第23話 天気晴朗なれども心拍数高し
絶好の散歩日和。
ではあるが、なんだろう。汗が冷たい。
広い運動公園の舗装された歩道を二人、ゆっくりと歩いていた。
中学生の休日としては非常に健全であると言える。
が、大丈夫か?これで。
御崎を楽しませる事が出来ているのだろうか。
レオならどうしてる?
いや、レオを基準に考えてはいけない。
あいつにはイケメン補正があった。俺には無い。
せっかく広くて遊べる公園に来たんだから、グローブとボールでも持ってくるべきだったか。
でも、男同士ならともかく御崎ってそんなにアクティブに遊ぶイメージも無いし…。
何が正解だったんだろう。
学校と変わらぬ世間話の合間、無言になる時間が頻繁に起きる。
そのときが気まずくて、周囲を見回して何か話題は無いかと探してしまう。
「…ごめん。遊ぶ道具も何も持ってきてないし
退屈だよね」
素直な気持ちを吐き出してみる。
「そんな事無いよ。
ただ歩いてるだけでも、私楽しいよ。
綿貫君とゆっくり話す機会なんて無かったし」
「えっ、そうだっけ?
ああ、いつもレ…
あいつうるさいもんな」
「ふふっ。そういえば
りっちゃんは今日何してるの?」
…そういえば聞いてないな。
あいつ何してるんだろう。
別に昔から休みの日を常に一緒に過ごしていたわけでもないし、気にしてなかった…というか今日に関しては、自分の事で手一杯だった。
「わかんないなぁ。
どっか遊びに行ってるんじゃないかな?
あいつがじっとしてるとも思えないし」
「そっか。
綿貫君も普段は土日、部活だもんね」
「あ、ああ…」
そっか、中学の頃は土日も毎日レオと会ってたのか。
今日も本来なら部活に出てたはずなんだけど…。
「…柔道、やめるの?」
こちらの顔を覗き込むようにして、御崎が問いかけてくる。
「…わかんねえ」
濁している訳では無く、自分でも本当にわからない。
「やめたいの?」
御崎が更に踏み込んでくる。
正直、まだ迷っている。
つらい練習をやめたいのもあるが、次にやりたいことを見つけたわけではない。
柔道そのものは好きだし、部活で知り合った仲間たちもいた。
だが、何よりこの先の人生で自分の限界を知ってしまった。
「…俺が頑張っても…」
…本当に満足か?
ずっと隣にいるレオと自分を比べてきた。
いつもあいつが先を行って、俺が後ろから追いかけて。
それでもインターハイで優勝したり、強化選手に選ばれたときは嬉しかった。
思えばあの時が俺の柔道人生のピークだった。
でももしも、まだ先があるなら。
あの先へと進めるのなら。
……無理だ。
レオがいない柔道を続けていくなんて。
俺があそこまで行けたのも、隣にレオがいてずっと目標にしてきたからだ。
あいつ無しであれ以上の努力は出来ない。
「頑張っても?」
「…俺がどんなに頑張っても金メダルは獲れないんだよ」
少し茶化すように大袈裟に言って笑わせたつもりだった。
でも、御崎は。
「獲れるよ」
真剣な顔で、俺の目を真っ直ぐに見つめてそう言い切った。
「綿貫君なら、きっと金メダル獲れるよ」
彼女はメダルの重さを知らない。
レオがどれだけ苦労して、どれだけ戦って、どれだけ努力して頂点に立ったか。
その陰で何人もの天才が涙を飲んだ事も。
まだ中学生の彼女がそんなの知る由もない。
だけど。
…だけどその言葉は疲れて力尽き、現実に打ちのめされた俺の心に深く突き刺さった。
何も知らない子供の、純粋な言葉。
結末を知る前の俺だったら、レオがいなくても本気で信じて突き進む事が出来たのだろうか。
夢……か。
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