第2話  舞子、転生する!

「痛い~!」


 舞子はお尻をさする。石畳に思いっきり尻餅をついてしまった。


「お前は何者だ!」


 怒鳴り声に、舞子は振り向いた。体格の良い甲冑姿の騎士が馬に乗って怒鳴っていた。兜は顔がわかるタイプだった。なので、大体の年齢がわかる。真っ白い鼻髭と顎髭。50代だろう。髭爺からは敵意が伝わってきた。


「私、何か悪いことをしましたか?」


 髭爺は、馬から降りた。


「現に、今、こうして我々の行軍を妨げているではないか!」

「え、すみません。私、今来たところなんで、許して貰えませんか?」

「許せぬ。見せしめの意味もある。儂の剣の錆びにしてやろう」

「異国から来たんです! この国のことを知らなかったんです」

「異国から来ただと? 怪しい。ますます怪しい。お前の目的は何だ?」

「目的なんてありません。気付いたら、道の真ん中に放り出されたんです」


 髭爺の心の中が手に取るようにわかる。髭爺は、実直なのだ。職務を遂行することしか考えていない。純粋に、行軍を妨げた舞子を“悪”と認識している。そして、本気で舞子を斬ろうとしている。


 このままでは、本当に斬られてしまう!


「なんとかなりませんか? お詫びしますので。今、斬られちゃうと非常にマズいんです」

「チャールズ王子の行軍を邪魔したのだぞ! 許されると思っておるのか?」

「じゃあ、どうしたら良かったんですか?」

「皆を見ろ、道の端に寄って道を開けているだろう?」

「じゃあ、今から端に寄ります」

「遅いわ-!」


 髭爺が剣を抜いた。舞子はしゃがみ込んで頭を手で抱えた。


 渾身の一撃。剣は、舞子の背中を袈裟斬りにした。


「痛い-!」


 舞子は叫んだ。


「何故だ? 何故斬れないんだ?」

「私は寿命がくるまで死ねない身体なんです」

「魔女か? 魔法か?」

「そういうのではないですよ、普通のOLです」

「OLとは何だ?」

「ええと……働いている女性? 事務をやってます。普通の20代半ばの女です」

「普通の人間なら死んでおるわ」

「死なないけど、鉄で叩かれたらめっちゃ痛いですよ、やめてください」

「この女、どうすれば良いのか?」


 その時、


「何をやっているんだ? ハクオウ」


声がして振り向くと、そこに白馬の王子様がいた。その姿は、女性が夢見る白馬の王子様そのものだった。舞子は、王子様に見とれ、ポ~っとなった。


「チャールズ様、怪しい女が道の真ん中で行軍を邪魔しておりまして、信じられないことに、斬っても斬れないのです」

「……」


 チャールズは舞子と目が合った。お互いに目を離さない。いや、離せないのだ。2人は、長い間見つめ合っていた。チャールズが呟いた。


「なんて美しいんだ……」


 舞子は美人だった。しかも、かなりの美人だった。芸能事務所にスカウトされたこともある。スタイルもいい。あまり自分の曲線美をアピールしたくなくて(曲線美を強調すると男性からの嫌な視線を集めるから)、タートルネックのシャツ、ジャケット、デニムパンツという姿だったが、それでもスタイルの良さは隠せない。そして顔、チャールズが理想の王子様なら、舞子は男共の理想の女性だった。お互い惹かれ合うのも当然かもしれない。


 チャールズは馬から降りた。舞子に近寄る。そして、舞子の前でひざまずいた。


「私は第2王子のチャールズです。あなたのお名前を聞かせてくれませんか?」

「私は、舞子です」

「舞子、いい名前ですね。舞子さん、今、恋人はいらっしゃいますか?」

「いえ、いません」

「それなら、僕と結婚してください!」



 白馬の王子様の登場、そしてプロポーズ。女性が夢に見るような非現実なことが起こっている。舞子は、この現状を理解するのに時間がかかった。愛子を見つめるチャールズの目は、信じられないほど澄んでいた。







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