最終話:この幸せな毎日がずっと続いて欲しい。

結局のところ、花音かのんちゃんは笑屋のバイトを辞めたいって言い出した。

マンションを出て、僕と僕の家で暮らすって。


芽衣子さんひとりになるけど花音のためならって賛成してくれたらしい。

でもってついでに芽衣子さんもマンションを引き払って別の賃貸に引っ越す

みたいだ。

最近流行ってる長屋てやつ。

最近はおしゃれな長屋に住みたいって人が増えてるみたいだね。


僕も詳しくは知らないけど以前は一部のマニア、奇特な趣味の人以外、見向きも

されなかったらしいが、最近では長屋は引く手あまたのようだ。


言い換えれば古民家風な佇まいの長屋、ノスタルジック感満載でいいじゃない

だろうか?


って訳で僕の恋人は晴れて僕の家に引っ越してきた。


「今日から、お世話になります」


「こちらこそ・・・本格的同棲のはじまりだな」

「今まで以上にエッチできるよ」


「もう、スケベ〜」


花音ちゃんが笑屋を辞めた理由は例のストーカーの一件が大きんだろう。


「私ね、あのストーカーの一件以来ちょっと人間不信になっちゃって」


「なに?そんなこと、ずっと思い悩んでたの?」

「そう言うことはひとりで抱え込まないの・・・僕はなんのためにいるのかな?」

「イヤなことや困ったことがあったら僕に相談すること・・・分かった?」


「芽衣子には時々聞いてもらってたんだけどね」


「芽衣子さんには言えて僕には言えないの?」


「ごめんね、だってせいちゃんには心配かけたくないもん」


「彼女のこと心配するのも彼氏の役目・・・言ってくれないほうがイヤだよ、

水臭い」


「今度からちゃんと報告するからね、ごめんね」


花音ちゃんはストーカーの件で多少トラウマを抱えたのかもしれない。

笑屋にいるとそれだけ、人と接触する機会が増えるからね。

また同じようなことがあるとイヤだって思ったんだろう。


まあ、それは運の問題かな。

ストーカーになんか遭遇しない人のほうが多いからね。

だけど男に目をつけられた花音ちゃんはそれだけ可愛いってことなんだろう。


電車の痴漢だって可愛い子が狙われるでしょって・・・ダメだけどね、

そう言う偏見は・・・。


さて初の引っ越し祝いってことで僕は花音ちゃんを連れて焼肉を食べに行った。

まあ、焼肉か回転寿司、そのへんが無難かな。


フランス料理とかイタリアンとかってのは料理がちまちま出てきて量がないくせに

すぐ満腹になる。

洒落た場所が似合うわけでもないし、ワインの味なんて分からない。

気を使わなくていい居酒屋とかラーメン屋とかが性に合ってる。


で、もってその夜はやっぱり引っ越し祝いってことでね。


「え〜一昨日したでしょ?」


「いつしたかなんて関係ないから・・・今夜はお祝いなんだからね」


「なに言ってるの、それってお酒が飲みたいからって、なんでも

イベントやお祝いにかこつけちゃう呑兵衛と同じじゃない?」


「いいじゃん・・・細かいことは?」

「もうマンションに帰らなくていいんだから、ね?」


「もう、しょうがないわね・・・スケベおやじには敵わない」


「そう、君はそのスケベおやじを好きになったんだから諦めなさい」


そんな訳でその夜はラブラブな素敵な夜になった。


で、次の朝・・・幸せの目覚め・・・僕の横に彼女がいる。

ベッドで寝てる花音ちゃんを確かめるように何度も見ては微笑んでしまった。


ふたりで仲良く起きて、ふたりで仲良く洗面所へ・・・でふたりで仲良く

キッチンへ。

このささやかな時間・・・ふたりで朝食を食べて、コーヒーを飲む。

どうでもいい無駄話をして、なんて幸せで素敵な時間なんだ。


朝、花音ちゃんの顔を見て、ストーカーみたいに彼女の一挙手一投足を

観察して優越感に浸る。


コーヒーを飲みながら僕は言った。


「花音ちゃん・・・しつこいようだけど本当に僕でよかったの?」


「今更、そんなこと・・・なんで聞くの?」


「いや〜時々これって現実?って不安になるから、こんなに可愛い子が僕の

彼女でいいのって自問自答してるよ」


「夢でも、おとぎ話でもありません・・・これは現実です」

「自信もっていいよ、スケベおやじ」


このひと時はもし僕は花音ちゃんと付き合っていなくて、今でも一人暮らし

だったら絶対、得られなかった至福だよね。


この幸せな毎日がずっと続いて欲しいって願ってる。

花音ちゃんも花音ちゃんの僕に対する想いも大切にしなきゃね。


で、僕は仕事が終わると笑屋まで晩飯と酒にありつくことと花音ちゃんに

会いに行く。

で、一緒に僕んちに帰る。


いつまでそういう生活が続くか分からないけど、花音ちゃんが大学を

卒業した期に、僕は彼女にプロポーズしようと思う。


きっとウェディングチャペルで、僕は花音ちゃんの父親と間違われ

ちゃうんだろうな・・・だけどいいんだ・・・ほら若い奥さんだろって

みんなに自慢してやるから・・・。


おしまい。




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5月と12月のカノン。*幸せの探し方* 猫野 尻尾 @amanotenshi

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