第12話 宝くじレベルの換金と高級ファーストフード

「お待たせしました。

 差定額は482万ゴルド分になります。

 内、千ゴルド以下はギルド規約8条5項を根拠として、切り上げてお支払いたしております」

「「「!!」」」


 俺達が通されて、しばらく後にやって来た受付とは別の職員が告げたのは、日本円にして4820万円。

 下手な宝くじを超える額の提示であった。

 一介のサラリーマンに過ぎない俺達には、まず縁がない高額に互いの顔を見合わせるしかない。


「内訳は、5級魔石が6個、これで324万ガルド。

 これが支払い額の大半ですね。

 残りは7級クラス23個で、約155万。

 これに3層ゴブリン集落掃討報酬を含めた分と、規約による報酬切り上げで、合計482万ゴルド。

 問題がなければ、こちらで受領サインをお願いします」


 そう言って、金属製のカードと筆記具を差し出す職員。


「……俺がサインをすれば良いんだな?」

「……そうだね」

「……はいっす」


 未だ、受け取り金額の大きさのせいで、お互いにぎこちない状況ではあるが、今回引き渡した魔石は、俺の殲滅したゴブリン集落の物なので、俺がサインをする必要があるとのことだ。


「……確かに」


 引き取ったカードの裏面に記載された金額を確認して、受領書にサインを施す。


「ちなみに、全額を貨幣へ交換するには、王宮で受けないとダメですよね?」

「……そうですね。

 この全額となりますと、公認商店や銀行では難しいでしょう」


 受け取ったカード状の債権を透かしたりして眺める俺を他所に、あれこれと情報収集を進める山場。

 しかし、小切手のような為替を、王宮以外にも交換が出来る施設があるってことは、既にそれだけ浸透しているとも取れる。

 本当に日本と変わらない民度じゃないか?


「じゃあ、換金に……」

「お待ちください。

 もうしばらくしますと、北里さんのギルドカードが出来上がりますので、それを受け取ってからにしてください」


 未だエトランゼカードのない俺には、現金への変換は必須。

 王宮とやらが何時に閉まるのかは知らないが、早めに交換してしまいたいと思った俺に、職員の男性が待ったを掛ける。


「王宮までは歩いて10分程度だし、待つくらいは大丈夫だと思うよ?」

「それなら……」

「どうせなら、隣の飲食店で昼食でも取りながら待つのはどうっすか?」


 慌てる必要がないと、断言する山場に頷くと、香川が提案を出してきた。

 確かに、異世界の食事ってのも結構に気になったのだが……。





「まさかのファーストフードチェーン店かよ……」

「安心だろ?

 下手にゲテモノ料理とか出されても、北里君とか絶対に食べないじゃないか」

「それもそうか……」


 ファンタジー定番のオーク肉とか、出されても困ってしまう。

 なので、


「……昼時のファーストフード店にしてはガラガラだな?」


 話題をすり替えた。

 実際、昼時とは思えないほどガラガラの店内は、日本の同チェーン店を知ると違和感がある。


「そりゃあ、こちらの世界じゃ高級料理店だからね。

 今食べてるハンバーガーセットが、銀貨1枚だよ?」

「?!」


 慣れ親しんだ味のハンバーガーだと思っていたら、高級料理だった!

 銀貨ってことは銅の次だから、100ゴルド単位。

 銀貨は小銀貨5枚分だから、500ゴルド。

 そんで1ゴルド10円だから、このハンバーガーセットは5000円ってことになる。

 ……その割に、日本で食べている1000円未満のものと変わらない味のような気もするが?


「需要と供給の問題さ。

 仮に、これが日本と同じような価格帯で販売されたらどうなると思う?」

「小銀貨1枚程度ってことか?

 ……もっと売れるだけだろう?

 回転効率が上がる分だけ、原価も下がりそうだが?」


 安くなれば、その分需要が増えるのは自然。

 今のように開店休業状態の時間が減れば、利益も増えるだろう。


「残念だけど、もっと大変なことになるだろうね。

 最悪はアルンランド王国の経済的な破綻」

「たかがファーストフードの値段で?」

「これは日本から持ってきた食材と設備で、日本人の従業員が、製造している商品だろ?

 この店の利益に、この国の労働力は絡んでいない。

 その前提で、このファーストフードの味は、この世界の資本では再現できない。

 そのうえで、この世界の平民の一般的な外食代は銅貨1枚強」


 そこまで言えば分かるだろう? と、笑う山場に眉を潜めることになった。

 つまり、1食辺り10ゴルド程度の上乗せで、このファーストフードが食べられるなら、周囲のこの国に根を張る飲食店は、競争も出来ない状況に追い込まれる。

 もちろん、毎日ハンバーガーセットでは飽きも来るし、異国のファーストフードよりも慣れ親しんだ昔ながらの大衆食堂を好む者もいるだろうが……。


「周辺の飲食店が軒並み客足を落とすか。

 そうなると、一気に不景気到来だな……」

「せめて、この店で働けるアルバイトとかが育ってからじゃないと不味いだろう?」


 雇用先が減り、家計費が減る家庭が増えれば、当然景気が悪くなる。

 だから現地の飲食店と競合しないように、高級路線で売る。

 閑散とした店内も国同士の関係を維持する上では必要なことと言うことだ。

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