七話目 魔王さま、仲間のピンチを助けたい
配膳を終えた後、ワシらはマキシバを呼びに向かっていた。
「炒飯の料理、美味しそうじゃな」
「ふふっ、ありがとうございます。今度、リーヴさんのご飯も食べてみたいです」
「そうじゃな。数年後、体が大きくなってからやってみせよう」
たわいのないやり取りを交わしつつ奴の部屋前につく。軽く扉をたたき「シッシーがお前さんのために料理を作ってくれたぞ。食べに来んか?」と問いかける。少しの間、奴からの反応を待ってみたが返事はない。
「寝ているんでしょうか?」
「かもしれんな。折角だし、ワシが起こしてやるとしよう」
扉の取っ手をひねり、部屋に入る。機器が置かれた部屋のベッドにマキシバの姿はあった。予想通り眠っているようだ。奴の布団を剝ぐと同時に軽く肩をゆする。
「マァ~~キシバ。起きるんじゃよぉ~~」
奴の名前を呼びつつ肩をゆする。
奴からの反応はない。
ふて寝しているのだろうかと思ったワシはゆする強さを上げる。
奴は抵抗するそぶりを一つも見せなかった。
「……マキシバ?」
ワシは奴の体勢を変更し、顔を確認する。
それを見た直後、ワシの中であり得ないはずの言葉が思い浮かぶ。
奴は、死んでいると。
ありえない。あり得るはずがない。
傷もなければ、痛がる素振りすら見せていなかったのだ。
「どうなっているんじゃ……!? お主、治癒魔法は完璧にかけたんじゃよな!?」
「は、はい……完璧にかけました!
というより、私が魔法管理を間違えるはずがありません!」
「じゃあ、なんで奴は死んでいるみたいな顔になっているんじゃ!?」
数千年も人間の生と死を見てきたワシじゃからわかる。
奴は明らかに死んでいる状態なのだ。正しく言えば、仮死状態というのに近いのかもしれないが、原因となる物が思い当たらない。
いったい、いったいなぜ――
「もしかしたら……心世界が関係しているのかもしれません」
「何!? いったい、どう関係しているのじゃ!?」
ワシが問いかけると、シッシーは自信なさげに言葉を口にする。
「牧柴さんは、
「まれびと……とはなんじゃ?」
「稀人は、特定の夢世界にとらわれた人間のことです。夢から目覚めない彼らは、生が尽きるまで夢世界で彷徨うことになります」
「つまり、マキシバは稀人になりかけている可能性があるのか?」
「確証はないですが……おそらく、そうだと思います」
シッシーは不安そうに言葉を口にする。
こやつが抱えている不安が、ワシにはわからなかったが、行動は変わらない。
丁重にもてなしたマキシバを、ワシは助けてやる義理がある。
「なら、助けてやらんとな」
ワシの提案を聞いた奴は戸惑いを見せながら質問する。
「本気ですか? 心世界がどういう場所か、知らないですよね?」
「確かに、知らんのぅ」
「どうやって戦うか知らないのに、乗り込むのは危険です。
もしかしたら……死んでしまうかもしれないんですよ?」
「そうかもしれんのぅ」
「なら――」
「だとしても、こやつを見捨てる理由にはならんじゃろ」
「――!」
発言を聞いたシッシーは驚いた様子を見せた。そんな奴の反応などお構いなしに、ワシは言葉をつづける。
「マキシバはたった一人で夢の世界をさ迷っているんじゃ。恩義のある人間を寂しく死なせるわけにはいかんじゃろ。何より――まだ死ぬと決まった訳では無いじゃろ」
ワシの問いかけに対し、シッシーはこくりとうなずく。
「おっしゃる通りです。稀人となって死ぬのは、大体三日後だと」
「なるほどのぅ。三日の猶予があるわけじゃな」
「はい。ですので、明日から挑戦したほうが……」
「ダメじゃ。今日中に奴の救出をする」
「――は?」
ワシの提案を聞いたシッシーは呆れ声を出した。
「馬鹿を言わないでくださいよ。さっきも言いましたよね。心世界がどのような場所か分かっていないのに理解しないまま行くのは危険だって」
「確かに危険なんじゃろうな。
だが、マキシバはもっと危険な目にあっているんじゃろ?」
ワシの質問に対し、シッシーは口をつぐむ。
「危険な目にあっている恩人を助けぬほど、ワシは白状に生きたくないんじゃ。そうやって生きる時が来たら――ワシは魔王失格じゃからな」
ワシは自分自身の生き方を口にしながら奴の顔を見る。奴は少しばかり口を閉じてから、一言ため息をついた。
「魔王様って聞いていたから、ちゃんと状況を把握して行動する方かと思っていました。とんだおバカさんなんですね」
「なんじゃ、ばかにしておるんか?」
「いえ。良い意味でおバカさんだなって思っただけですよ」
奴はそういいながらワシに微笑みかける。
「いいですよ、リーヴさん。行きましょう、牧柴さんを助けに!」
「あぁ、そうじゃな! ……でも、眠るだけで行けるのか?」
「それに関してですけど、一つやることがあるんですよねぇ」
ワシが心配そうに言葉を口にするとシッシーが両手をすり合わせる。
「どんなことがあるんじゃ? 教えてほしいんじゃ」
「でも……これやろうとしたら怒るんじゃないでしょうか」
「別にいいじゃろ。何でもいいわ」
「では……伝えますね」
シッシーはワシの顔を見ながら、真剣な顔で提案する。
「絶望したくなるまで、私に服従してください」
「……は?」
奴から聞いた提案は、本当に意味が分からないものだった。
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