32
「服を脱ぎなさい」
「……全部?」
「そうです。脱いだ服は全て渡しなさい」
まだ着ていた制服を脱ぐ。それ含め下着も、着ていたもの全てを白井に渡す。白井の前で裸になるのは今更のことだが、少し居心地は悪い。
「正座」
「……はい」
言われた通りに硬い床に全裸で正座する。
ニコニコと俺から服を受け取った白井は何処からとも無くバカデカい裁ち鋏を取り出した。
「ちょきちょきー」
解体ショーが始まった。
ニコニコ笑顔で可愛らしく呟きながら、白井はハサミで俺の服を丁寧にバラしていった。
その作業は実に丁寧だ。俺の制服が1cm代の布切れへと姿を変えていく。
積み上がる大量の布切れ……それを今度はゴミ袋に詰め込んでいく。ひとつ残らずゴミ袋に詰めて、パンパンに膨れ上がったゴミ袋を手に白井は台所に向かう。
ぶぉー…………。
換気扇のスイッチが入る。
白井は大きめの鍋を取り出し、それを換気扇の下に設置。
ゴミ袋の中に手を突っ込み、布切れをひと握り。鍋の中に入れる。その動作を何度か繰り返す。
さらに鍋の中に食用油が注がれた。
「汚物は消毒です」
白井の手には小さな箱があった……マッチ箱だ。
シャッと擦れる音。白井の手に小さな火が灯る。
そして、その小さな火は鍋の中に投げ入れられた。
「汚い……汚い……。全部、燃やしてしまいましょう」
鍋の口から見え隠れする炎。黒い煙が換気扇に吸い込まれていく。
焚き火に薪をくべるように、ゴミ袋から布切れを取り出して燃やしていく。
何度繰り返したか。ゴミ袋の中身が空となり、全て燃やし尽くした。
水道でコップに水を汲む。それを燃えカスが残った鍋に注ぐ。
ジュワぁー、と水蒸気が換気扇に吸われていく。
そして白井は鎮火した鍋の中に洗剤をそそぐ。
「お洗濯です」
おたまで鍋を掻き回す。くるりくるりとまるで洗濯機の動きのように手を動かして、綺麗になれ綺麗になれと掻き回す。
燃えカスをそんな風にして一体なんの意味があるのか。俺には分からない。分からないが、きっとそれは白井にとって意味のある行動なのだと思う。
白井はニコニコ笑顔のまま取り憑かれたように鍋を掻き回し続けた。
そんな白井を俺は正座をしたまま眺めていた。
やがて満足したのか白井は手を止めて俺を見た。
「次は……黒田くんの、お洗濯の番ですね?」
ニッコリ、と。
その奇行とはかけ離れた素敵な表情で微笑む。
ドロリ、と。
白井の手に握られたおたまからドス黒い液体がこぼれ落ちた。
ネットリ、と。
熱い吐息を漏らしながら白井が俺の元までやって来る。
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