第10話 ガラス部屋

 結構な高温に曝された岩肌がガラス状に融け、ゴブリンの集落があった痕跡は見受けられない。

 唯一の証明が足元にちらほらと転がる黒曜石様の石。

 魔物の核となる魔石と言うヤツだな。

 魔物の魔力の源であり、魔物と動物を区別するための指標となるもの。

 同時に様々なエネルギーの代替えとして、利用できる便利な電池代わり。

 冒険者の収入源となる石だ。

 まあ、ゴブリン程度では二束三文の価値らしい。

 1つ辺りだいたい鉄貨1枚。

 つまり50円ほどの価値とのことだ。

 よほど安全とはいえ、落命の危険を抱え、生き物を殺して得た賃金が50円では割に合わない。


「……しょうがないっす。

 普通のゴブリンだと、魔力量10未満の最低ランクしか取れないっすから。

 乾電池1つ分程度の電力に換えるのが精一杯の蓄魔力らしいっす」

「……乾電池1つ分と考えれば、良い値段で売れるとも取れるか」


 需要と供給の問題もあるのだろうが、それにしても利益にならない。


「割に合わないことは確かだよ?

 同じ等級で、ゴブリンよりも弱いスライムを狙った方が効率は良いんだから」


 なるほど、あくまでも蓄積された魔力量に問題があるわけだ。

 ……それなら、


「この魔石に、魔力を注入したら等級が上がって、高く売れないか?」

「……一理あるっすね」


 少し黙考した晴彦が同意するが、


「無理だよ。

 人の魔力と魔物の魔力では質が違いすぎる。

 下手に込めようとしても、魔石が砕けるだけさ」


 山場が否定する。

 つまりは、既に試そうとしたヤツがいるってことだな?


「魔石のランク上げは、この世界じゃ重要な研究分野だからね。

 何処の国も必死に研究しているらしい。

 もちろん、技術の秘匿もあるだろうけど、国が魔石収穫のためにスライム牧場とかを運営している時点で察せるね」

「スライム牧場?」


 わざわざスライムを畜産しているのか?

 ……ああ、よくある設定通り、スライムが何でも食べるならありか。


「囲いの中にスライムを入れておいて、上からエサを放り込んで育てる。

 収穫期には、上から油と火を放って焼き殺した後に、魔石回収するらしい」

「熊牧場の残酷バージョンかよ……」


 或いは機械的な生産システムと言っても良いかもしれないが……。


「似たようなものだろうね。

 牧場と言っても、野生の魔物を捕獲しているだけだしね。

 ああ、それでだけど、たまにスライム関係の依頼が貼り出されることがある」

「元になるスライムの捕獲とかか?」


 そんなやり方をしていれば、生きたスライムは減少していくだろうし、補充がいるのは当たり前だろう。


「それもあるけど、それよりも問題は緊急で発生するスライム足止め依頼。

 この依頼、結構な頻度で発生するんだけど、報酬は少ないし、制約は多いしで、かなり厄介なんだ。

 受けない方が良いよ?」

「まあ、足止めの時点で面倒そうだな。

 と言うか、なんで足止め?」


 倒せないほど強くなると言うわけでもないだろうし……。


「牧場の囲いを出た時点で、野生のスライム扱いだからさ。

 冒険者が倒したら、魔石も冒険者の取り分になるだろう?

 だから、冒険者の仕事は足止め。

 討伐は騎士団が請け負うと言う取り決めがあるらしいよ」

「最初から騎士団を派遣してしまえば良いのに……」


 変な依頼を出すなと言いたい。

 まあ、受ける予定のない俺が言うことでもないけど……。


「騎士団を派遣しようと思うと、要請から出動まで丸1日は掛かるらしいよ。

 だから、身軽な冒険者に足止めを依頼するわけだね」

「お役所仕事らしいな……」


 スライム討伐専門部隊でも用意した方が良いんじゃないか?


「お役所仕事って……。

 しょうがないんじゃないかい?

 騎士や兵士は非生産職だから、余剰人員は抱えていないだろうし、休日中の騎士とかをかき集めているんだろう」

「世知辛いな。

 ……最初から、魔石引き取り条件で依頼を出せば良いのに」


 何処の世界も下っ端の悲哀は変わらないらしい。


「条件付き依頼になると、依頼料が跳ね上がるからだろうね。

 討伐よりも足止めの方が安いってのも大きいだろうし。

 騎士の休日出勤は、振り替え日ありなら手当ては、ごく僅かだと本人達から聞いたことがある」

「本当に夢も希望もない話だな!」


 マジで高潔な魂の持ち主にしか就けなさそうな職業である。

 或いは、バカが付くお人好し専用職と言うべきか。


「先輩達もサボってないで拾うっすよ!

 あまり時間が経つと、ゴブリンが復活するっす!」

「そうだった。

 北里君、今は魔石を早く集めて、ダンジョンを出よう。

 続きは換金がてら、冒険者ギルドでね!」


 晴彦の呼び掛けで、あわてて周りの魔石を探し始める山場。

 ダンジョンらしくモンスターはリポップすると言うことらしい。

 そう言うところだけファンタジーなようである。

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