第6話

―――どうしたものか……オレも目の前には巨大すぎる狼がいる。


「お主がシャロンの牙を砕きし者か⁉️」


「ど、どうしよう…長老…あれってガロン族の族長だよね…」


「お主には攻撃が効かぬと聞いたが、はたして我の牙や爪に耐えられるのか?」


「バロン様、お気をつけください。 その者は他に何かスキルを隠し持っておるやもしれませぬ」


「何を怖気おじけづいておるシャロン。 我を誰だと思うておる、我はガロン族最強の戦士バロンであるぞ」


 ……なんか勝手に盛りあがってる。っというかいきなりラスボス登場なんですけど⁉️


 ゲームだったら最初の村に突如ラスボス登場って感じで、負けイベント確定だよね。


 ……でも、オレには鉄壁のスキルがあるから負けはないか、でも攻撃力2だから勝ちもないよな…。


 いや、そんなに悲観的にならなくても良いだろう。


 オレにはこの右手がある! そうだこの右手の一撃の攻撃は未知数。


 勝てるかもしれない!


「ガブッ!ブンブン!ポイ!」


 噛まれて、振り回されて、投げられた……。


 やっぱりオレは硬いだけでその他は何もできない。


 右腕も回転させることが精一杯で、唯一の攻撃も繰り出す余裕もなかった……。


「なるほど確かに硬い……だが、硬いだけとも言える。 つまり我が近づかなればお主は何もできないのと同じ」


 痛いところをつかれた。 確かにオレのこの短い足じゃまともに動けない。


 相手に近づかなければ、この右腕の攻撃もまともに与えられない。


 ―――おい、どこを見てやがる! オレはこっちにいるぞ!


「シャロン、この者は放っておけ。 硬いだけのこの者は道端に落ちている石と同じ。 我らが石ごときに手間をかける同義などない」


「おっしゃる通りでございます。バロン様。 先のわたくしの戦いは、わたくしが愚かでございました」


「さすれば初期の目的を果たすぞ!」


 おい!だからどうしてそっちを向くんだよ!


 そっちにはホルン達がいるんだ!


「かしこまりました!」




「ミミン!長老達を連れて逃げて! ウチが囮になる!」


「そんな、ホルンちゃんを置いていけないよ!」


「ウチの言う事を聞いてミミン! このままじゃみんな殺されちゃうよ!」


「ホルンにミミン、子供らを連れて逃げろ! こういうときの為に老いぼれは生きておるんじゃ、お前たちが死ぬには早い」


「長老、ポケ爺……」


「相変わらず仲がよろしいこと、ますます殺しがいがございますね」


 おい…なにを勝手に話を進めている…ホルン・長老・ポケ爺・ミミン、早く逃げろよ…。


 このままじゃホントに食い殺されるぞ…。


 頼むからそんな光景をオレに見せないでくれ……。


 ……って何やってんだオレは…オレが助ければいいだけだろ……ホルン達を助けるためにオレは異世界転生したんだろ…今ここでオレがやらなきゃ、オレは何の為にこの世界に産まれたんだ‼️


 考えろ、考えろ!オレにできることを考えろ!


 オレの唯一の武器はこの右腕! この右腕をどう使う……そうか!


 足を地面にしっかりと固定し、そして極限まで前かがみになる。


 更に右腕の先端を地面にくっつける。


 そして、このまま勢いよく右手を伸ばす!

 

「バキューン!」


 右手の勢いでオレごと飛ばす! オレは弾丸だ!


「バゴン!」


『鉄壁のスキルを発動』


「ギャーーーッ!」


 どうだクソ狼! 死ぬほど硬い巨大な弾丸を食らった感想は!


「わ、わたくしの…め、目が…」


「ドサッ!」


 よしっ!一匹仕留めてやったぜ!


「ケ、ケモ神様!やっぱり強い…ケモ神様…」


 ホルン、まだラスボスが残ってんだ。泣くのは早いぜ。


「ほぉー、シャロンを一撃で倒すとは少しみくびっていたようだな」


「ジャシュッ!」


 うわぁ!いきなりオレの前に来やがったなぁ、このラスボスめ!


