第22話 学習せよ


「レオ」


「あんだよ、誘ったか?」


「誘ったよ。

 なんか…すげー上手くいったんだけど」


「だろお!?

 言ったろ!絶対いけるって!!」


レオ…俺の成功を本気で喜んでいるように見える。


もしかしてマジで勝算ありと思ってたのか?


「なんか…自分でも信じられねえわ。

 女子がこんなに簡単にオッケーしてくれるなんて…。

 俺さ、この世界に来て女子からの印象がよくなったりしてんのかな」


先程思い浮かんだ疑問を口にするとレオはそれを真っ向から否定した。


「違うね。これは『if』なんだよ。

 何も行動せずに童貞抱えてバブバブ寝ていたあの頃のお前が

 勇気を振り絞って女の子を誘っていたらどうなっていたか。

 もしもあの頃と別の選択肢を選んでいた場合。

 こうなってたんだよ。わかったろ?」


ほ、本当にそうなのか?


本当にあの頃の俺が御崎を誘っても同じ結果になったのか?


「なんでオメーはあの時行動しなかったのか。

 後悔したって遅せぇぜ。

 でも後悔しただろ?

 よかったじゃねえか。

 取り逃した経験値を取りに戻れてよ」


口は悪いが祝福してくれているようにも聞こえる。たっぷり俺の過去を否定しながら。


いや待てよ、前の世界じゃレオが御崎と付き合ってたじゃねえか。


今と同じ結果になるわけねえじゃん。


「で、どこ行ってくんの?」


「…公園」


またダメ出しされるだろうと予想はしていたが、案の定レオは退屈そうな表情を見せた。


「公園?ふーん、いいんじゃない?

 金の無い中学生らしくて。

 童貞を隠そうともしない感じで」


「どこに誘っていいかわかんねえんだよ!

 アドバイス無しで考えろったって難しいだろ最初は!!」


「甘えてんじゃねえ!!」


掌底が腹筋にめり込む。


レオが打撃を当ててすぐ腕を引いた事で衝撃が内部にずしんと残った。


「なんでも最初から答えを教えてもらってるようじゃ

 成長なんかねえんだよ!

 自分で試行錯誤して行動しろ。

 その結果失敗したって無駄じゃねえ!

 たくさんフラレろ!フラレて成長しろ!!

 それはお前が前の人生で経験出来なかった事だ喜べ!!」


「くそっ、もっともらしい事言いやがって…」


「いいや、俺ァ正しい!

 俺ァたまに正しい事も言う!!」


こいつは間違った事を言っている時も正しいと主張してくるので信用ならないが、今回は一理ある。


先程の御崎とのやり取りでも痛感したが、俺には女子と関わった経験値が足りなすぎる。


「だいいち公園がダメだなんてヒトコトも言ってねえ。

 俺ァ褒めたはずだ」


言葉じゃ褒めてたが態度が貶してただろ。


レオは俺の肩に肘をついて寄りかかるように体重をかけて来た。


「心配すんな。

 些細な事でお前を見限る程

 御崎はケツの穴の小せえ女じゃねえ」


女子にケツの穴とか比喩でも言うな。


それに不安を煽ってきたのはお前だ。


「俺思い出したんだよ、なんで御崎と付き合った事忘れてたか」


「やっぱり忘れてたんじゃねえか」


「俺、あの子となんもしてないんだよね。

 セックスどころかキスすらも」


は、マジで?


「おかしいと思ったんだよ。

 俺、一度やった娘の名前は忘れても裸は忘れねーから」


「クソ野郎が」


「だからよ、俺に配慮する事なんてないぜ。

 そもそも元カノに手ェ出すなってのも冗談だしな」


「い、いや別にそこは全然気にしてなかったけど…

 え?なんであの性獣だったお前が…」


手を出さないなんておかしいだろ。忘れてる方がまだこいつらしい。


「そこはどーでもいいんだよ、タコ。

 俺ァ帰る。童貞らしく口説き文句でも用意しとけ」


そう言うとレオは俺の部屋から勝手に大量の漫画を持ち出して去って行った。

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