第6話 固有スキル

 書かれている内容は実にシンプルに日本語で、


『カーバンクル』


 の一言。

 カーバンクル?


「いわゆる、幻獣の名前っすよね?」

「そこそこ有名ではあるな。

 額に赤い石を持つウサギのような幻獣だったか?」


 某落ちものパズルゲームで、主人公の相棒を勤めていたり、わりと知名度のある幻獣だと思う。


「幻獣の名前を持つスキル……。

 大当たりかもしれないね」


 困惑状態の俺達に対して、変な確信を持っていそうな山場。


「何か知っているのか?」

「あくまでも噂レベルの話だけどね。

 香川君も、鉄槌姫と言う女性冒険者を知っているだろう?」


 俺の問い掛けに、頷いた山場が晴彦へ話題を振る。


「もちろん知ってるっすよ?

 背丈を超えるウォーハンマーを振り回して、戦う冒険者っすよね?」

「彼女のスキルが、マシラオーの豪腕と言う固有スキルだと言う話なのさ。

 そして、マシラオーと言うのは、五級モンスターの1種。

 固有スキルの中にはモンスターの名を冠する物があると言う噂だね」


 それが事実なら、俺は固有スキル持ちだと言うことになる。

 しかし、


「折角の固有スキルがカーバンクル?

 すごい弱そうなんだけど……」


 ウサギもどきの幻獣を想像してしまうと、正直がっかりではある。


「ドラゴンとかだったら最強なんだろうけどねぇ。

 けど、地球におけるカーバンクルの語源は、ラテン語の燃える石だったはず。

 少なくとも火の魔法は使えそうだろ?」


 そんな俺に苦笑しつつ、慰めの言葉を掛けてくる山場。

 微妙に嬉しそうなんだが、


「謎のスキルだけに、下手な人間は雇えない。

 しかも戦闘力があるかどうかも不明と言うわけだからね」


 つまり、俺達にくっついてきたことが無駄にならなかったと言うわけだな。


「そうっすね……。

 金貨2枚で護衛をお願いするっす」

「そうこなくてはね」


 苦笑しつつ、依頼を出す香川ににっこり笑顔の山場。

 しかし、


「日本円では支払わないのか?」


 こちらの世界での貨幣であろう金貨の価値は分からないが、どうせなら日本円で渡せば良いと思える。


「金貨の方がありがたいのさ。

 このアルンランド王国の貨幣は、日本円で買い取って貰えるけど逆はないんだ。

 だから、こちらで武器や防具を揃えるなら、アルンランド貨幣の方が便利だろ?」

「武具の類いも消耗品っすから、少なくても修繕費分はアルンランド貨幣を持っておく方が良いっすよ。

 特に戦闘職の人間は」


 確かにゲームじゃないから、武器も下手な使い方をすれば折れたりするだろう。

 そして、銃刀法のある日本では装備の新調出来ないはず。

 必然的に、アルンランド貨幣で取引するようになるんだな……。


「僕らとしては、銀貨以上は日本円に替える時に手数料が掛かるんで、アルンランド貨幣でのやり取りがありがたいと言うのもあるんっすけど。

 あ、アルンランド貨幣は10円相当の小鉄貨。

 その小鉄貨5枚で鉄貨と言う具合に貨幣の価値が上がるっす。

 鉄貨の上は小銅貨で、交換率は2枚。

 銅の上が銀、金と続き、金貨だけは、大金貨ってより大きい貨幣があるっす」

「貨幣単位はゴルド。

 1ゴルドが、小鉄貨1枚で10円相当だね」


 小鉄貨が10円?

 となると、小銅貨が100円、小銀貨が1000円だろ?

 金貨は1000円相当になる小銀貨の50倍相当だから、金貨=5万円……。

 つまり、日額10万円相当の護衛費用となるわけだ。


「……ずいぶんと羽振りが良いな?」

「それほどでもないっすよ。

 命が掛かってるんで出し惜しみは出来ないだけっす」


 大盤振る舞いの晴彦をジト目で睨む。

 少し油汗を浮かべているか?


「……先ほど話題に出た鉄鎚姫の冒険者ランクは、Aランクのはずだからね。

 固有スキル持ちの北里君が、少しでも早く稼ぎ出せば、その分香川君も恩恵に与れると言うことだろう?」

「ちょっと、山場さん!」


 晴彦へ圧を掛けていた俺の横で、あっさりとネタをばらす山場。

 つまり、


「半年の間に、高ランクへ到達できれば、その20%が取り分となるって寸法か」

「……へへへ」


 呆れた顔で、実情を確認すると頭を掻きながら、下手な愛想笑いを浮かべる。

 ……図星と言うことだろう。


「さあ、とにかくダンジョン前まで行こうっす!

 今から向かえば、バスの時間っすよ!」

「……まあ良いが。

 って、バス?」


 後輩相手に目くじらを立てるのもどうかと思うし、そもそも俺が損する話ではないのだ。

 それよりもファンタジーに似つかわしい単語に興味を惹かれる。


「日本の資本が入ってるんすよ?

 バスくらいは普通に走ってるっす!」

「ファンタジーはないと言うわけか」

「当然、内政チートもないっすよ!」


 日本の企業があれこれと介入しているのに、一介のサラリーマンに出来るチートなどあるはずもなかった。

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