第4話 報酬の得方の様々と……

「……そう言えば、山場は誰かを誘ったりしなかったのか?」

「ああ、僕の能力は戦闘系に偏っているからね。

 下手な人間を誘っても上手く行かないだろ?」


 そう言えば、先ほども適性なしの人を案内してきた者がいたな。


「下手するとペナルティを食らう可能性もあるんだ」

「山場さん、自分が説明するっす!

 1人の転移者が、月に紹介できる人数は3人までで、通算3ヶ月連続で失敗。……9人適性なしを連れてくるってことっすけど、異世界転移資格を2年間停止させられるんすよ」

「説明義務違反か。

 すまなかったね。香川君」


 食い気味に山場の言葉を遮った晴彦に、逆に謝罪する山場。

 スカウトマンにも、それなりの義務があるらしい。


「異世界転移資格を停止されると、当然その期間は新しい人をスカウト出来ないし、異世界にあるダンジョンに潜れないから、僕のような戦闘系も困る」

「むやみに人を連れてくる行為の、抑止力になっていると言うわけか……」


 紹介される人が増えれば、その分情報の秘匿が難しくなる。

 そう言う意味では、強い抑止力は必須だろう。


「ただ例外もあるっす!

 こちらの世界でも有益なスキルを発動できる人間っす!

 歌い手とか、詩作なんてスキルを持ってる人間っすね」

「なるほど……」


 歌手や作家なら、そもそもあちらに行く必要はない。

 しかし、


「わざわざスカウトマンの真似事をする必要もないんだろうな……」


 当たれば、高い収入が入る上に、スキルと言う形で才能が保証されている。

 人付き合いで時間を浪費するよりも、自身の才能を磨いた方が良いだろう。


「そうっすね。

 そういう人は向こうへ移住する場合が多いっす!」

「移住?

 平和で便利な日本を捨てて?」


 創作物だと、大抵日本へ帰還を望むのに?


「先輩、政府間の国交があるんすよ?

 日本が技術を輸出しないはずがないじゃないっすか」

「……確かに」


 この国は商機を見出だせば紛争地帯にすら、技術者を派遣できるだけの能力がある国だったわ。

 たかが、異世界だと言う程度の問題無視しそう。


「普通に生活出来るユーティリティがあるのなら、能力をそのまま認めてもらえる国の方が良くないっすか?」

「スキルを確認すれば保証があるわけだよ?

 当然、パトロンも付きやすいさ」


 晴彦の言葉を山場が引き継ぐ。

 ……まあ、娯楽溢れる日本じゃ才能よりもコネの方が、重要かもしれんしな。


「特に王国に認められた芸術家は準貴族位を得られたりもするんだ。

 こちらの世界で抑制腕輪を付けながら、必死に足掻くよりもずっと良いと思うよ」


 準貴族位と言うのが、どういうものかは、いまいち分からないが、


「やっぱり能力をセーブされるのか」


 こちらは予想通り。

 スキル持ちが無双しだせば、社会に混乱をもたらすだろう。

 何より既得権益を侵される連中が対策しないわけがない。


「最初は戦闘系とかだけだったんすけど、メイリーの登場で困った大手が、対策に乗り出したってのが、転移者界隈の噂っす!」

「メイリー?

 ネット配信者出身の人気歌手だな。

 最近は、スランプだと聞くが?」


 特に若年層に人気の歌手で、孝輔や唯がよく配信を観ている影響で、我が家でも話題に上がる女性歌手である。


「スランプと言うよりも、抑制腕輪を着けさせられたせいで能力が発揮できないと言うのが、真相だろうね。

 ちょうど、抑制腕輪の対象が広がった時期に被っているんだ」

「近く移住するんじゃないかって噂っすよ」


 確かに下手に日本で歌手を続けるよりは、のびのびと活動が出来そうではあるな。


「どんどん才能持ちが減っていくことになるなぁ。

 政府はどう思っているんだろ?」

「そこまで考えていないんじゃないっすか?」


 現状を嘆く山場に、呆れ気味の晴彦。

 いたるところで、繰り返されてきた現象がアーティスト業界でも起こるのは必然かもしれない。


「とにかく、副業と言っても同じ仕事をしている訳じゃない。

 実際に判明したスキルを、基に自分にあった方法で稼げば良いのさ」


 これ以上は、考えても憂鬱になるとばかりに、話題を変える山場。


「香川は、スカウトマンのような仕事をメインにしているんだよな?」


 これまでの話から、晴彦の仕事内容も把握できた。


「そうっすね。

 素質のある人に副業を紹介して、ある程度のレベルまでフォローすると、半年間その人が稼いだ額の20%が自分に支給されるんすよ。

 素質にも差があるっすから、安定はしていないっすけど、期間限定とは言え継続的にお金が入るので、小遣い稼ぎにはなるっす!

 ましてや僕のスキルは、複合スキル<スカウトマン>っすから、素質なしの人を連れてきてしまう可能性は低いっす!」

「複合スキル?

 複数のスキルが統合されているのか?」

「良いよね。複合スキル。

 同じ構成の通常スキルを持っているよりも、飛躍的に能力が上がるって聞くし……」


 自信満々に答えた晴彦の説明から、気になる内容を訪ねると、山場が羨むように補足してくれる。


「つまり、スカウトマンのスキルを持つ、香川はスカウトマンとして優秀と……。

 ……ややこしいな」

「文句は異世界の神様にでも言って下さいよ。

 僕のスカウトマンは、直感、解析、人物鑑定の3つのスキルの複合っす。

 そのお陰で、適性なしの人を連れていったことはないんっす。

 けど、自前の戦闘系がないので連れに戦闘スキルがないと、最低レベルまでの付き添いで躓いたりはするっすね……」


 俺の苦笑に反論しつつも、現状を説明する晴彦。


「そんな香川君を見付けたので、くっついていくことにしたわけさ。

 北里君に戦闘スキルがなければ、レベルアップの護衛として、雇って貰えば儲かるからね」


 加えて、そんな晴彦に手を貸すことで利益を得ようとしていると暴露する山場。

 状況的にはWin-Winで良いのかもしれないが、本当にコスパの良い副業なのかと雲行きの怪しさを感じ始めた。

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