第5話 エトランゼ
同期と後輩に連れられて訪れた部屋には、古めかしい門が1つ。
部屋の中央に鎮座するアンティーク調の門の威容で気付かなかったが、その前には、事務机に座ってスマホを弄る中年の警備員が2人。
「転移希望者か?
Eカードか身分証を出してくれるか?」
警備員の男の1人がこちらに気付いて、指示を出してくる。
それを聞いた晴彦が、自身は黒いカードを手渡しつつ、
「先輩は身分証を出して欲しいっす」
と頼むので、さっさと免許証を渡す。
「……運転免許証かよ。
面倒だな。
番号を控えるぞ?」
山場や晴彦が、ハンディスキャナーのようなもので、ピッと終わったのに対し、俺の方はパソコンを開いて、キーボードで免許証番号の打ち込みが行われる。
柄は悪いが仕事は真面目にやるタイプらしい。
「よし、今日から転移者として登録された北里雄大だな?
帰りにはEカード、じゃなくてエトランゼカードが発行されているはずだから、適性診断を受けた受付に寄って帰れよ?」
「エトランゼ、フランス語で旅人だったか?」
Eカードの正式名称が、エトランゼカードのようだが、
「見知らぬ旅人、異邦人ってニュアンスが強いかな?
英語のフォリナーやストレンジャーだと、外国人と言う意味で捉えられることが多いから、エトランゼになったらしい」
「英語に比べれば、フランス語はどうしても認知度が下がるっすからね……」
俺の呟きに応え、名称の背景を教えてくれる2人。
……確かに、下手な場所でフォリナーカードやストレンジャーカードなんて話題に出して、無関係な人間の勘違いを煽るのは危なさそうだ。
「ふんじゃ、気ぃ付けて行ってこい。
まあ、お前さんらは危険な行為をしないと思うが……」
「先輩の鑑定とレベリングっすからね」
警備員の気のない警告に、苦笑いの晴彦。
続いて、門を潜る山場の後を追う俺が見たのは、
「見た目同じかい!」
門を潜る前と同じ見た目の地下室。
唯一の違いは警備の人間。
向こう側が警備員だったのに対し、こちらではゲームに登場する騎士のような格好である。
「地下室なんて、みんなこんなもんっすよ。
それじゃあ行きますよ。
あ、ご苦労様です」
騎士達に挨拶して階段へ向かう晴彦。
それに軽く手を上げて応える騎士達。
……えらくフレンドリーである。
文化も法律も異なる異世界の人間を警戒とかしないのか?
「日本がこの国の魔道具で豊かになったように、この国も日本の技術で豊かになったんだよ。
友好的な対応も当然だろ?」
「人の心を読むな」
前を歩く山場がこちらの考えを読んだように応えてくるので、悪態を付きつつ、晴彦を追う。
日本側に比べて短い階段の先には、何故か男と女と書かれた暖簾。
……温泉とかでみるヤツである。
それが掛かった扉があった。
躊躇うこともなく、男側の暖簾を潜る2人に付いていくと、スポーツジムの更衣室のようなロッカー。
横幅が日本で見掛けるものの3倍くらいありそうだが……。
「自分らは、パパッと装備を整えるっすから、先輩は先に行っててください。
そっちの扉開けて、真っ直ぐ進むと大きな感応石がある部屋があるんで」
異世界らしさをあまり感じないことの連続に呆れつつあった俺に、晴彦が声を掛けてくる。
確かに、野郎の着替えを見ていても意味がないので、さっさと反対側にある扉を出て、しばらく進むと広間とそこに鎮座する巨石があった。
自分達の背丈を越える巨大な水晶のような感応石に、驚愕してしまった。
しかし、転移の部屋があり、更衣室があった先、枝分かれもない一本道の先でこれと言うのも奇妙に感じる。
「コイツが感応石の本体か?
こんな通り道に置くか? 普通」
「逆っすよ。
この神授の間が神殿の最奥だと思われていたら、先があったって話らしいっす。
それに感応石で分かるのはスキルの有無のみっす。
実際のスキルは、感応中の人間が転写紙を当てて、そこに転写されて初めて分かるっすから、意外とプライバシーは守られてるっす!」
呆気に取られていた俺の呟きに、答えたのは剣と鎧を身に付けた晴彦。
隣の山場は盾も携えている。
どうやら、あのロッカールームに武装が預けてあったようだ。
「そんなことより、早くスキルを確認した方が良いと思うよ。
あまり大勢に知られるのはよろしくない」
「そっすね。
これを使ってください」
よそ事を考えていた俺に、山場に促された晴彦が白紙を差し出す。
転写紙と言うことか……。
「さて、何が出るかな?」
感応石に向けて、転写紙を翳すと、同じ色で光出す。
これで能力名が写し出されると言うことだったが……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます