第5話:ジェラシー。

さて僕には25歳も歳の離れた彼女ができたわけだけど・・・。

その子の名前は西山 花音にしやま かのんちゃんって言う。


花音ちゃんは、僕にとってガラスケースに入ったフランス人形みたいだ。

デリケートで触りすぎたりいじりすぎたりしたら壊れそう。

だから、まだ彼女に対してどこか遠慮がある。


その点、花音ちゃんは若いからか僕に対して、なんのてらいもなく素直に

接してくる。

ウソも隠しも誤魔化しもない、ありのままで。

社会に汚れたおじさんと違って、はつらつとしてるんだ。

それが僕にとって眩しくて新鮮でもある。


僕たちが付き合い始めたからと言って僕たちも周りの状況もあまり変わらない。


花音ちゃんは「笑屋」でバイトを続け、僕は仕事を終えるとまっすぐ

「笑屋」に向かう。


暖簾をくぐると僕の可愛い女神様が、笑顔で迎えてくれる。


だけど、他の客相手に愛想をふりまいて接客してる花音ちゃんを見てると

僕一人にだけ目を向けてて欲しいってわがままなジェラシーが顔を出す。

分かってるんだ・・・それが彼女の仕事だって。


でもそのことがずっと、わだかまりになって思ってることを花音ちゃんに

漏らそうとしたことがある。

そんなこと言わなきゃいいのに、でも言わないといられないと思った。

僕が、どんな気持ちでいるか彼女に知ってて欲しかったから・・。


誰かを好きになったら、自分のことだけを見てて欲しいって思うのは当然の

ことだろ?

最初は花音ちゃんから好きだって言われたけど、今は完全に僕のほうが彼女に

夢中になってる。

そうだ、僕はずっと忘れていたトキメキを感じてるんだ。

だからジェラシーも感じるんだ・・・女々しいて思うよ・・・でも・・・。


「あのさ・・・花音ちゃん・・・言いにくいことなんだけど・・・」


「なに?」


「今更だけど、僕のことだけ見てて欲しんだ」


「ちゃんと見てるよ」


「あのね、笑屋での花音ちゃん見てると・・・その・・・客の誰にでも・・・」

「あ、いい・・・ごめん」


(まじ、バカなこと言おうとしてる)

(いい歳してめちゃかっこ悪いこと言おうとしてた・・・ガキみたいだ)


「ん?どうした?せいちゃん・・・なにを言おうとしたの?」

「言いたいことあったら、ちゃんと言ってね」

「お互い、言いたいことも我慢して心にわだかまりを残したくないからね・・・」


そりゃそうだ・・・わだかまり・・・それもダメだ。

言いたいことは言わなきゃ。

だけど、客に愛想を振りまくのはやめてくれなんて言えるわけがない。

笑屋をやめろって言ってるのと同じだろ。

今回のことは僕の胸のうちに収める・・・それが大人ってもん。


「で、私を見て?・・・どうしたの?」


「え?・・・ああ、花音ちゃんはよく働くなって思って、感心したって言おうと」


「なんだ、そんなこと・・・でもありがとう、嬉しい」


それでいいんだ。


花音ちゃんが他人に対して八方美人でも、それはごく普通のこと。

そんなこと気にしてたらキリがない。

僕だって、取り引き先の会社の事務員さんの女の子に愛想のひとつや

ふたつ振りまく・・・鼻の下を伸ばして・・・。


だから自分のことを棚に上げて、花音ちゃんのことをどうこう言えない。


独り身の時はなんでも自己処理できたけど大事な人が増えると、そうもいかない。

いろんな問題や悩みが二倍に増えるんだな。

これからはこの先のヤキモチも悩みも自分の胃の中に飲み込んでしまおう。


さて、付き合い始めると最初のころは当然ラブラブデートな訳で、楽しい時間と

思い出を残すために身近な観光ってことになる。


映画を観に行き、アミューズメントパークに遊びに行き、水族館に動物園、

グルメイベント、有名イラストレーターの展示会とか、そこになにかの

イベントを見つけては花音ちゃんを連れていく。


まあ、どこにいたって花音ちゃんと一緒なら僕は満足。

だけど、それでもひととおり回っちゃうと同じ場所にはあまり行かなくなる。


花音ちゃんのマンションはお友達がいる時があるから.居ずらいしイチャイチャ

できない。

そうだよ、イチャイチャって言えば僕は、まだ花音ちゃんをハグすらしてないんだ。

ましてやチューだってさせてもらってない。


遅くないか?・・・そう言うのってしたいって申告するのか?・・・。

したいよね・・・ハグもキスも、恋人同士なら・・・そのきっかけをどう作ろう。

あれやこれやバカみたいに思いを巡らすおじさん。


それにエッチ・・・これも申告しなきゃいけないよね。

いつ言えばいいんだろう?

自然にそうなって行くのかな?・・・でもな、そんなの待てったら我慢できなく

なりそう。

で、花音ちゃんは処女なのかな?

僕ってバカだ・・・高校生みたいなこと考えてる・・・まじバカだ。


つづく。

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