第13話 王宮と言うよりは

「……市役所のエントランスだな」


 或いは、今朝方待機したハロワの待合室。

 何処もかしこも日本的な物へとカスタマイズされているせいで、イマイチ異国感に欠ける。


「それだけ機能的と言うことだよ。

 さて、換金さえすれば後は日本へ帰るだけだしね。

 僕はここで解散させてもらうよ?」

「そうっすね。

 自分は、ハロワで先輩のカード受け取るまで同行するっすけど、さすがに今日はもう1回ダンジョンに潜る気はないっすし……」


 俺の愚痴を嗜めた山場が離脱の宣言をして、晴彦もそれを受け入れる。

 実際、予定したよりも遥かに高額を得たので、もう今日はこれ以上ダンジョンへ潜る気にはなれない。

 レベルアップと言う手段こそ満たしていないが、俺なら1人でもある程度ダンジョン探索が可能と言う実情が確認できたのだ。

 大金を得たタイミングで、わざわざ更なる労力を費やそうとは思わない。

 対して、晴彦に金貨2枚で雇われていた山場は、気疲れした割には得られた金銭は少ない。

 追加で一働きくらいはしたいのだろう。


「それじゃあ、お疲れ様」

「ああ、またな」

「ありがとうございました」


 まるで仕事終わりのような調子で、王宮の外へ向かう山場を見送っていると、


『受付番号16! 

 換金が終了しましたので、至急引き渡しカウンターまでお越しください!』


 丁度、俺の換金準備が整った連絡が入る。

 思った以上に早い対応だった。


「まあ、王宮ではこのくらいの換金手続きは珍しくないんじゃないっすか?」

「そんなものか?」


 日本の銀行でも、数千万を換金したりしようと思えば、相当に時間が掛かると思うのだが……。


「上位の魔物討伐とかになれば、この額の動きは不思議じゃないってことだと思うっす。

 さて、受け取ったらハロワに戻って、Eカードの受け取りっすね」

「……思ったよりもあれこれと手続きがあって面倒だな」


 ダンジョンに潜っていた時間なんて、数時間だぞ?

 それ以外のほとんどの時間が、事務手続き。


「始めてやる仕事なんてそんなものと言いたい所っすけどね?

 先輩が思った以上に活躍したからっすよ?

 普通は少しダンジョンに入ってみて、雰囲気を味わいがてら、2、3レベル上げて終わりっすから」


 早く受け取りに行くよう急かしながら、こちらへしっかり文句を付けてくる晴彦。


「……それもそうだがな」


 百歩譲って、ゴブリン集落の殲滅はともかく、そこの魔石が高ランクだったのは俺のせいではない。

 ……不可抗力と言うべきだろう。


「俺のスキルに広域攻撃能力があった。

 その能力調査として、ゴブリン集落を攻撃してみた。

 ここまでは確かに俺の意思の元に行われた行動だ。

 けれど、殲滅したゴブリン集落がスタンピード寸前だったと言うのは偶然だろう?

 ……まあ、アニメやゲームじゃあるまいし、出来すぎの偶然ではあるがな」

「そうっすけど……」


 強いて言うなら、カーバンクルと言う幻獣の名を冠するスキル。

 これが何かをもたらした可能性は否定できないが、ゴブリンと言う魔物を、精霊と言う存在の力を借りて殲滅しただけであり、どう考えても俺のせいとは思えない。

 偶然、大勝ちの幸運を拾っただけと言う方が自然な気がするのだ。


「ほれ、さっさと金を受け取って帰るぞ?」

「愚図っていたのは先輩じゃないっすか……」


 いつの間にか逆転していた立場を愚痴る晴彦の背中を押して、受付カウンターへ向かう。


「細かいことは気にするな。

 すみません。

 受付番号16番の者です!」

「お待たせしました。

 こちらが現金化された貨幣、1袋辺り大金貨100枚になり、端数が82枚。

 ご査収の上で、受領印をお願いします」


 大金貨1枚が、1万ゴルドで10万円相当。

 100枚入り4袋で400万ゴルドに、端数が10枚の塔が8つ。

 飛んで2枚の大金貨。

 確かに482枚のアルンランド大金貨があるようだ。

 その82枚も目の前で別の袋に入れてくれる。

 しかし、


「……小型のリュックサイズの袋が5つとか、どうしたら良いと思う」

「頑張って持ち帰るしかないっすよ。

 あいにくと、冒険者カードには銀行口座の紐付けは出来ないっすから」


 サイズもそうだが、それに見合う質量もあるので、正直持ち帰るのにも苦労しそうである。


「……そうだよな。

 Eカードがあれば問題なかったんだろうけどな……」


 Eカードには銀行口座との紐付けが可能であり、異世界人の場合は冒険者カードもE カードとは紐付けすることが出来るらしい。

 厳密には、冒険者カードで銀行口座のような物も作れるらしいのだが、そちらは冒険者ギルドが運営する口座であり、開設資格として5年以上の冒険者活動実績と悪行ペナルティなしが必須との事だ。

 ……まあ、普通は初心者に口座が必要なほどの大口の仕事は回ってこないだろうし、逆に上位の冒険者に毎回大金を現金払いしていたら、保有する現金量が不味いことになるだろうから、理には叶っている。

 しかし、


「1袋約5kgの5袋で約25kgか?

 それを持って、ゲートのある教会まで歩くとなると、十分に重労働だな」

「一応、半分は持つっすよ?

 ですけど、本当に結構な距離っすよね……」


 徒歩10分程度の距離とは言え、10kgの重りを持って移動するにはキツい距離である。

 ましてや、高額貨幣を持ち歩く精神的なキツさも含めれば、苦行でしかないが、投げ捨てるには魅力的すぎるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る