第11話 間男への印象

 その後も聞き耳をたてて、二人の会話を盗み聞きしていたのであるが、これといった情報を得ることはできなかった。


 それというのも一条先輩が明らかに狼狽ろうばいして、核心的な話題を避け始めたからだ。今日の天気がいいだとか、どこぞかの料理が美味しかったなどの話をされたところで、俺には益はない。


 なんというか、知れば知るほどに、彼に対するイメージがどんどんと修正されていく感じがした。

 

 当初こそ、琴吹を『ネトラレ』たこともあって、自信満々で女遊びには事欠かない悪人だという印象が彼にはあった。それが、琴吹とのめを聞いたことにより、少なくとも悪人ではないという人物像へと修正される。


 なにせ、見ず知らずの少女のためにしつこいナンパを撃退するくらいには義に厚い人物であるのだ。きっと頼り甲斐があって、優しいところに琴吹がかれてしまったのだろうと考えていた。


 それがどういうことか。

 目の前にいる彼が、琴吹のいう『一条先輩』と同一人物であると、どうしても思えないのである。


 とにかく頼りない。


 相対する少女の言動にいちいちビクリと反応する様子からは、とてもではないが、自らの正義を貫き通せるような気概きがいがあるようには見受けられなかった。


 ──そういうとこもなんか……違和感を覚えるんだよなぁ。


 そのような思いを持ちながらも盗み聞きを続ける。


 結局、その日はそれ以上、有益な話を聞くことができなかった。

 二人は立ち上がり、カフェを去る素振りを見せ始めている。

 

 俺も一瞬、追いかけなければという意識に駆られたのであるが、二人はそれぞれ帰途につく様子である。なので、尾行はここまでとすることにした。


 二人が会計を済ませて店を出るのを見送る。


 そして俺は、今日得た情報の精査を始める。卓上にスマートフォンを置き、隠し撮りした写真や、途中から録音し始めた二人の会話を確認していく。


 考えるべきことはたくさんあった。


 二人は恋人同士だったというのは本当だろうか?

 ならば今はどうか?

 明らかに温度差がなかったか?

 一条先輩は、チユと呼ばれた少女にどのような感情を向けているのか?


 そのように俺が悩んでいると、とうとうバケツカップのようなカフェオレが底をつく。


 ──あとは家に帰ってからしよう。


 そう思って立ちあがろうとした時だった。

 俺の対面に座る人物がいることに気づく。


「……え?」 


 そして俺の心臓は凍りついた。


 ──

 ──


「あんた、誰?」


 その人物は、咄嗟とっさのことに事態を理解しきれていない俺を直視すると、単刀直入にそう聞いてきた。


「……ぅあ」


 思わず、変な声が喉奥のどおくから漏れ出てしまう。


 俺の目の前に座った人物。彼女は、先ほどまで俺が尾行していた二人組の片割れ──『チユ』と呼ばれていた少女であった。


「ずっと私と先輩のことつけまわしてたみたいだけど……あんたそれ、ストーキングだってことは分かってんのよね?」


 遅れて、俺の心臓がバクバクと鼓動していることに気づく。

 あまりの事態に俺は混乱していた。


 ──いったい何が起きている? いや、いつから尾行がバレていた?


 考えたところで答えは出ない。

 そもそも原因の算出ができたところで意味はない。


 彼女からの詰問きつもんは続く。


「それで目的は何?」


 彼女は言葉少なく、俺がなんのために彼女らをつけまわしていたのかを尋ねてくる。俺は、その質問に答えるべきかどうか、刹那せつなには判断できなかった。この場において、どのような態度を取ることが最適解なのかが分からない。


「まあいいわ。なんにせよ、邪魔なのは間違いないだろうし」


 言いながら彼女は、卓上にあった俺のスマホへと手を伸ばす。そして、俺が隠し撮りした写真を覗くと「ふーん、よく撮れてるじゃない」と言葉を挟んでから言う。


「あんたがどこの誰で、なんの目的で私たちを追いかけていたのか答えなさい。じゃないとコレを持って警察に駆け込むけれど?」

「……それは困る」


 そんなことをされたら一巻の終わりだ。

 俺は考える。

 いったいどういう行動を取るのが最善手か?

 

 彼女の要求するままに、俺の素性すじょうをバラすということは、じきに一条先輩にも同じことが伝わるということだ。そして一条先輩から琴吹へとそれが口伝えされたならば、それは最悪の結果である。せっかく獲得した琴吹からの信頼を一気に失うことになるからだ。

 下手な言い訳はできない。


 スマホを奪い返して、この場を逃走することも考えたが、それもまた同じことだった。いずれ、俺という不審者が特定されてしまうことは容易に想像できた。


 ──どうすればいい、いったいどうすれば?


 俺はなんとかして、この場を切り抜けることができる妙案がないか考える。しかし、そうしている間にも、彼女の目には不信の色が段々と濃ゆくなっていく。


 そうして決断を迫られた結果、俺はついに答えを告げる。


「俺の名前は工藤アラタ。一条先輩に彼女をた男だ──君に協力を申し出たい」

「へえ……その話、詳しく話してみなさいよ」


 すると彼女は興味深そうに頷いた。



──────────────────



 こんにちは。作者の久保良文です。


 ついに一日一話の更新に執筆速度が追いつかなくなってきました。


 それなので次回からは、あらすじに記載したとおり、不定期更新とさせてもらいたいと思います。ご了承ください。


 なるべくお待たせしないように頑張りたいと思います。


 またあらすじには、更新が滞る可能性があると記載しておりますが、話のネタ自体はまだまだありますので、ご安心ください。


 せめて『ネトリ返す』場面までは更新を途絶えさせずに書きたいと思っております。タイトル詐欺になっちゃいますので。


 面白いと思っていただけたなら☆レビュー等のご評価いただけたら嬉しいです。


 よろしくお願いします。

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