第7話 不可思議


…90㎏。


「まぁ、こんなもんか。

 大会前はもっと出るんだけどな」


握力計の表示を見て満足そうに笑うレオ。


「う、嘘だろ?」


ありえない。そんなワケない。


学生の頃、腕力は腕が太いほど強いと教わった。


筋力は筋肉の断面積によって決まるとかなんとか。


今のこいつの腕は年相応の女の子と同じかそれより更に細い。


「握力計が壊れてんじゃねえか!?」


自分が計ってみる。


45㎏。


多分、中学時代の自分の握力。


機械は壊れてないという事だ。


マジかよ…。


「ほれ」


邪悪な笑みを浮かべたレオがこちらに手を差し出す。


美少女の手を握れる…という誘惑につい手を出しそうになるが、握手すると絶対握り潰されるのでそれを拒否する。


信じられないが、信じられない事ばかり起きているこの状況においては納得せざるを得ない。


なにより先程、寝技のキレとパワーを自分で体感してしまっている。


握力が落ちていないという事は…あの世界を制した筋肉がこの華奢な体に詰まっているとでもいうのか。


こんなものはもう奇跡、いや、超能力と言えるだろう。


「つまりお前はあの世界一の柔道の技術を失う事無く美少女の身体を手に入れたって事か」


俺の筋力は中学時代に戻っているのに。


「……ズルくね?」


「ズルくねえ。俺ァまだまだ前の人生で

 やりてえことはいくらでもあったんだ。

 12ダースまとめて買ったコンドームだって2個しか使ってねえ。

 余った142個のゴムはどこへ行くんだ?

 あんな中途半端で死なせた神様からの詫びだ、これは」


そんな話、美少女の顔でするな。


あと買いすぎだろ。何か月で使い切るつもりだったんだ。


「不本意ではあるが俺は地上最強の女子として

 生まれ変わった!

 この世界は今日から俺を中心に回していく!!」


そう言ってレオは立ち上がり天を指す。


…なんて自分本位な思考回路だ。


でも、そんな勝手な言い分もなんとなく納得がいく。


何故ならこいつはずっと「主人公」としての人生を送って来たから。


こいつだけが特別で、まわりは全員脇役。当然、俺も。


人生がリセットされたところでそれは変わらないという事か。


俺は確かに思ったよ。


こいつが女だったらって。


だが断じて男の頃のこいつに恋愛感情を持ってた訳じゃない。


自分と気が合う、いつも自分を気にかけてくれる親友みたいな女の子がいればいいなという意味だった。


こいつがもしも女だったら、出会いとか仲良くなる過程とか…女性と付き合う上で自分にとって難しそうな部分をすっ飛ばして親しくなれるんじゃないか…みたいな横着心があった。とにかく本気じゃなかったんだ。


こんないい加減な妄想が原因でレオを女の子にしちゃったのか?


…あの筋力と技術を持ったまま。


中身が男子100キロ超級を三連覇した天才柔道家の女子中学生…。


これ、マジで俺のせい…?

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