第12話 つづいて協力者と計画を練る①
夕暮れはとうに超えてしまい、
「名前は
告げられて、そんな彼女の名前を知る。
美少女だ。
色素が薄く自然には見られない髪色は光沢を持って輝いている。やや気だるげに眠たそうな眼差しは、それでも神秘的な光を持っていた。
まるで神様が特別に
彼女は、俺たちとは違う学校に通う高校二年生であり、一条先輩の幼馴染だという。そのように説明された。
「それじゃ、まずはアンタの話を聞かせてもらいましょうか?」
そして自己紹介もそこそこに、彼女からそのように促される。戸惑うも、俺は腹をくくって全てを話した。
先日、琴吹と一条先輩がホテルから出てくるのを目撃したところから始まり、俺が『ネトリ』がえしを決意したこと、そのために一条先輩には『浮気』をしてもらおうと画策したこと。その全てをだ。
高梨は最後まで大人しく話を聞いていたが、俺が話を切り上げると、悩ましげな息を吐いてから呟く。
「あんのクソ野郎、マジで浮気してやがった」
──あ、ダメだこの娘。超怖い。
一瞬で金玉がヒュンとなる感覚を味わってから、彼女に尋ねる。
「君は一条先輩の『彼女』なのか?」
「向こうは元カノとしか思っていないでしょうけどね」
「あ、そういう自覚はあるんだ……」
そのまま彼女の事情についても聞いていく。
なんでも彼女と一条先輩は子供の頃からの幼馴染であり、中学生の頃までは恋人同士の関係であったという。
「けど、私が高校生になるときに、家の都合でさ、引っ越すことになっちゃって、サトルはこれ幸いと別れ話をしてきたわけよ」
「なんで?」
「束縛されるのをずっと嫌がってたからさ」
「そっか……それは辛かったな」
「……なんでアンタに
「俺はフラれた奴の味方だ」
なにせ俺も盛大にフラれているからな。
俺がそう言ってのけると高梨は「アンタ、馬鹿っぽいけど、結構いい奴だね」と見直してくれるような発言をする。あまり褒められている気はしないが。
「けど、フラれても諦めなかったわけか……その気持ちは分からないでもないけど、普通そこまで言われたら相手に
「何よ、文句あるわけ?」
「いや? その件に関しては俺がとやかく言える筋合いはマジでない」
なにせ俺は『ネトラレ』た彼女を『ネトリ』かえそうとしている男だから、これほどに自分のことを棚に上げている発言もない。むしろ別れることを了承しなかったという彼女の方が可愛いげがあるぐらいだ。
「ただ一般的にはさ、そこまでされたら相手のことを好きなままで居続けようとは思わないだろうなって思ってさ。そして申し訳ないが、俺は一条先輩のことが好きじゃない。自然と、男として魅力がない人だと感じている」
言外に『あんな男のどこがいいの?』と聞いてみる。
もしかしたら機嫌を損ねるかもと思ったが、意外にも、彼女は納得するような気配を見せて口を開いた。
「私とサトルが付き合い始めたきっかけってさ、私が無理やり身体を奪われたところから始まったんだよ」
「え? なに突然、その話は。ドンびく」
反応に困る話題をふられたので真顔で言ってのけると、ギロリと視線が飛んでくる。だが彼女は俺には構わずに言葉を続けた。
「アイツはさ、当時、恋する気持ちもよく分かってない中学生の私を捕まえて、肉体関係を迫ってきたの。『怖い、やめて』って言っても全然聞いてくれなかった。信じられないでしょ?」
「あ、はい……って、ごめんマヂで。返す言葉がない」
え? なにそれ、めっちゃ重い……ってか普通に犯罪──
「だから私は責任とってもらうことにしたわけよ、それこそサトルの人生を全てかけてね」
高梨は「これが私が彼に執着する理由よ」と言ってのける、が──
「……え?」
「え、ってなによ」
はい?
俺は今、混乱の極致にあった。
確か俺は『あの男のどこが好きなのか?』という主旨の質問をしたわけだが、返ってきた言葉は『彼が最低最悪な強姦魔だったから』である。
──どうしてそうなるの?
怖い。
意味が分からなさすぎて怖い。
「え? 憎んでないの?」
「憎んでるし、愛してるわよ」
俺は
目の前の女が、自分とは違う生き物に思えてしょうがない。
「その……クリニックとか一緒に探そうか?」
「はあ? ご
ご飯も美味しく食べられるし、夜になれば普通に寝れると言ってのける彼女に、俺はとうとう
きっと理屈ではない。
男というのはどうしても理屈で物を考えてしまう生き物だという。だから、俺には理解できないのだ。
きっとこれは感情が先行している話なのだろう。
まず前提として『高梨は一条先輩のことが好き』という感情が第一にある。それは不動のものなのだ。その上で、一条先輩が最低最悪な凶行をしでかしてしまったのものだから、目の前の少女はこんなにも
と、そのように無理やり自分を納得させた。
まことこの世は
「怖すぎて、もはや帰りたい」
「はぁ? ふざけるんじゃないわよ」
宵闇の会合はまだまだ続く。
──────────────────
※
ちなみに一条先輩は一条先輩で、いたす前に「いいよな?」と尋ねて「うん」という返事をもらったと確信しています。
それなのに後になって、さも『強要された』ように
両者のどちらの言い分に真実があるかは読者の判断に
ですがまあ、行為をする際には決して自分本位にならずに、相手を怖がらせることのないようにしましょう、という話ですね。
本作には、無理やり行為に及ぶことを推奨する意図はありません。
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