第8話 検証と暗礁

 山場に従って、2つほど階段を降りた後。

 足跡の多い左側のルートとは逆に進んで、しばらく進んだ山場。


「この辺りまで来れば大丈夫」

「ここは?」


 少し開けた所へ辿り着いて、やっと息を抜いた山場に、場所を訊ねる。


「第3階層、ゴブリンの大量発生領域。

 通称、ゴブリン集落へ行く途中の辺りさ。

 このルートの先は、ゴブリン集落にしか通じていないから、滅多に他の冒険者はやってこない」


 聞けば、ゴブリンは魔石以外にドロップ品がなく、そのくせ一端に武装しているので装備の消耗率が高い。

 割に合わない嫌われ者として認識されているので、まずこちらへやってくる人間はいないらしい。

 しかし、先ほどから逃げてばかりの休日だ。

 平素でもこんな動き回ることはないのだが……。


「さて、改めて北里君は、よく言うところの火の精霊と契約したと言うことで良いかい?」

「契約はどうか分からないが、少なくとも火の精霊が力を貸してくれたのは間違いないと思う」


 意思を持つ世界の維持管理システムとなれば、それは神や精霊の類いで間違いないだろう。


『小さな炉が求めたから力を貸した。

 その代わりに魔力を貰った』

『古に結んだ約定通り。

 今更、魔力は返さない』


 俺達の会話に念話で口を挟む暫定精霊達。

 どうやら、俺が魔力とやらを返せと言うのを嫌がったらしい。


「……俺の魔力と言うものを持っていって、代わりに周囲を照らしてくれているのは事実らしい。

 俺に魔力と言う不思議パワーがあることは確定だな」

「そうなるね。

 けど、ダンジョン前では何も起きなかったようだけど?」


 確かに、あそこで炎が出せれば、いらない恥を掻くこともなかった。


「そうだよな……。

 その辺どうなんだ?」

『ダンジョン前?

 鉄の箱から降りてきたカーバンクルが、ファイアとか叫んでいたアレ?

 アレは何がしたかった?』


 ……なるほど。

 読めてきたぞ。


「ファイアと叫んだけど、火の精霊達から見ると、不思議な言動をしていただけに見えた?」

『炎と叫ばれても、何がしたいか分からないのは当然』

「なるほど。

 急に炎と叫んだ所で、目的が分からないと言うのも当然か。

 何かを燃やしたいのか、暖を取りたいのか或いは灯りがほしいのか……。

 今回は灯りがほしいと言ったから、周囲に火の玉を浮かせてくれたと」


 聞こえていないであろう、晴彦達への説明も兼ねて、敢えて言葉に出すと、よりハッキリ分かる。

 俺達の認識では、ファイアとか叫べば炎が前方に飛んでいくような感覚があった。

 だがこれはゲーム等のイメージによるもの。

 そういう感覚がない精霊から見たら、俺が変な行動していると言う認識になるのも不可避だろうな。


「つまり、火の魔術が使えるわけではなく、火の精霊に指示を出すことで、火の魔術と近い現象が起こせると言うことだね?」

「魔術と言うよりは、精霊術と言う感じなわけだな。

 後は使い勝手だが……」


 山場の解釈に応えつつ、精霊の力の具合を考えていたが、


『釣り合う魔力さえ貰えれば、どんなことでも思いのままに出来る。

 火の精霊は、カーバンクルの求めを否定しない』


 どうやら思った以上に、強力な味方らしい。

 となると問題は、魔力の量か。

 どうやって測るのだろうか?


「必要な魔力さえ用意できれば、どんなことでも出来るとのことだ。

 おいおい検証していくしかないな?」


 俺の保有する魔力量、火や熱とは関係ない事象への干渉等、検証要素は多い。

 しかし、


「魔力切れは危険だけど、威力や効果が術式依存でないのは、良さげだね。

 本格的に冒険者としてデビューしても十分に稼げそうだ」

「やはり、そうなるか。

 とにかく実戦を積むのが最優先ではあるが……」


 同じ考えに、思い至ったらしい山場へ同意する。

 同じような炎攻撃でも、魔術の使い手が10、20と言った決まった攻撃力しか使えないのに対して、14とか21のように柔軟性があるのは、かなりのアドバンテージになりそうで、同時に威力が安定しない短所にもなり得る。

 多分、一般的な魔術師よりも馴れるのに時間がかかるんじゃないか?


「けど、色々と面倒っすよ?

 まず、ソロは不味いっすね」

「確かに精霊との齟齬が怖いな。

 昔のゲームのように、MP0でも動けるなら良いが、これが難易度高めゲームのように、魔力切れ昏倒だと、自滅に繋がる」


 晴彦の懸念に同意する。

 しかも、


「威力が安定しない可能性が高い。

 主導権が精霊依存である以上、MP0は起こり得る。

 ……結論、ヤバい」


 更に考察を進める。

 どう考えてもソロでダンジョン攻略は出来ない。

 しかし、


「かと言って組んでくれる人間はいるかな?

 威力が安定しない可能性があるってことは、巻き込まれる可能性があるってことだろ?

 今日のような引率ならともかく、共闘攻略なら僕も遠慮願いたいと思うよ?」


 俺だってフレンドリーファイアがある人間とは組みたくないし、当然の懸念だと思う。


「……戦闘以外の副業を探した方が良さそうっすね」


 晴彦の残念そうな声。

 ダンジョン攻略と言う、手っ取り早く儲ける手段が使えないとなれば、どうなるのも当然だろう。

 ……文句を言いたいのはこっちだが。

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