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あっさりと捕縛された村崎。


完全に村崎に逃げられる流れかと思っていた。


そして、これから継続的に村崎にちょっかいをかけられるのかと頭が痛くなってきたところだった。


しかし、そうは問屋が卸さない我らが女神様である。


鈴木くんという予想外の伏兵を仕込んでいた白井に軍配が上がった。


そも、俺はともかくとして白井にすら捕らえきれなかった村崎をあっさり捕獲してくる鈴木くんが端的に言ってヤバい。かなりの理不尽を感じる。


鈴木くんが何者なのかという疑問も当然ながらあるが、それ以上に白井と鈴木くんがどういう関係なのかも気になるところだった。



「鈴木くんは弟です。今回は『お仕事』という形で依頼しました。いくら身内だからとはいえ公私はしっかりと区別しないといけませんからね。だから”鈴木くん”です」



弟ね……。苗字が違うが?


まぁ、今のご時世、姉弟で苗字が違うことはそう。白井の家庭環境も色々と入り組んでいるのだろう。


俺が学生で一人暮らししているのだって、変則的な家庭環境による理由だ。



白井の言う通りに鈴木くんが血縁にあるというのなら、それはそれで納得する部分もある。


両者共に絵に書いたような理不尽。


なるほど……。なるほど?


深くは考えまい。白井の血族はいろいろとバグっているのだと、そう結論づけた。











先の一幕は昼休みのことだったので当然ながら午後の授業が残ってはいたが、白井が「帰る」と言ったので大人しくそれに付き従う。


女神様の神託は絶対遵守である。異論は認めるが死を覚悟するように。


白井の肩に担がれた簀巻きの村崎。


最初こそ拘束から抜け出そうと抵抗していたが今は大人しくなっている。逃げられないことを悟り無駄な体力を使うのをやめたのであろう。



「…………zzz」



コイツ……まさか寝てんのか?嘘だろ。この状況で寝られるとか、どういう神経してるんだ……。つくづくふざけた女だ。一発、スヤスヤしてる寝顔にビンタしてやりたい。


まあ、白井以外の女性に触ると白井に何されるか分かったもんじゃないからヤラないけど。


判断基準は全て女神様のお気に召すまま。着々と飼い慣らされてる気がした。




程なくして自宅へと帰ってきた。



「黒田くんは部屋で待っててください。ちゃんと大人しく良い子にして待ってるんですよ?私はちょっと悪い子の教育をしてきますね」



そう言いながら白井は村崎を担いだまま俺の部屋の隣の部屋の扉の鍵を開けて中に入っていってしまった。



「…………」



いや待て……。


なんか当然のように隣の部屋に入っていったんだけど……そこ、何?


隣の部屋に誰が住んでいたとかは知らないが、それが白井で無かったことだけは確かだ。元から白井がお隣さんだったのなら流石に気がつく。


まさか借りたのか?白井のヤル事があると言ってたのはコレ?わざわざ俺の隣の部屋を借りたのか? その目的は?意味が分からない。


でも、まあ。女神様の崇高なる思想を下層下民の俺に理解しろというのが無理難題。思考放棄安定。



難しい事は考えず、言われた通りに自室で良い子して待ってよう。













ーー数時間後……。




「黒田くん!良い子にして待ってましたかー!?」



雲ひとつない澄み渡る晴天のような満面の笑みの白井が来た。


当然ながら俺の部屋に入る際にチャイムも無ければノックもしない。完全にココを自宅だと思い込んでると思われると予想されるというか確実にそう。


ちょっとと言いつつ数時間。


すっかり夜も更けて深夜に片足突っ込んでいる時間帯。


教育……長かったな。


満足気な白井。


んー……?なんか頬に赤い染みついてないか?いや……気の所為だな。うん。気の所為だ。



村崎は……無事では無いだろう。



五体満足かすら怪しい。いや知らんけど。知らんけども。この部屋はわりと防音対策がしっかりしていて隣の部屋の物音はほぼ聞こえない。聞こえないのだが。この数時間で怨霊の呻き声みたいな音が何度

も聞こえた気がした。この部屋、事故物件では無かった筈なのだが……おかしな話である。不動産会社にクレームを言いに行こうか。何故、俺の隣の部屋を白井に貸し出したのかと、主にそこら辺のクレームを入れたい。あとお祓いも頼みたい。恐らく今日から隣の部屋でメスガキの悪霊が発生するようになると思う。早く地獄に送ってやろう。地獄に天使は居ないだろうから危険は少ない筈だ。



せめてもの情け。





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