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「…………ッ!上かッ!」



突然の事であった。


俺を煽り散らかしていた村崎が急にバク転をしながら後方に飛び退いた。……えっ?なに急に雑技団みたいな動きしてんの?


動揺する俺に解答を示すようにソレは降り注ぐ。村崎が居た場所を追うように地面にタタタンと連続して棒状の何かが突き刺さった。


地面に突き刺さる棒状の何かーーそれはよくよく見ると銀製のナイフだった……。


呆気にとられる俺。


しかして間を置かず上空より天使は舞い降りる。



「外してしまいましたか」



ニコニコしながら残念そうに呟いて、ふわりっと華麗に地面に降り立ったのは、紛うことなき大天使……白井だった。



……………………。



…………いやいや。どうしてそうなった?



理解が追いつかない。意味が分からない。登場するにしたって、なんで空から降ってきたの?どういうことなの?



「もぉー!急に刃物をぶん投げて来るなんて危ないじゃん那由多ちゃぁーん!信じらんなーい!零菜だったから避けられたけど、普通の人なら串刺しだよっ?当たってたら大ケガしてたよぉ?もうっ、ホント危ないからやめてよねー!怖い怖ーいっ!」


「減らず口が過ぎますよ。えっと……村崎さん……?でしたか?仕留めるつもりで投げたのですが、アレをよく避けましたね。褒めてあげます!偉い偉いっ!」



ニコニコと満面の笑みを浮かべる白井。


ニヤニヤと満面の笑みを浮かべる村崎。


その2人が、今、邂逅を果たし、相対する。



「そうそうっ!零菜ちゃんはとっても偉くて賢くて可愛いいのっ!那由多ちゃん分かってるぅー!さっすがみんな大好き天使様だねっ!……でっ?そんな天使ちゃんがボクになんの用なのかな?零菜、今、仲良しでイチャイチャラブラブな黒田きゅんと愉しく遊んでる所なんだけど?邪魔しないで貰えるかなぁあッ?」


「何を勘違いしているのかが全く分からないのですが……。黒田くんは私のモノです。村崎さんとは仲良しではありません。黒田くんは私のモノです。黒田くんに近づかないで貰ってもよろしいでしょうか?いえ、黒田くんは私のモノなので村崎さんは黒田くんに近づかないでください。黒田くんに触らないでください。黒田くんに話しかけないでください。黒田くんを見ないでください。黒田くんは私のモノです。ご理解頂けますね?ご理解頂けたのなら即刻この場から消え失せて下さい」


「えっ?えっ?えぇえっ!?なにそれなにそれなにそれっ!超面白いんですけどッ!那由多ちゃんめちゃくちゃ拗らせちゃってるじゃんっ!黒田連呼しすぎでしょ!独占欲強すぎてキッショぉっ!なんで?なんで?なんで?なにをどうしたらそんな風になっちゃうのなんで?なんの面白味もない糞つまんない女だと思ってたのに!なんでそんなオモシレー女になっちゃってるの!?そんこんとこ零菜に詳しく聞かせてよぉ!ねぇねぇえ!いいでしょお?零菜とたくさんお話ししよーよぉ!」


「お断りです。村崎さんと話すことなど何一つありません。そろそろその小煩い口を閉じて貰ってもよろしいでしょうか?さっきから村崎さんの神経を逆撫でする甲高い声を聞いていますと頭が痛くなってきます。閉じられないと言うのなら私が縫い止めてあげますよ?今後、一生、その口が開かないように完璧に封じてあげましょう。ついでに鼻も塞いで呼吸も出来ないようにしてあげましょうか。そうですね。それがいいです!村崎さんはとても五月蝿いので呼吸を止めてついでに心音も止めてください。そうすれば少しは静かになるでしょう?」


「ええっー!?やだァー!そんなことしたら零菜死んじゃうよォ!ぴえんっ!天使ちゃんは零菜に死ねっていうの?酷いよぉー!」


「そう言ってるんです。足りない頭でも少し考えれば分かることでしょう?それともそんな簡単なことも分からないぐらいに村崎さんの脳みそは空っぽなんでしょうか?」


「そうだよぉー?零菜の頭の中にはなーんにも入ってないのぉ。ほらっ、こうして振るとぉ。からからーからからー!はい、なんにも入ってませーん!だから零菜ちゃんは天使ちゃんの言うことなんにもワッカりまっせーんっ!残念でしたー♡きゃはははっ!」


「そうですか。それはとっても残念ですね。うふふふっ」



ツッコミ所が多々ありすぎるが、兎にも角にも場の空気がクソほど重たい。バチバチと笑顔でやり取りする2人が放つプレッシャーに押し潰されそうだ。


幻覚も見えた。白井の背後にはフルプレートアーマーで完全武装しバカデカい肉切り包丁を持った大天使が見えるし、村崎の背後にはガリガリにやせ細ってはいるが異彩を放つ複数腕に多種多様な凶器を手にした大悪魔が見える。



ーー聖魔大戦争……。



いや、バトル漫画じゃないんだから…………。



そんな戦火の中心で俺はビクビクと震えることしか出来ない。



……そろそろ電流止めて欲しい。



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