第3話 町内会長の憂鬱
刑事達が引き上げた頃には、巻き添えになった隣りの人家は後片付けが始まっていた。
「ねえ、空き家の方は、誰が始末してくれるんですかね。」
空き家の燃えた跡には、焦げて短くなった柱などが残っていた。さらには、敷地一杯に焼けたものが散乱し、今は水で濡れているから良いようなものの、乾燥してしまうと粉塵で困ることは一目瞭然であった。
その様子を見ながら、近所の若い主婦達が心配げに話していたのである。
町内会長としては、なんとかしないといけない案件であった。
その日は土曜日で、休みとはわかっていたが市役所に電話をすると、折り返し総務課から電話があり、市としての対応を回答してきた。結論は、個人の所有物である以上、市役所としてはタッチ出来ないとのことだった。
「じゃあ、その所有者に連絡して、何とかするように伝えてくださいよ。」
「所有者名については言えませんが、かなり前から固定資産税も未納で、連絡も取れないそうなんです。市役所としては、どうしようもないんですよ。」
市役所は出来なくても、町内会としては放置できない。
近所の子供達が、いつ何時入り込んで怪我をするかわからないからである。しかも、死体が出たとなるとただでさえ気味が悪い。
近所の奥さん達の話を思い出すにつれ憂鬱になる富岡であった。
「どうしよう・・・。」
30日の夜、町内会の役員と消防団長に集まってもらった。
「個人の持ち物じゃあ、手が出せないな~。」
「でもね~、安全のためには、何とかしないと。」
実は、富岡は集まってもらうことを決めた時点で、自分の考えをまとめていた。
「私としては、安全確保の緊急避難措置として、所有者と連絡が取れなくても片付ける必要があると思っているんです。仮に、所有者が現れたとして、事情を説明すればわかってくれるんじゃないでしょうか。」
「確かに、そうですよね。第一、空き家にしてほったらかしていたから火事にもなったんだから。」
一同、富岡の提案に賛成してくれた。
「ただ、死体の件もあるし、捜査が終わるまでは手をつけられないと思うんですよね。明日でも、警察に話を聞いてみますので、いつ片付けるかはその後で話し合いましょうか。」
5月1日朝、現場では、数人の警察関係者が焼け跡の奥の方を中心に検証を行っていた。ピンセットのようなもので、瓦礫を一つひとつ掘り起こしているようだ。
三日目となると、野次馬も集まらない。
黒い野良猫だけが、自分の縄張りをうろつく警察関係者をうとましそうに睨んでいた。
富岡は検証を行っている警察官に話しかけた。
「ここを片付けようと思っているんですが、捜査はいつ終わるんでしょうか?」
「そうですね、死体の検案は終わったんですが、もう少し、確認が必要なのもで、もう少し待ってもらえますかね。捜査が終わったら、お知らせしますので。」
富岡の家を刑事が訪れたのは、次の日の夕方のことであった。
「町内会長さん、ちょっと、よろしいですか。」
この前の刑事だった。
刑事の話によると、結局、死体の損傷がひどくて死因はわからないけれど事件性は無いと判断して捜査は終結するということ、死体は男性と判断された、とのことだった。
連休中の4日、良い天気に恵まれ後片付けは、あっと言う間に終わった。集まった人達の誰一人として、死体が誰なのか気にする者もいなかった。
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