幕間 彼女をネトルために俺がしなくちゃいけないこと【真ヒロイン登場】

幕間 彼女をネトルために俺がしなくちゃいけないこと【真ヒロイン登場】①

 ここでは一度、これまで語ってこなかった俺の『日課』について言及しようと思う。


 俺が琴吹を『ネトル』と決めた日より。

 俺は様々な策謀を立てる日々を過ごしていたのであるが、それと並行して、ずっと真剣に取り組んできたことがある。


 それは自分磨きだ。


 琴吹を必ず『ネトル』と宣言した俺であるが、それを実現するためには男として、十分な魅力を備えていなければならないことは当然である。


 誰だって、異性としてがれるところのない相手には恋なんてしない。


 俺は琴吹が望むような理想的な男になる必要があった。そのための研鑽けんさんを、俺は日課として生活の中に組み込み精進しょうじんしてきたのだ。


 さしあたり、モテるために必要な要素については押さえておくつもりだ。そして男がモテるために肝心なのが──


 社会的なステータス。


 それがあれば、一般的に男の魅力として認識される。

 そしてその獲得方法には色んな手段があった。それは職業であったり、コネクションの有無であったり、由緒ゆいしょある組織からの表彰であったりと、多くのアプローチの仕方がある。

 だがしかし、それらは一朝一夕いっちょういっせきに身につくようなものではなかった。ましてや学生の身の上で得られる社会的役職などは、たかが知れている。


 よって現段階では、将来的な社会的ステータスに繋がりうる要素──それは勉強であり、幅広い交友関係であり、特技・スポーツなどの実績づくり。それらを習得することを目的とした。


 勉学については元から優秀な部類に入る方であったので、あまり苦労はしなかった。授業だけでなく、自宅での予習復習の時間を取り入れるだけで、成績は簡単にアップした。


 ──あっ、ここ教科書に書いてあったところだ! ここも昨日の予習でやったやつ!


 などと、ぼう進○ゼミの入会促進マンガのような戯言ざれごとを心内につぶやきながら、存外楽しくやっている。


 交友関係についても友人を大切にするようにした。加えて、これまでに交友のなかった相手にも積極的に声をかけていく。


 するとぼんやりとだが、学年内において俺の評判は高まっている感触があった。どこのクラスにも出没して、挨拶まわりをしているだけで『ちょくちょく見かける、感じの良い人』という印象がついてくれたようだ。

 事実、琴吹からも『工藤くん、うちのクラスでもちょっとした人気があるよ』なんて言葉をもらったことがある。

 これは大いに誇って良い事柄であった。


 そして特技やスポーツについての実績づくりであるが……これに関しては正直、手がまわっていないのが現状だ。なにせ、特にこれといった部活動に参加しているわけでもない。

 いつか何かしらの機会を見つけることができれば挑戦してみたいと思うものだが、あまり期待できるところではないだろう。


 そのように、自分磨きについてはおおむね順調に進んでいる。


 鍛錬たんれんにのめり込みすぎて、琴吹への対処がおろそかになってしまうと本末転倒であるため、時間の許す限りというただし書きはつくが、それでも一歩一歩と自分が成長している実感があった。


 意外と俺は自己啓発を楽しめる性格であったらしい。

 目的を持たせてくれた琴吹には感謝である。


──

──


「さて、そうなると。次はファッションでも勉強してみようかなと思うのだけど、どう思う?」

「それは別にいいでしょうけど、それよりもまずは──」


 とある日の放課後。

 場所はいつものカフェテラス、定期的に開かれる作戦会議の場にて。俺が協力者──高梨ちゆきに尋ねると、彼女は呆れた顔をして尋ねてくる。


「アンタに一つ聞きたいことがあるんだけど」

「はて、なんだろう?」





「アンタ──童貞どうていよね?」





「……ハッ!!」


 そして、高梨の指摘により気がついた。


 工藤アラタは『女』を知らぬ。


 女性というのはときに、童貞という、エスコートも満足にできない男を敬遠することがあるとは聞いた話だ。

 これは由々しき問題である。

 俺は自分磨きと称して、自己啓発に勤しんでいたつもりであったが、なんとも間抜けなことに、何よりもまず真っ先に修めなければならないことをなおざりにしていたことに気がついたのだ。


「高梨……筆おろしをしてくれるエッチなお姉さんに心当たりはないか?」

「知るかっ! もげろっ!!」


 これは至急対処するべき案件である。

 琴吹を『ネトル』ためには、彼女の身体を芯からトロトロにできる技術テクニックが必須である。


 つまり俺は、早急に女を知る必要があった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る