第19話 雄思考


「聞いたよ、連絡先」


放課後。下校中、隣のレオに切り出す。


「誰の?」


「御崎のだよ」


やっぱりいちいちやらない理由ばかり取り上げて現状から逃げるべきではない。


そのうえ自分の考えを改めるためいちいちレオに頼るなんて情けない。


自分なりに反省した結果の行動だ。


「へえー、大人が手ェ出すんだ。中学生に」


こいつ、根に持ってるな。


いつもは一発殴れば忘れるクセに…あ、逆に殴られなかったからか?


まぁ、今回は俺が悪い。少し機嫌を取っておくか。


「いや、ダセェ考え方して悪かったよ。

 やっぱりお前が正しい。

 これからは素直にお前のアドバイス聞くわ」


「よう言うた!!」


生粋の関東人のレオが関西弁を叫びながら、俺の脇腹に拳を入れた。


塀に寄りかかることでなんとか転倒を逃れる。


こいつ、身長が縮んだせいで拳の出所が見えづらくなってる。


無防備にもらう事が増えて、昔よりダメージでかいわ。


「中身が大人だからとか、

 今の中学生の身体で考える必要はねえ!

 おいしいとこだけ取るんだよ!

 前に経験した事や知識はそのまま!

 でも責任は子供のまま!

 それが俺たちの現状のメリットじゃねーか!

 メリットを活かせ!腐らせるな!

 めんどくせーしがらみは忘れろ!!」


うーん…、確かに。


難しく考えたってどうせ俺には答えなんて出せないんだからもっといい加減に物事を捉えていいのかも。


アホのくせにウジウジ考え込むのが俺の悪い癖なんだろうな。


やっぱり未知の状況でレオのポジティブな思考は頼りになる。


「で、いつどこに誘ったんだよ」


すっかりゴキゲンになったレオが顔を近づけてくる。


こいつ、男の時もこんなに距離感近かったっけ?


俺が意識しすぎてるだけ?


「まだ誘ってねえよ、

 そこは色々相談してからやろうと思って…」


「ばっか野郎!!」


正確に、もう一度脇腹の同じところを突かれた。


流石に地に膝をついて悶絶する。


「テメェ、自分の腕力考えろ…!

 100キロ超級の金メダリストが

 中坊殴ってんのと一緒だからな」


苦悶の表情をする俺を見て満足したのか、レオはけたけたと笑った。


「まぁオメーも代表候補まで行ったんだからいいだろ」


「俺の今のスペックはリアル中坊なんだよ…!!」


そうなんだよ。俺だけ中学生の性能に戻ってるんだよなぁ。くそう。


「女の子をデートに誘うのにアドバイスを求めようなんて

 浅ましい考えに天罰が下ったんだよ」


なにが天罰だ。人の意志で人の手で罰を与えたくせに。


「お前は雑誌に載ってる情報をそのまま鵜呑みにして

 女の子を誘うのか?

 あんなもんは『※個人の感想です』だぞ!」


「かといって傾向ってもんがあるだろ!」


「雑誌のデートプランで初めてのデートはここ!とか

 こんなところに誘う男は最低!みたいなの読んだところでなあ。

 そんなモンはあくまで傾向なんだよ!」


「だからそう言ったじゃん!傾向を聞いてんだって!!」


「人と人!」


「はあ?」


「お前と御崎!!

 そういう事だよ!

 お前が自分のキャラクターと御崎の好みを

 照らし合わせて自分で考えるんだよ!

 そんなことをめんどくさがってっから

 お前はいつまでたっても童貞番付の小結なんだよ!!」


わかりづれぇ例え方しやがって。なんだ童貞番付って。


番付が上な方が童貞卒業から近いのか遠いのかもわからねえし。


気付くと周囲に人だかりが出来ている。


なんか下校中の他の生徒が見物してるじゃねえか。


…くそっ、ヒートアップして気付かなかったぜ。


一回トーンを落とそう。


「…違うんだよ、

 めんどくさがってるワケじゃなくて。

 お前にはあの子の好みがわかるんだろ?

 彼女が喜びそうなプランを考えるために

 それを教えてくれって。

 そういう事を言ってんの、俺は」


「教えないね!!」


「なんで!?」


「やれ。いけ。フラレろ。

 それの繰り返しだ。

 いいか、彼女持ちだろうがイケメンだろうが

 失恋したことのねえ奴なんていねえんだよ。

 それをろくにフラレもしねえで童貞だけ捨てたいなんて

 ムシがよすぎんだよ、オメーは」


「別に俺は童貞捨ててえなんて言ってねえだろ」


「口にしてねえだけだ。

 俺にはわかる。

 全ての男は童貞を負い目に思い、

 捨てたいと考えている」


それは視野が狭すぎるんじゃ…いや、口答えするのはやめよう。


こいつに多様性を解くには俺じゃあ知識と熱量が足りなすぎる。


それにまぁ、こいつの言う事も、俺個人に関してはその…当たっていると言わざるを得ないしな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る