第5話 再会


本日二度目の覚醒。視線の先には、今朝とは違う天井。


横に座っているのはあの超絶美少女だった。


「おう、目ぇ覚めたかよ」


うわっと、緊張が走り仰け反る。


それは出会うなり頭突きを食らわせてくる凶暴性への恐怖ではなく、否が応にもドキッとさせられる美貌のせいだ。


なんでこの子が…?辺りを見回す。


…保健室だ。


この子が運んでくれたのか?


いや、運んで“くれた”というか、俺を失神KOしたのもこの子だが。


少女は薄っすらと微笑みながら困惑する俺に語り掛けて来た。


「カズキ、俺が誰だかわかるよな?」


見た事もない顔、聞いたこともない声だがふてぶてしい口調が耳に馴染む。


吸い込まれそうな輝く碧眼も、日の光を反射してきらめく金髪も、蝋細工のように白く透き通る肌もはじめてお目にかかる。


だが、この自信に満ちた眼差しと口元に浮かべた挑発的な笑みには胸やけする程見覚えがあった。


間違いない。


「レオ…?」


「よし。

 やっぱりお前にはわかるな」


少女は胸の前に腕を組んで満足そうに目を細めた。


やっぱり、この娘の中身がレオなのか。


「しっかし情けねえな。

 女子のチョーパン一発で失神するたぁよ。

 首が弱えぇんだよ、首が。

 柔道家は首を鍛えろ」


そう言って少女は口を開けてケラケラ笑う。


可愛らしい顔立ちにそぐわぬ、品の無い笑いだ。


「何でお前、女の子になってんだよ…」


「俺が聞きてえよ馬鹿野郎」


吐き捨てるように答えるレオ。


言い回しは変わってないのだが、他が変わりすぎていて凄まじい違和感を感じる。


あの身長2m近い超人体型だったレオが、こんな小さな女の子に。


だが間違いない、この子の中身はレオだ。


この世界にも、レオがいたのだ。


「お前、記憶があるならさっさと連絡して来いよ!!」


泣きそうになるのを必死で堪えて怒鳴る。


口の端が震えているのが自分でもわかった。


「しょーがねーだろ。

 こっちゃあこっちで 色々噛み合わなくてモメてんだからよ」


…言われてみれば、そうか。


俺だって十二年前に戻った事でパニックになりかけていた。


こいつは更に別人になってしまっているのだ。


俺よりよっぽど混乱しているはずだ。


でも、なんでメモリにこいつの名前が無かったんだろう。


「んで、なんでお前は男のままなんだよ」


レオは眉間にしわを寄せてしゃくりあげるようにこちらを睨みつけた。


相変わらず感情と表情がコロコロ変わるな。


「なんでって、そんなの俺が…」


俺が知るわけない。そう言いかけて、一点思い当たる事に気付く。


…まさか。


死ぬ前に頭によぎった“あれ”が。


叶ってしまったというのか…?


いや、そんなワケない。そんなワケないとは思うのだが他に心当たりがない。


もし、仮に、そうだとしたら。


まずい。


絶対にこいつに知られるわけにはいかない。


俺の“願い”のせいでこうなってしまったと知られたら。


気持ち悪がられる、馬鹿にされる。もしくは殺される。


……しらばっくれるしかない。


「いや、俺もわかんねえよ。

 お前こそ何か心当たりとかねえのか?

 なんで自分だけ性別が変わっちゃったか」


「俺とお前の違い…?」


長いまつ毛をパチクリさせて唸る。


唸り声すらもまた愛らしい。


やばいな。


せっかくレオに再会できたというのに、視覚と聴覚がまだこの娘をレオと認識出来てない。


はやく慣れなくては、切り替えなくては。


「…童貞か、童貞じゃないか」


「うるせえよ」


愛らしい声で童貞とか言うんじゃねえ。


更にレオは続けて憎まれ口をたたく。


「逆ならよかったのにな。

 俺は男のままでもモテてたんだから、お前が美少女に生まれ変わってりゃ

 ちったあ幸せになれたかもしれねえのに」


「別にモテなくたって

 不幸せじゃなかったけどな、俺は」


俺は俺でそれなりに楽しく生きてたっつーの。


「でもまぁ、元々超絶イケメンの俺だから美少女になれたってだけで

 お前が女になったって可愛くなるとは限らねえけどな!」


レオは中学生らしい無邪気な笑顔で微笑みながら立て続けに失礼な事を言った。


こうして軽口を叩き合っているうちはこいつも上機嫌である。


出会った直後は滅茶苦茶機嫌悪そうだったのに…。


このテンションの乱高下がいかにもレオらしい。


気に入らない事があっても相手を一発ぶん殴ればすっきりして機嫌がよくなる。


それが、レオのいいところ……ろくでもない性格だな。

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