紫end




ーーあの女を犯したい……。



「悪いな、那由多。こんな時間に呼び出して」



初めて、あの女を見た時から、そう思っていた。



「いえいえいえいえ、構いません。全然、構いませんよ。ええ、構いません。やっと……やっと、会えましたね……黒田くん。それで、私に、用、とは、なんで、しょうか?」



それは有り体に言えば一目惚れだったのだと思う。



「まあ、落ち着けよ。んで、これを見ろ」



卑怯で、最低。



『いぇーい!那由多ちゃん見ってるぅ?』



もう、その程度の言葉で済ませるには足りない程に、落ちるに、落ちた。


ただ本能のーー衝動の赴くままに行動した。



「オマエが俺に何かすれば……分かるだろ?村崎があのに手を下す」



やめておけば良かったものを。



「知ってるだろ?俺が何をしていたか、を」



他の手段もあっただろうに。



「…………………………黒田くん」



俺は目的を果たす為に手段を選ばなかった。



「まあ、もう。手遅れなんだけどな。でも、アレをこれ以上、酷い目に合わせたくはないだろう?なんせ、なんの罪もない真っ当に真面目に生きてきたヤツらばかりだ。だからこそオマエは動けない。俺に従うしかない。それが白井那由多の本質だろう?」



どうしてこんな真似をしたのか。



「なんで……こんな、ことを……」



今はもう……後悔はない。



「なんで、か。そんなことは決まってる」



許された。



「那由多。オマエの全てを手に入れる為だ」



許されてしまった。



「俺はオマエの全てが欲しい」



1度、許されてしまった。



「俺はオマエの全てを壊したい」



だから、歯止めが、効かなくなってしまった。



「オマエは、誰よりも何よりも、この世のありとあらゆるモノよりも、美しく、綺麗で、可憐な、至高の女だ。オマケに慈愛に溢れ、人に優しく、正義感が強く、悪を絶対に許さない。その心は真っ白で曇りひとつない純真だ」



何よりも恋焦がれたモノに視界を覆われた。



「そんな至高の存在であるオマエの相手が、ただの小悪党であっていいはずが無い」



聖女の慈愛を踏みにじりたい。



天使の白い羽根をむしり取って汚してやりたい。



女神を犯せるだけの力が欲しい。



だから、こそ、堕ちた。



相対するに相応しい存在になる為に。



思いつく限りの悪事に手を染め、他人の心を踏みにじり、貶めて、辱め、あらん限りの悪虐を尽くした。



そして、これが最後。



「俺はオマエを永遠のモノにしたい」



俺がどうしようもなく惹かれた。



笑顔。



それ以外も全てが欲しい。



「なあ、■■バー■ン■って知ってるか?」










その命さえも。





























「きゃはっ♡それマジでヤッちゃうの?やっばー!ホントイカれてるよねアンタは!」


「オマエにだけは言われたくないな」


「んー、そぉお?まっ、似たもの同士ってことだね?ダーリンっ♡」


「気色悪い呼び方すんな」


「もうダーリンってばつれなーい!ぴえんっ!ーーってか、それ、ホントにアンタに出来んの?初めては好きな子と!なんて脳みそメルヘンみたいなこと考えて練習とかしてないでしょ?ぶっつけ本番でいける?」


「やる。その為の準備は徹底的にした。なにも問題は無い。確実にやり遂げる」


「ふーん……。アンタがそれでいいなら別にいいんだけど。零菜ちゃんには関係ない事だし。好きにすればー?」




途端に興味が失せたのか、つまらそうな表情になる村崎。顔を背けて爪磨きなど始める始末。移り気な奴だ。




「じゃぁ……この生活も、もう終わりかー」




村崎はため息を吐くように言葉を漏らす。




「ああ、もう終わりだ」


「2人で色んなことしたよねー」


「そうだな」


「超たのしかったなー」


「別に俺は楽しくなかったが」


「そっ……。でも、潮時かもね。そろそろ逃げ続けるのも難しくなってきたし。宛にしてた令嬢ちゃんもアレの”家族”に潰されちゃったしねー。もう、この辺には居られないかな」


「なら、もつ観念して豚箱入ってろよ」


「無理無理っー!臭いメシとか食べたくなーいっ!それにもう零菜ちゃんは二度と捕まったりしないし。もうそんなヘマしないから」


「あっさり捕まったことあったな」


「もうっ!ホントそれね!あのチート野郎……今度あったら……って、流石にアレは無理かー。下手に手を出したら痛い目見るし。やめとこー」


「それが無難だな」


「それにね……」


「……?」


「……ねえ。黒田。キスしよ」


「なんなんだ唐突に……」


「いいでしょ?ねっ?」


「今更だろ。勝手にしろ」



黒く濁った瞳が真正面から捉える。


首に回される腕は恐ろしいほど、冷たい。


触れ合う唇と唇。


それは刹那にも満たない一瞬の触れ合いだった。


お互いを貪り喰らうまぐわいは、これまで何度もしてきた。


だが、これは、この一瞬は初めてのことだった。



「じゃーね」



酷くあっさりと村崎は俺から離れて、背を向けて、一言だけ呟くと、その場から消え去った。



村崎とこうして会うことはもう二度と無いだろう。
































「あーあ、黒田、捕まっちゃった」



「あれはもう助からないかなー」



「まっ、助ける義理もないんだけどねぇー」



「黒田ァ……アンタは最悪にイカれたゴミカスだったねっ♡」



「おかげで零菜は、とおっても愉しめたよぉ」



「ありがとねっ」



「それじゃ、零菜ちゃんも行こっかなー」



「捕まりたくなんかないしね」



「それに」



もちゃんと産んであげないといけないしね」



「ああ……」



「零菜ちゃんと黒田の超ハイブリッド!」



「どんな子が産まれるかなぁ?」



「ちゃんとママがになるように育ててあげるからね」



「男の子がいいなぁ」



「名前はぁ……正義って書いてジャスティスくん!なにそれダッサ!ネーミングセンスなさすぎっ!」



「うん。愉しみっ♡」



















おしまい



















continue?



許される/許されない


それとも?


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