 しかし間近で見ると…デカい…さっき倒したガロン族のニ回りは巨大じゃないか…目玉なんかオレの体よりでかいだろ……。


 コイツをどうやって倒す…倒せるのか、…何を弱気になってる、ヤらなきゃホンル達が殺されるんだぞ!


 でももうする…たぶん同じ攻撃は効かないだろう…コイツはそんなにバカじゃないはずだ…。


「どうした硬直したままで、まさか怖気づいたのか! だがお主は許さんぞ! 同族シャロンの仇であるからな!」


 そうだ!このラスボスを倒さない限りオレ達は全滅だ!


 オレの体はさっきの攻撃後に地面に落ちて横倒し状態、右手は地面に接してる……やるだけやってやる!


「ブイーン、ガシャンガシャンガシャン」


「ケモ神様が地面の上で右手を回して暴れてるよ!」


「ホホォ、堅き者よ、次は何をするつもりだ」


 何をするつもりだ? そんなのオレにも分からねーよ!


 だがこうやって行動すればチャンスが見えるはず!


 いや違う、チャンスを引き込んでやる!


 今だ!右腕を伸ばせ!!


「ガシャンッ!」


「ケモ神様が低空飛行で跳んでるよ!」


「そんな同じ芸当、我が食らうと思うてか」


 お前が避けるのは予想通り!


 だからこうやって地面スレスレで跳んでるんだからな!


 オレの右腕回れー!そして跳べ!


「ギューン、ガシャン!」


『鉄壁のスキルを発動』


「グハァッ!」


「長老凄いよ!ケモ神様の地面スレスレの突進から、またジャンプしてバロンの横腹に攻撃したよ」


 どうだオレの渾身の攻撃は!


 ほれほれ、口からは唾液を垂らして痛そうな顔をしてやがる。


「ゆ、油断をした…まさか一度避けた後に別角度からの攻撃をしてくるとは…」


 そうだ!お前が避けてくれたからお前の死界から攻撃ができた。


「お主はやはり危険だな。 噛み砕く事はできぬゆえお主を滅する事は叶わぬ。 さすればもっと慎重に事をはこぼうぞ」


「ブン!」


 ラ、ラスボスの巨大な尻尾が目の前に、当る!


「バシンッ!」


『鉄壁のスキルを発動』


 うわぁー、吹き飛ばされる。


「ドガンッ!」


『鉄壁のスキルを発動』


「ケ、ケモ神様ー!ケモ神様のか…体が大岩にめり込んじゃった……」


 身動きがとれない、左側こらめり込んだせいで右腕をいくら回してもどこにも当たらない…足もめり込んで全く動かない……まずい、何もできない…。


「どうだ⁉動けまい!何もできまい! お主はそこでケモ耳どもが我に食われる光景を見ておれ」


 おい…止めろ! …そんな酷いことは止めてくれよ……。


「グハァ!」


「長老!長老ーっ!」


 長老は…もうかなりの老人なんだぞ…そんなデカい前足で踏みつけることなんてないだろう…。


「ちょ……長老はオラが助ける! その間にホルンみんなを逃してくれ! ……うわあああっ!」


 どうしてホゲゾウ…お前は大怪我してたんじゃないか、それなのに…長老をかばって…今、ラスボスの牙がお前の肩に食い込んでるよ…痛いよな…痛すぎるよな……。


「ホゲゾウ!…ここは通さない! みんなが逃げるまで通さないんだから!」


 ホ、ホルン…逃げろ! お前がかなう相手じゃないってわかるだろ…両手を広げて道を塞いでも意味がないってわかるだろ……。


「キャーーーッ」


 ホルーン!だから逃げろって言ったんだ…おい…止めろ…止めてくれ…ホルンの体に牙を向けるな……。


「ギロッ」


 …アイツ…オレを見やがった……遊んでる…遊んでやがるんだ……わざとオレに見えるようにして…なぶり殺しにしている……。


「ケ…ケモ…神様……」


 …ホルン…ホルンは良いなんだよ…みんなのために命を張って…オレみたいなロボットにも…優しくしてくれて…どうしてそんな良いを……。




 ……もうぶっ壊れていいから…オレに力をくれ……。

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