第11話 Hit That


去っていく御崎の背中を見守りながら、レオがぼそりと呟いた。


「ありゃ脈あるな」


「はあっ!?」


脇腹を抑えてしゃがみこんでいた俺は喘ぐような声で返答した。


「名前なんだっけ、あの子」


「御崎裕子だよ。なんで覚えてねーんだよ」


「お前中学時代の事、そんな鮮明に覚えてるか?

 無理だろ、クラスメイトひとりひとり思い出すのは」


軽薄な奴だ。


そうは言っても御崎とは小学校も一緒だし、それなりに話したろう。


確かにこいつにとっては数多あまたの親しい女子のうちの一人だったかもしれないが。


「脈ありって何だよ、いい加減な事言うな。

 お前、面白がって俺を担ごうとしてるだろ」


「馬鹿野郎かオメーは。

 いや、馬鹿野郎だったわ、お前」


めんどくせえ言い回ししがやって。言いたい事があるなら早く言え。


「どう見ても今のはお前を心配してきてただろ。

 頭突き食らってぶっ倒れたお前の無様なツラを笑いに

 わざわざ保健室まで来るか?」


レオなら来る。でも、言われてみると確かに御崎がそんな性格の悪い事するとは思えない。


「御崎いいじゃん、可愛いし。

 あの子狙っちゃえよ」


「お前の元カノだろ」


「えっ?」


この野郎…、いや、アマ。


流石に問題発言の自覚があるのか、少し顔が青ざめていた。


本気で覚えてないのか…。


「おかしいなァ…」


レオが小声でそう呟いているのを微かに耳が拾った。


困惑している様子のレオに若干の苛立ちを覚えながらも、無視して教室へと向かう。


レオと一緒に廊下を歩き、気付いたこと。


やっぱり今のコイツ、物凄く人目を引く。


昔のレオだって、背も高く見てくれも良かったため目立ってはいた。


女子から憧れの視線を受ける反面、男子からは恐れられていた。


だが、今は男子からも女子からも物凄く好意的な視線を受けているのがわかる。


そして同時に、俺は男子から敵意を向けられているのがわかる。


可愛い子の側にいるとこういう事になるのか。


くそ、俺はなんの得もしてないのに、理不尽だ。

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