第15話 それに手は届くか


「そんな事よりさ、御崎いけよ御崎。

 何が不満なんだよ」


レオがころりと話題を変えて催促してきた。


「不満なんて言ってねえだろ」


そりゃあ、御崎は可愛いと思う。性格もいい。


中学時代は、正直俺だって好きだった。


でも知らないうちにレオと付き合いだして…一か月も続かず破局。


…思い出したらなんか腹立ってきた。


「…お前ってやっぱ相当クズだな。

 柔道が健全な精神育てるとか嘘だわ」


「なんだ急に。

 まぁ、俺は規格外だからな」


何故か自慢げに胸を張るレオ。


こいつはクズを誉め言葉とでも思っているのか。


「嘘だよ」


「…あ?」


レオの突然の宣言に、どう反応していいのかわからず困惑する。


何に対して言っているのか。こいつ、しょっちゅう嘘ついてるから。


「覚えてたよ。

 御崎と付き合ってた事」


それは忘れてただろ。


「今さら取り繕ったって遅せえよ」


あんだけ“素”の表情でビビっといて何言ってんだ。


「いや、元カノに手ぇ出したら殺すって話。

 あれ嘘だから。俺に気ィ遣うなよ」


なんだ、急に。反省してしおらしくなったのか?


「別にお前に気ぃ遣ってるワケじゃねえけど…。

 そもそも脈アリってのもお前が勝手に言ってるだけだろ」


「いいや、わかる。心配すんな。

 お前じゃ手に負えねえような女と

 散々付き合った俺が保証してんだぜ。

 御崎は大丈夫。きっとうまくいくし、

 お前みたいな小心童貞の事も受け入れてくれる」


余計な一言が入ってんだよなぁ。


いちいち相手を腐さないと会話出来ないのかこいつは。


「御崎の連絡先知ってるか?」


更に身を乗り出し、レオが問い詰めてくる。


「知るワケないだろ」


「明日聞け」


「なんでお前が決めんだよ!」


「オメーなぁ…」


言いかけてレオは俺の肩に腕を回し、がっしり脇で固めて耳元で囁く。


「いいかカズキ。

 前の人生と同じ事やってどうすんだよ。

 彼女を作る。童貞を捨てる。

 こんなもん些細な問題だ。

 俺たちはもっと壮大な目標を定めて先に進むんだからよ」


「だったらそんな些細な問題にこだわってねえで

 壮大な目標に向かって進んでいこうぜ」


「いいや、彼女は作るんだよ。

 女と付き合うって事を経験しておくべきだ。

 それが俺たちの目標の過程にあるんだからそこは外せねえ。

 ただし、その事に関してうじうじ時間をかけてる暇はねーのよ」


目標なんてまだ決まってもいねーじゃねえか。


だんだんとレオの言葉が熱を帯びてくる。


同時に俺の肩にかかる力が増していく。


「手を伸ばせば届くものに時間をかけるべきではない」


「わかったよ、わかったから離せ!!」


顔が、顔が近い。というか全体的に距離が近い。


レオは更に腕に力を入れてヘッドロックの形を取った。


完全にまっているのでタップをするが、当然こいつは外そうとしない。


あと一歩で落ちるというところになってようやく開放された。


「オメーなぁ、タップしたら解け!マジで危ねぇから!!」


「わかったか?」


俺の抗議を無視してニンマリと満面の笑みを浮かべる少女。


女子と密着していたという喜びはとうに吹き飛んでいた。


「わかったって言ったろ!

 言った後にめたじゃねえか!!」

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