第25話 親友


二人でボートに乗ったあとも、夕方くらいまで公園でぼんやりとした内容の世間話をした。


友人のこと、部活のこと、受験のこと。


御崎は頭がいい。


進学校を受験するつもりだと言って、不安そうにしていた。


確か、俺の知ってる未来では合格したはずだ。


そのあと東京の大学に行ったような事を聞いたけど、その先は知らない。


俺も同窓会に出てないし。レオに聞けばわかるかな。


…御崎、この先どうなっていったんだろう。




今日、公園で何をして遊んだと言えるような内容は無い。


緊張もしたし、身体を動かすよりよっぽど疲れたかもしれない。


だが楽しかった。


御崎は中学生にしては大人びた考え方をしているし、俺の話も真面目に聞いてくれる。


馬鹿みたいな冗談にも付き合ってくれるし…凄く充実した休日に感じた。


そして、別れ際。


次の約束を結びたい…と考えていたが。


この場で言わない方がいいかな、一旦帰ってからそれを口実に連絡して…なんて考えていたところ、御崎から再び単刀がぶっこまれた。


「ねえ綿貫君。

 りっちゃんの事、どう思ってる?」


そこに戻ってくるのか。


いや、御崎はずっとこの事が聞きたかったんじゃないか。


別れ際、今しかないと思って切り出したんじゃ。


とはいえ、俺も即答出来ずについつい言葉を失う。


レオの事…。


乱暴で横柄で、唯我独尊の極みのような男だったけど。


あいつだけがいつも俺の事を気にかけてくれていた。


「綿貫君、あの…言いづらかったら答えなくてもいいからね?」


いや、考えるまでもなかった。


答えは決まっている。


「あいつは親友だよ」


正直な気持ちだった。


「今も昔も、ずっと親友だ。

 これから先も…死んでも、ずっと。

 生まれ変わって、姿かたちが変わったとしても

 親友でいたい」


あいつの性別が変わっていた事で、これまでは少々混乱していた。


だが、改めて御崎に問われ、自分の気持ちと向き合い。


言語化する事でモヤモヤしていた部分が鮮明になった気がする。


「そっか」


御崎は優しく微笑んだ。


「大好きなんだね、りっちゃんのこと」


えっ、そう受け取る!?


「い、いや…じゃなくて、幼馴染として!

 友達として…」


「わかってる。

 伝わったよ」


御崎は少し困ったような顔をして、また笑った。


そ、そうか…。よかった。


二十七年生きてきて。


仕事の手順も人間関係も、納税の仕方もわかったけどこういう経験はしたことが無い。


恋愛に関しては、俺って本当に中学生以下なんだろうな。


その事をしっかり自覚し、大人ぶらずに真摯に向き合っていかなくちゃな。


「御崎。…また誘ってもいいかな?」


「うん。次は私からも誘っていい?」


御崎はそう言うとまた優しく微笑んだ。

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