27
「落ち着きなよ黒田。教室で暴力なんて不味いでしょ?今ならまだお遊びでしたーってことで済むよ?冷静になりなよ。アンタはすーぐ頭に血が昇っちゃうんだから。まっ、そこがアンタのからかいがいがあるとこなんだけどねー」
「このッ……いけしゃあしゃあとッ……!」
「これぐらい何時ものことでしょォ?それにアンタじゃ零菜のこと絶対に捕まえらんないんだから。それはアンタがよーく分かってることなんじゃなーい?」
「ぐっ……!」
飄々とした態度の村崎。
この女は無駄に感が良く、無駄に身体能力が高く、無駄に逃げ足も速い。これまで何度も煽られてキレて捕まえようとしたことは多々ある。だが、ただの一度も俺はコイツを捕らえられたことは無かった。かかる労力は全て徒労に終わる。
そうだ。落ち着け。痛みと糞ウザい村崎の言動に冷静さ失っていた。まんまとこの女の手のひらの上で踊らされていた。これでは思う壷だ。
「ふぅーーー…………」
「はぁい。そおそお。深呼吸、しんこきゅー……。あっ、やっぱりヤメヤメ!くっさぁーい!黒田の息くっさぁーい!ちょっとぉ!そんな激臭ガス撒き散らさないでよォー!大気汚染はんたーい!そんな細菌兵器撒き散らされたらここら一帯が雑草も生えない不毛の地になっちゃうでしょお?環境破壊サイテー!もうっ、息するのやめてよおー!」
「村崎テメェッ!やっぱりブチ殺してやるッ!」
冷静になんかなれるかッ!このバカがッ!とっ捕まえて鉄拳制裁だ!顔面ボコボコに腫れ上がるまでぶん殴ってやるッ!
精神が、怒りが肉体を凌駕する。流れる電流の痛みも何のその、俺は村崎に猛然と襲いかかった。
「はいはい。ザコザコー!零菜ちゃんが黒田なんかに捕まるわけないじゃーん!ほらほら悔しかった捕まえてみなよー!きゃはははっ!」
「このクソガキがッ!」
神経を逆撫でする甲高い笑い声を上げながら、村崎はひらりひらりと俺の手から逃れる。
畜生ッ!分かってたことだがまったく捕まらないッ!ホント腹立つなこのメスガキィッ!
ここが教室であることなどとうに忘れて村崎を追いかけ回した。この騒ぎになんだなんだと人が集まり始める。
「そろそろ先生きちゃうかなー?まっ、なかなか愉しめたし。今日はこのぐらいにしといてあげよっかなっ!それじゃあ黒田。また遊んであげるから楽しみに待ってるんだぞっ♡ばいばーいっ」
「二度と来んなッ!」
村崎は去り際にあざとく投げキッスをしてからバックれた。最後の最後まで癇に障るヤツだ。次、会ったら今度こそヤツの顔面に拳をめり込ませてやる。
村崎が去った後の教室。嵐の後の静けさ。その中で騒動の中心であった俺に視線が集まっている。
……嫌な空気だった。それも無理は無いことだが。
一先ず村崎が去ったことで電流は止まリ痛みから開放された。しかし、このまま教室に居るのはシンドいな。
俺はいたたまれなくなって白井から持たされた弁当を片手に逃げるように教室から出た。
◇
「やっほー黒田!零菜ちゃんが遊んであげに来てあげたぞっ♡」
「また来るの”また”が早すぎるんだが?」
人目につかない場所で白井のとりあえずなんか白い弁当を食べていると、ついさっきバックれたはずの村崎が性懲りも無くまた姿を見せた。神出鬼没か。
「再登場のタイミング早すぎだろ。これまた後日出てくるパターンだと思うんだが?」
「はああ?そんなの零菜には関係ないでしょ?零菜は自分のヤリたいことをヤリたいと思った時にヤリたいよーに愉しくヤルのっ。零菜は自由なのっ。零菜は誰にも縛られたりしないのっ。首輪付けられて監視されてるような飼い犬くんとは違うの」
三日月形に口元が歪む。ぐっと村崎の顔が眼前に迫り、まるで全てを見通しているかのような赤黒い瞳が俺の瞳を覗き込む。
心の内側まで覗き込まれているような不快感に吐き気がする。それとついでにまた電気ビリビリし始める。勘弁して欲しい。
「ってか、なに?なんで黒田こんなところでボッチ飯してるわけ?友達いないの?寂しいね?悲しいね?哀れだね?恥ずかしいね?情けないね?でも仕方ないね?黒田みたいな臭くてキモくてブサイクなんかと友達になる人類なんて存在しないもんね?まともに相手されないもんね?こうして相手してくれるの零菜だけだもんね?しょうがないから零菜がお友達になってあげようか?月謝は1億円ねー!マジそんぐらいじゃないと釣り合い取れないからちゃんと払ってねー?」
「お呼びじゃねえ。何しに来たんだよオマエ……もうどっか行けよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます