第11話 換金騒動
「本当にゴブリンの魔石ですか?」
せっせと魔石拾いを終え、ダンジョンを出て直ぐに、再びバスに乗って今度は冒険者ギルドへやって来た俺達。
このバスは教会とダンジョン、冒険者ギルドを結ぶシャトルバスのように運行しているらしいので、ダンジョンから乗れば自動で冒険者ギルド前に着けるとのことだ。
それで着いたら、そのまま受付の元に集めた魔石を提出したのだが、受付の方は変な者を見るような視線で問い掛けてくる。
「ダンジョン第3層のゴブリン集落で手に入れたモノだよ?
偽物じゃないさ」
すかさず、山場が言い募る。
ただの黒曜石と勘違いされては堪らないからな。
「違いますよ。
ゴブリンにしては、魔力純度が高い気がするんです。
見た感じ6から7級クラスのように思うんですけど。
……まあ、計測器に掛ければ分かることですね」
そう言うと、1つの魔石をトレーに載せて、空港にある手荷物検査機のようなモノへ流す。
ベルトコンベアの通過に合わせて、ディスプレイに映った数値は『47』。
「やはり7級後半の上質魔石じゃないですか。
パッと見、他も似たようなレベルだと思いますし、何で低く申告なんてしたんです?」
「いや、本当に3層の集落産なんですよ?」
「仮にその話が本当だとすれば、スタンピード寸前だったと言うことになります。
ですが、そのような兆候は一切ないんです。
巡回の騎士や他の冒険者からも一切ですよ?」
未だに納得できない様子で、説明を繰り返す山場。
それを他所に、小声で隣の晴彦に確認を取る。
「香川、スタンピードってのは、ゲームとかであるようなダンジョンの氾濫現象か?」
「そうっす。
その前兆でダンジョン内の魔素が異様に濃くなって、魔物のランクと魔石の質が上がることは確かにあるらしいっすけど……」
初めて入った俺はともかく、山場がそれに気付かないはずはないか……。
しかし、魔素の濃度か。
俺の推測が補強される情報だな。
推測。
……精霊の炎が魔術的な炎と同質かと言う点。
いや、はっきりと言うべきだな。
人の魔力で作られた炎は、当然、魔物に吸収されることがないが、俺が精霊を介して用いた炎は、魔物に吸収される性質があるかもしれないと……。
だが、下手なことは言えん。
ゲームによっては、友好的な魔物を仲間にするとかあるが、現実的に考えて、人より高い素養を持つ魔物と友好関係を結べるとは思えない。
それなのに、下手に魔物寄りの能力を示せば、排斥対象になりかねない。
妻子有る身で、そんな博打を打つほど、身勝手にはなれないし。
「ひとまず、現物があるのは事実なのだから、引き取ってもらう。
ダンジョンについては、念のために調査をしてもらうで、良いんじゃないか?
それでお互いに困ることはないわけだろう?」
言い争う山場達へと、声を掛けて調停を行う。
変な方向に話が逸れるのは、俺の身の危険に繋がってしまう。
現状はお互いに得をした状況なので、矛を治めてもらう方針を提示すれば、受け入れられるはずだ。
「確かに……。
低い査定を受けるわけじゃないし……」
「……そうですね。
我々もダンジョンの全てを知っているわけではありません。
局所的なスタンピードと言う初事例の可能性も有り得るかも……」
案の定、あっさり引き下がる。
予定より高い収入を得られる俺達。
観測事例のない危険を発見したかもしれないギルド職員。
どちらも想定外の利益に戸惑って、不安だっただけなのだから、冷静そうな一言があれば、乗りたくなるのも自然の話だな。
「それでは順次、魔石鑑定を行いますね。
それなりに時間が掛かりますので、皆さんは4番の待合室へどうぞ」
そう言って、近くの扉を指差す受付。
変に目立って、争いになるのを防ごうと言うのは必然か。
「分かりました。
よろしくお願いします。
……待合室なんて初めてだ」
それに応えた山場が、ボソッと嬉しそうに呟く。
結構な熟練者であるはずの山場が、待合室へ通されるのが初めてだと言う。
……良いね。
これは10万くらいの臨時収入に期待できるんじゃないか?
などと、この時は軽く考えていたのだが……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます