第20話 正しいやり直し


帰宅。


母親は仕事に出ているのでレオと自室へ。


この女子と二人で自分の部屋にいるという状況がどうも慣れない。


「誘え」


ベッドに腰掛けるなりレオが命令してくる。


誘えとは当然、御崎をデートに誘えという意味である。


「いや、御崎まだ家にいないかもしれないし、夜の方がいいだろ」


「相手が今何をしてるかなんて関係ねえ。

 忙しかったら無視するだけだ。

 メッセージなんて気付いた時に読んで

 気が向いた時に返すんだよ。

 返事がすぐに返ってこなくても泣かなくていいんだぜ」


さっきはアドバイスなんてしないと言っていたくせに、自分に都合よく動かしたいときはこうして口を出してくる。


よくよく考えたらこいつの“女の子と遊んでます”マウントは本人の経験則から来ているものであり、「※ただしイケメンに限る」を地でいっているものだ。


最初からこいつに助言をもらったところであんまり意味が無かったかもしれないな。


「…文面を考える時間をくれ」


「考えろ。俺が漫画に飽きるまでにな」


そう言ってレオは無防備にゴロンと横たわりいつの間に手にしたのか本棚にあった漫画の単行本を読み始めた。


デートに誘うったって…。


まずは『土曜日空いてる?』でいいか。


いや、用件を伝えずに予定だけ聞くのは不誠実か?


無駄にラリーが増えるだけかもしれない。


『土曜日空いてる?

 暇ならどこか遊びに行かないかなと思って』


これならどうだろう。


あんまり長文にするのはよくないか?


『土曜日空いてる?』

『どこか遊びに行かない?』


二通につうに分けてみるのはどうだろう。


いや、なんか押し付けてる感じで上から目線に読めるか?


だいいち遊びにってどこに誘えばいんだろ。


御崎の好みだってわかんねえし。


「これまだ十二巻しか出てないんだっけ?」


こっちが必死で頭を悩ませているのに、レオは能天気に漫画の新刊を探している。


「十二年前だぞ、この時代にまだ完結してないしそれが最新だろ」


「あー、続き読めねぇの辛いな。

 映画もさー、俺好きだったシリーズ、こっちだとまだ途中じゃん。

 そういうのが全部未来と繋がってるスマホとかねーかな」


「そんな都合のいいもんあったら

 もっと有意義な時間を過ごしてるよ」


「未来のwikiとかに繋がってさ。

 そしたら競馬で大儲け出来たのにな」


夢と妄想でだらしなく表情が綻ぶレオを見て羨ましく思う。


お前は十分恵まれた能力を与えられてるだろうに。


嗚呼、こと女の子に関しては二十七年の人生経験も一切役に立たねえ。


っていうか俺、ずっと柔道に打ち込んできてそれを失った今、何が出来るんだろ。


十二年前に戻ってやることが童貞卒業で本当に合ってるのか?

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