第15話 大人の部予選
大人の部は人数が多いので、予選は二つに分かれて行われる。
「今入ってきた男が魔界人だ。念のため近づかないように」
「分かりました」
番号を呼ばれた魔界人が舞台に上がる。李九天は呼ばれなかったので、彼と戦うのは本選までおあずけとなった。
──お手並み拝見といこう。
そう期待して始まった予選だったが、開始の合図がされても、彼はいっこうに動こうとしなかった。それを勘違いした近くの選手が彼に攻撃を仕掛けるが、彼が手のひらを相手に当てるだけで簡単に吹っ飛んでいった。
「なるほど。小さな衝撃波を出している。術の一種だ」
武術会の注意事項に、あくまで武術を競う大会のため法術の類は禁止とすると明記されていた。つまり魔界人は禁止行為を行っているわけだが、巧妙過ぎて誰も気付いていない。ここで係に伝えて敗退にしてもらってもいいが、魔界人がそれで暴れるかもしれないので黙っておくことにした。
「終了!」
八人残ったところで終了となった。もちろん、魔界人は残っている。派手に立ち回らないところを見ると、高い知能の持ち主らしい。厄介だ。
「残りの番号の人は舞台に上ってください」
李九天が手を振ると、香風は両拳を縦に振って気合を入れていた。どちらが試合をするのか分からないくらいだ。
選手が次々に上がる。皆、各々道着を着て気合十分だ。一方李九天は深衣を着ており、激しい戦いに向いていなさそうに見える。
「始め!」
開始の合図がなされる。李九天は近くにいた相手に拱手すると、軽い身のこなしで手のひらを押し当てた。相手がふんわり浮き上がり、場外へ落とされる。流れる動作のためゆっくりに見えたのに、相手は何も出来ないまま負けてしまった。
それを目撃した者が李九天から距離を取る。
「どけ。俺がやろう」
その中から屈強な男が一人近付いた。よほど自信があるのだろう。
「お相手願います」
李九天は笑顔で待っている。決して自分からは行かない。男も慎重に隙を見つけようと間合いを保つが、やがて一歩後ずさった。
「すまない。俺には早かったようだ。また本選で対戦願う」
「分かりました」
お互い拱手し合っていたら予選が終わっていた。李九天はすでに一人場外送りにしており、各々一人倒せば半分の人数になるので妥当なところか。無難に通過することが出来てほっとした。
香風のところに戻る前から拍手されていて、少々照れくさくなった。魔界人は部屋の隅で欠伸をしていた。
「素晴らしかったです!」
「ありがとう」
「戦わずとも師父の強さを見抜くなんて、あの方も強そうです」
「そうだな」
本選に勝ち進んだ男を見遣る。人間としてはかなり出来上がっている。もう五十年修行したら神へと近付く道が開けそうだ。
「予選お疲れ様でした。本選へ出場される方は外の本会場へとご案内します。開始までその横の待合室でお待ちください」
本選は外にある大会場で行われることになっており、皇帝も見物するらしい。というのも、武術会自体皇帝主催であり、選手を軍へ勧誘することもあると聞いた。子どもの部は娯楽の一つとして、本命は大人の部といったところだろう。
王都の軍人ともなれば給料が高いので、勧誘目的で出場している者もいる。実際、予選の時に近くにいた人間が噂話をしていた。勧誘されても断ることは出来るので特に気にしていなかったが、軍の試験以外で優秀な軍人を見つけ出せるとあれば、双方に良いことだ。
李九天と香風は一番最後に本選会場へと向かった。会場は予選会よりも広く、階段状の観客席もある。その一番上に大きな椅子がいくつか並べられていた。
本選出場選手一覧が貼り出される。しかし、そこには番号のみの記載で名前は記されていない。優勝者のみが名前を発表されると受付で言っていた。
どうやら、名字で流派が分かったり、武術会閉会後に名前を悪用して犯罪に巻き込まれたりすることがあるため、事前にそれらを防ぐためらしい。
ここの人間がしっかりしているのか皇帝の管理が行き届いているのか、どちらにせよ悪い印象は無い。
「私は四十一、香風は十三番だな」
「はい」
相手も番号のみなので性別すら分からず、どのような相手かは対戦するまでのお楽しみとなった。
係の者が番号札を引き、順々に対戦表に書かれていく。子どもの部が書き終わり、続けて大人の部も決定した。
ここからは一対一の勝ち抜き戦となる。予選時、魔界人は三十六番だったので、決勝まで当たらないことが分かった。
その間に客席が埋まっていく。本選選手の身内か、王都の人間か。開会式が始まる頃には皇帝も姿を現した。
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