮によ。

 俺がこのまま御崎にアプローチかけて

 上手くいったとしたらさ。

 この先御崎に出来る旦那とか、子供とか、

 そういう未来も全部変わっちゃうのかなって思うと

 本当にこのままいっていいのか…」


実はこの週末、ずっとこんな事を考えていた事だった。


あの子にとっての幸せってどっちなんだろう。


それなりに真剣な悩みのつもりだったのだが…。


「ぶぁーっかじゃねえの!?」


凄まじい怒りの形相で吐き捨てるレオ。


また逆鱗に触れてしまったようだ。


胸ぐらを掴まれ、ものすごい力で引き寄せられた。


「お前が言ってる十二年後ってのはなァ、

 これから起きる未来じゃねえんだよ!

 過去なんだよ、俺らにとっちゃよ!!」

「全部終わった事、消えた未来だ!

 本当の未来はこれから築いていくんだよ!」


怒鳴るレオの唾液を顔面に浴びる。


美少女のものとはいえツバをかけるのは勘弁してほしい。


「仮に御崎が十二年後結婚してガキがいたとしても、

 それは既に達成されて、終了、消滅したんだ!

 だってのに本当にいたかもわからねえ確認のしようもねえ

 御崎の子供に気遣ってるフリして

 行動しねえ理由にするな!!」


思った以上に真剣に怒られてる…。


更にヒートアップしたレオが付け加えた。


「過去をなぞろうとするな!変えていけ!!

 これから広がる新しい未来の事は

 誰にもわからねえんだからよ!!」


そう…だよな。確かに、そう考えるべきだった。


こいつの前向きな姿勢には本当に頭が下がる。


一人でモノを考えるとついついネガティブな方向に進んでしまう。


何度も、こいつに説得されて前を向こうと決めたはずなのに。


「悪かった、お前の言う通りだ」


頭を下げて謝ると、レオは邪悪な笑みを浮かべていた。


「それとな、初カノと上手くいってゴールイン出来る奴なんて

 ごく少数だからな。

 お前、いくら俺のサポートがあるからって

 勝手に勝利確定とか思ってんじゃねーぞ」


これから頑張って御崎にアプローチしようと思ったのに、嫌な事言うなぁ。


確かにうぬぼれの強い考えだったかもしんないけど、勝ち確とまでは思ってねえって。


気付くと、周囲には人だかりが出来ていた。


レオ、ただでさえ誰もが振り返る美貌を持っているのに人目をはばからずギャーギャー騒ぐから滅茶苦茶衆目を集めるんだよなぁ。


その中の一人、なんだか背の高い男がこちらを睨んでいる。


多分、身長180センチ近くある。青いラインの入った学ランは近くの工業高校の制服だ。


眉毛が不自然に細く、髪の上部だけ金髪に染め、ピアスをバシバシに開けたイカつい高校生。


そいつがゆっくりとこちらに近づいてきて、目の前に立ってこちらを見下ろした。


「おい、綿貫ってのはお前か」

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