第26話 照れ隠し


家に帰ると、玄関に女性ものの見慣れない靴。


レオか?


リビングから母親が顔を見せる。


「おかえり、りっちゃん来てるよ」


「えっ?」


「部屋で待ってるって」


やはりレオか。


「来てるなら連絡してよ」


そう要望を伝えるも、母は。


「あんたたちが連絡取り合えばいいじゃん」


ごもっとも。


あいつから連絡してくりゃいいのに。


いや、もしかしてデートの邪魔をしないよう気遣ってたのか。


部屋に入ると、レオはまた俺のベッドに横たわり漫画を読んでいた。


女になったレオの私服は初めて見たが、意外にもワンピースのスカートにブラウスと可愛い系のファッションだった。


悔しいが似合っている、可愛いと思う。


だが、男だった頃のレオのイメージとは真逆すぎて面食らう。


「おう、どうだった?」


レオは服の事には触れず、すぐにデートについて聞いてきた。


「いや…なんか上手くいった気がするよ」


「だろ?

 まーた俺の言った通りになったな!」


屈託の無い笑顔を見せるレオ。


「恋愛アドバイザーすら上手くこなしちまう

 自分の才能が怖いぜ。

 やっぱ俺って何やらせても天才なんだな」


「ありがとう、レオ」


「ああ?」


間抜けにも十二年以上かかって気付いたあの時の事に感謝を伝えたい。


「十二年前のお前、御崎と付き合った後で

 俺の気持ちを知って…それで…」


レオは目を丸くして、暫くぽかんとしたあと。


「…なぁーにを重く捉えてんだよオメーは」


そう言うと、喉元に地獄突きを繰り出す。


食らったらマジで危ないので必死で避ける。


「自意識過剰なんだよタコ!!

 この俺がお前のためだけに

 釣った魚をリリースするワケねーだろ。

 それじゃああの子が可哀相じゃねーか」


ええっ!?


いや、確かに可哀相だけど、それをわかった上で…。


「御崎が俺に惚れてた事ぁ間違いねえけどよ。

 多分、お前のこともちっとは気にかけてたんだよ。

 そういう迷いみたいなの、敏感に察知しちゃうんだよ。

 俺くらい恋愛経験が豊富だとな」


レオは腕を組んでふんぞり返るとまくしたてるように語り出した。


「それに気付いちまったらよぉ。

 身を引くしかねえよな。

 御崎には俺みたいな軽薄男より

 もっと誠実な野郎の方が合ってるだろ?

 別れ方も円満だしな」


なんだ、結局は身を引いたって事じゃないか。照れ隠しに暴力を振るいやがって。


「それをテメーが童貞だから

 御崎がフリーになったってのに

 告白もせずによぉ」


しまった、またお小言が始まった。


「…すまん」


素直に頭を下げる。


「まぁ、全然俺も気にしてねえから忘れてたんだけどな」


レオは全く気に留めない素振りで俺に微笑みかける。


その笑顔の眩しさに思わず鼓動が高鳴った。


くそっ、コイツは親友!


そう再確認したばっかりだってのに…!


「なんでオメーは女になっちまったんだ…!」


「こっちが聞きてえわ!

 俺だって男子中学生に戻って性欲全開で遊び倒してえっつの!!」

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